今はもう会えなくなった人。でも、ちょっとしたことをきっかけに、その人の思い出がよみがえることもあります。
亡き父が朝の出勤前に描き続けた草花のスケッチ。それは、母が庭で丹精込めて育てていたものでした。夫婦の優しい絆を感じさせるエピソードです。
亡き父が描いた草花のスケッチをTwitterに投稿したのは、大学教授の三谷純さん。スケッチは片手で扱いやすいA5サイズのスケッチブックに描かれており、300枚ほどになるといいます。
描かれているのは、バラやスイセン、シクラメン、ヤマユリのような名を知られた花もありますが、ブルーサルビアやランタナ、ナデシコにアザミといったものまで多種多様。またグミやセンリョウのように、花ではなく実が描かれたものもあります。
三谷さんに話をうかがうと、これらのスケッチは今から20年ほど前、三谷さんのお父様が毎朝の出勤前に庭の花を描いていたものとのこと。「庭は全然広くないのですが、母は珍しい植物が好きで、色々な種類のものを育てて花を咲かせていました」と話してくれました。
「私自身は、そんなに頻繁に実家へ帰省するわけではなかったので、実際に見る機会はあまりありませんでしたが、あらためて、父はよくこれだけ継続して描いてきたものだと思います」
300枚あまりのスケッチを毎朝描いていたということは、この花々は「我が家の庭を彩る1年の植物誌」という性格も帯びてきます。妻が庭で愛情込めて花を育てている様子を知っているからこそ、スケッチとして残しておきたいと思ったのかもしれません。
デジタル化したことでコントラストが強まった面があるようで、三谷さんによると「画像として見るよりも、実際はもう少し柔らかい感じ」なのだそう。その色調は、花をいつくしむ眼差しを思わせますね。
たくさんの花を育て、それがスケッチとして残されることで、夫婦の間にはある種のキャッチボールが行われていたのかも。互いにどのような気持ちだったのかは知るべくもありませんが、残された絵のタッチからは「よく綺麗に咲かせたね」という、花と妻に向けた想いが伝わってくるようです。
三谷さん自身は大学で教鞭を執るかたわら、数理解析によって立体的な形を1枚の紙で折るというソフトウェアを開発し、幾何学的な折り紙を設計・制作する研究を続けています。これまで多くの作品が生み出され、立体折り紙アートの著書も複数刊行されています。
亡き父が残したスケッチを目にし、三谷さんは「父のように何かを残していければいいなど、あらためて思いました」と語ります。父のスケッチと子の折り紙、ジャンルは違えど、素敵な花を咲かせている点では、同じなのかもしれません。
父が生前に描いた花のスケッチが出てきた。
せっかくだからお披露目します。母が庭で育てていた植物を朝の出勤前に描いてて、全部で300枚くらいある。
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— 三谷 純 Jun MITANI (@jmitani) June 27, 2022
<記事化協力>
三谷純さん(@jmitani)
(咲村珠樹)