おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

見てるだけでかゆくなる……! 繊細な技術で作られた「蚊」の立体標本

 梅雨から夏にかけての季節、そろそろ頭を悩ませるのが蚊による虫刺され。人によっては、あのプ~ンという羽音を聞いただけで体のどこかがかゆくなる、ということもあるようです。

 私たちを悩ませる蚊ですが、見つけたら反射的に叩いたり駆除してしまうため、その姿を詳しく観察した人は少ないかもしれません。刺される危険なく、じっくり観察できる蚊の立体標本を山崎理さんがTwitterに投稿しました。

  •  山崎理さんが手がける立体標本は、ピン留めされた通常の昆虫標本と違い、生きている時の様子を再現するように作られたもの。動物の剥製に近く、体の各所を様々な角度から観察できるという利点があります。

    オナガアゲハの立体標本(山崎理さん提供)

     立体標本を作るようになったきっかけをうかがうと、昆虫標本や昆虫グッズの展示即売会「インセクトフェア」で蝶の標本を購入した際、自然な姿をした標本が欲しくなったそうです。そしてたどりついたのが「自分が求めていたものは世になかったので、自分で作るほかない」という結論。

    ミヤマカラスアゲハの立体標本(山崎理さん提供)

     研究を重ねつつ、立体標本作りに取り組んで2年8か月になるという山崎さん。今では雑誌に作品が掲載されるなど、著名な立体標本作家となりました。

    クロオオアリの立体標本(山崎理さん提供)

     生きていた時のような姿を実現するため、自然なポージングにするのが特に難しいとのこと。生きている時は昆虫自身の力でポーズを維持できますが、標本の場合はバランスを考慮し、体の各パーツを自然に見えるよう最適な位置にしなければいけません。調整は非常にデリケートな作業です。

    生きているかのような自然なポージング(山崎理さん提供)

     完成した標本は、腐敗など外的要因から保護するため、窒素を充填した透明アクリルケースに入れられます。昆虫は各パーツが壊れやすい上、ピン留め標本と違って強い支持体が存在しないので、長く楽しめるよう工夫されています。

    長期保存ができるよう窒素充填したアクリルケース入り(山崎理さん提供)

     今回、Twitterに投稿された蚊は、俗に「ヤブ蚊」と呼ばれるヒトスジシマカ。ヤブカ属の代表的な種で、黒い体で腹部や脚部に白い縞模様があり、胸上部に1本の白い縦筋が外見状の特徴です。

    ヒトスジシマカ立体標本のツイート(スクリーンショット)

     この立体標本で1番の問題となったのが、その大きさ。体長はおよそ10mm弱で、繊維のように細い3対の長い脚は簡単に破損してしまいます。

    標本の大きさは10mmほど(山崎理さん提供)

     体が小さい分乾燥も早く、乾燥すると各部の強度が落ちて破損しやすくなるため、立体標本作りは時間との戦いだったといいます。さらに「触っただけで脚が取れることもあるため、ソフトタッチでポージングしていくことに精神を消耗しました」と、手早さと丁寧さを両立させるという、非常に困難な作業だったようです。

     完成した標本を見ると、とまった時に1対の脚が接地せず上に跳ね上がる、ヒトスジシマカの特徴的な姿をよく表しています。頭部を見ると伸びた口吻や、脚よりさらに細い触角までもきれいに表現。

    細い触角までも壊さず標本化(山崎理さん提供)

     人間の肌の上に置いてみると、今にも血を吸い始めようとする姿に見えてきます。反射的に叩いてしまいそうになるほどリアルなポージングです。

    手に置くと血を吸われているようにしか見えない(山崎理さん提供)

     山崎さんの立体昆虫標本は、時折ヤフオクなどに出品されることがあるほか、Twitterでのプレゼント企画も実施しています。公式サイトでは昆虫標本だけでなく、本業のグラフィックデザイナー、フォトグラファーとしての作品も多数掲載されています。

    <記事化協力>
    山崎理さん(@yamazaki_design)
    ※山崎さんの「崎」は、正確には「たつさき」です

    (咲村珠樹)

    あわせて読みたい関連記事
  • 見える見える……木目に現れた“ひろゆき”に本人も反応「気付いてしまいましたか」
    インターネット, おもしろ

    見える見える……木目に現れた“ひろゆき”に本人も反応「気付いてしまいましたか」

  • 整列した脱け殻眺めながらほっとひと息…8才息子のセミ愛が炸裂する家
    インターネット, おもしろ

    整列した脱け殻眺めながらほっとひと息…8才息子のセミ愛が炸裂する家

  • 「見ざる・言わざる・聞かざる」を物理的に再現!1人で3猿をこなせるマスク
    インターネット, おもしろ

    「見ざる・言わざる・聞かざる」を物理的に再現!1人で3猿をこなせるマスク

  • もしも「食べられるガラス」があったら? アクリル製のリアルな“試作品”
    インターネット, びっくり・驚き

    もしも「食べられるガラス」があったら? リアルな“試作品”を美大生が製作

  • 数式を組むとシーラカンスが浮かび上がる?実在しない「シーラ関数」が話題
    インターネット, おもしろ

    数式を組むとシーラカンスが浮かび上がる?実在しない「シーラ関数」が話題

  • わーおしゃれなTシャツ……かと思いきや?夫が繰り出した斜め上の愛情表現
    インターネット, おもしろ

    わーおしゃれなTシャツ……かと思いきや?夫が繰り出した斜め上の愛情表現

  • アスキーアートは手打ちで作れる!?まさかの方法で生み出される「モナー」
    インターネット, おもしろ

    アスキーアートは手打ちで作れる!?まさかの方法で生み出される「モナー」

  • ジュラシックなフタ押さえ!モササウルスが割り箸をくわえてカップ麺をガード
    インターネット, おもしろ

    ジュラシックなフタ押さえ!モササウルスが割り箸をくわえてカップ麺をガード

  • 傘立てから伸びる黒い手の正体は傘 「一瞬でどこにあるか分かる」
    インターネット, びっくり・驚き

    傘立てから伸びる黒い手の正体は傘 「一瞬でどこにあるか分かる」

  • 雪の上を歩いて描いた地上絵、現れたのは巨大な海の生き物たち
    インターネット, おもしろ

    雪の上を歩いて描いた地上絵、現れたのは巨大な海の生き物たち

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 「ウォーキング・デッド」特化オークションが初開催 総額3億円超の落札集まる
    エンタメ, 映画

    「ウォーキング・デッド」特化オークションが初開催 総額3億円超の落札集まる

  • ヤマト運輸、「当日配送サービス」開始 同一都道府県内運賃も新設
    企業・サービス, 経済

    ヤマト運輸、「当日配送サービス」開始 同一都道府県内運賃も新設

  • 嵐・四宮社長が偽アカウント多発に注意喚起 「来年のツアー用新アカウントの予定もなし」
    エンタメ, 芸能人

    嵐・四宮社長が偽アカウント多発で注意喚起 「来年のツアー用新アカウントの予定も現…

  • カレーシチューに、フレンチサラダ、本当にまずかった脱脂粉乳他(2300円)
    イベント・キャンペーン, 経済

    昭和の“たのしい給食”が期間限定で復活 脱脂粉乳まで再現した「絶滅危惧食フェア」…

  • 新商品「うまかっちゃん<濃厚新味 あごだしとんこつ>」
    商品・物販, 経済

    焼きあごの香ばしさと細カタ麺の共演 「うまかっちゃん<濃厚新味 あごだしとんこつ…

  • 北海道産のチーズを2種類使った秋冬限定フレーバー「かっぱえびせん 北海道Wチーズ味」
    商品・物販, 経済

    北海道産チーズのW使い!「かっぱえびせん 北海道Wチーズ味」がこの秋登場

  • トピックス

    1. 汗冷え対策は「ヒートテックの下にエアリズム」 ユニクロ公式発の裏ワザが再び話題

      汗冷え対策は「ヒートテックの下にエアリズム」 ユニクロ公式発の裏ワザが再び話題

      屋内と屋外で寒暖差が大きく、着る服に悩みがちなこの季節、SNS上で「エアリズムの上にヒートテックを着…
    2. 「ドラクエ7リメイク」にキーファ再会エピソード追加 衝撃展開にSNSでは「恨み節」も

      「ドラクエ7リメイク」にキーファ再会エピソード追加 衝撃展開にSNSでは「恨み節」も

      2025年11月12日午前7時に配信された「State of Play 日本」にて、「ドラゴンクエス…
    3. アカウント1の投稿

      【前編】それでも私は、書くことを選んだ―― Temu不審アカウントに挑んだ無名記者の記録

      ある日の調査作業の過程で、SNS「X」上において、急成長中の越境EC大手「Temu」のサポート担当を…

    編集部おすすめ

    1. 床掃除はおまかせ!「モップ機能つき生ルンバ」と化すビションフリーゼがかわいい

      床掃除はおまかせ!「モップ機能つき生ルンバ」と化すビションフリーゼがかわいい

      頭をぐりぐり動かしながら、床の上を滑っていく1匹のワンちゃん。飼い主さんが「モップ機能つき生ルンバ」と呼ぶビションフリーゼ・せとくんの動画が…
    2. 工場労働者2138人、1万時間の作業映像をオープンソース化 ロボット向け学習に活用

      工場労働者2138人、1万時間の手作業映像をオープンソース化 ロボット向け学習に活用

      工場向け自動化ロボットの研究開発を行うテクノロジー企業、Build AIが、工場労働者2138人による合計1万時間の作業映像をオープンソース…
    3. お菓子の家……ならぬ「つまみの家」誕生 お酒が進むオトナの創作料理

      お菓子の家……ならぬ「つまみの家」誕生 お酒が進むオトナの創作料理

      「解体しながら飲む」が合言葉。童話でお馴染みの「お菓子の家」を、そのまま大人向けに置き換えたような、その名も「つまみの家」がXに登場しました…
    4. 作業でたき火を燃やす新感覚クリッカー「たき火と猫」登場 癒やしと集中を両立するチル系ゲーム

      作業でたき火を燃やす新感覚クリッカー「たき火と猫」登場 癒やしと集中を両立するチル系ゲーム

      作業中に「猫」と「たき火」の癒やしを感じながら集中できる……そんな新感覚のゲーム「たき火と猫」のSteamストアページが公開されました。本作…
    5. アカウント1の投稿

      【後編】それでも私は、書くことを選んだ―― Temu不審アカウントに挑んだ無名記者の記録

      ※この記事は前編からの続きです。前編では、Temuを名乗る複数のアカウントを調査する中で見えてきた構図をお伝えしました。ここからは、Temu…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト