1枚の紙から切り出される繊細な切り絵。細い描線や細かな模様を切り出すには、デザインカッター(デザインナイフ)が使われることが多いのですが、ハサミ切り絵作家なつめみちるさんの作品は、すべて1本のハサミから生まれます。
複雑な生い立ちのなつめさんは、中学卒業後に独学で絵を学び、アートの道へ。イベントに参加するなどして活動を続ける中、ハサミ切り絵に出会ったのは2013年のことだといいます。
ハサミ切り絵に魅せられ、自らの活動ジャンルをこれ1本に見定めたなつめさん。以来、ハサミ切り絵作家として数々の作品を生み出してきました。
使う道具は切り絵専用のハサミ1本のみ。細かい作業ができるよう、小さく刃先の細い独特のものです。用紙も一般的なコピー用紙よりも薄く、表が黒、裏が白という切り絵専用。ハサミを扱う関係で、片手で持てるA4判程度までの大きさに限られるそうです。
初期は切り絵らしい、モノトーンのコントラストが強い作品がメインだったそうですが、徐々に中間色を表現したくなり、トーンの変化を細密な模様で切っていくようになりました。細かな表現はハサミの細い刃先を突き入れ、小さく切り抜くことで可能にしています。
作品は、資料を集めたり構図を決めたりなど下絵に1か月ほど、切る作業ではA4サイズの作品で100時間を超えるとのこと。カッターと違って机に置いての作業ができず、紙とハサミをそれぞれの手に持つことになるので、かなりの集中力も必要になりそうです。
お気に入りのモチーフは、どちらかというとリアル寄りの動物なのだそうですが、ドラゴンや神使といった空想の生き物も好きなのだとか。模様が細かく入るので、見る方からはファンタジー寄りのイメージを持たれているようだ、とも語ってくれました。
最近の大作で1番のお気に入り、と紹介してくれたのは、王冠をいただいたカラス(八咫烏)と菊の花をモチーフにした作品「真実」。タイトルの由来は菊の花言葉だそうで、カラスが黒くなったのは、綺麗な色をあれもこれもと欲張って混ぜてしまったからだ、という逸話も下敷きになっているといいます。
また、小品で示してくれたのは、タンポポの綿毛が飛んでいく様子を表現した2枚1組の作品。先に額を見て、それに合わせて構想を膨らませて切ったものだそうです。
繊細な表現に目を奪われてしまいますが、どれくらい細かくハサミで切れるものなのでしょうか。うかがってみると、試しに切ってみた、というゴマ粒ほどの花とイノシシの切り絵を見せてくれました。
このほかにも、米粒ほどの雪の結晶に、「雪」という漢字まで。ハサミの先が非常に細いとはいえ、その気になれば非常に細かいモチーフまで切れるようになるのですね。
なつめさんの作品は、7つの国からなる架空世界「alles(アレス)」を舞台にした物語という、もう1つの側面も持っています。先ほどのカラスをモチーフにした「真実」を例にとると、こんな感じ。
カラスの羽には魔法の力が宿っていて、抜け落ちた羽を拾って魔法のペンを作っている魔道具屋がいます。そのペンで魔法陣を描けば、魔法使いでなくとも1度だけ、魔法が使えるのだとか。
一見バラバラに見える作品も、すべてがallesを舞台にした物語として再構成できると聞くと、作品単体だけでなく、並んでいる複数の作品が関係した物語も想像できそうです。作品を見る際の楽しみも増えてしまいますね。
切り絵には色とりどりの紙を使った作品も多くありますが、なつめさんは「モノクロ」で作ることを決めているのだといいます。モノクロでありながら、見た人が色を想像できる作品を目指しており、見た人の中に色のイメージが残ることで作品は完成する、とも語ってくれました。
画像だけでなく生で作品を見る機会をうかがうと、愛知県尾張旭市の「GALLERY龍屋」にて2022年9月10日〜9月24日のスケジュールで開催予定のアートコンペ「オトナノタツコン」に出品予定とのこと。ハサミ切り絵を広める活動もしており、愛知県春日井市の高蔵寺中日文化センターでハサミ切り絵の講座も開講しているそうです。
なつめさんの作品は、愛知県尾張旭市と東京都にギャラリーを構える「GALLERY龍屋」を通じて販売もされています。また、作品をモチーフにしたグッズもBOOTHにて販売中。公式サイトには作品の世界であるallesの紹介なども掲載されています。
おチビがいるので思うような1人時間が取れませんが、毎日少しずつでも前進できるように努力しています。
ひとりでも多くの方に見てもらえたら嬉しいです。
ステキなタグありがとうございます。 pic.twitter.com/Z0p3qhssLg
— なつめ みちる@ハサミ切り絵作家 (@chiru6x6) July 9, 2022
<記事化協力>
なつめ みちるさん(@chiru6x6)
(咲村珠樹)