おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【レッドブル・エアレース】室屋義秀選手2016年シーズン報告会

強風の為、予選・決勝とも中止となり、観客側からすると少々不完全燃焼で終わった最終戦ラスベガス大会から約2週間。室屋義秀選手がレッドブル・エアレースの2016年シーズンを振り返る報告会が、室屋選手のホームグラウンドである福島県の「ふくしまスカイパーク」で行われました。

  • 【関連:レース機に使われているテクノロジーがすごいんです!】

    ■2016年シーズンを振り返る

    2016年は「進化をした部分と、歯車が噛み合わなかった部分とがあったシーズン」だったという室屋選手。年間ランキングは、2015年と並ぶ自己最高タイの6位でしたが、昨年は「後半追い上げていった結果、6位に届いた」という感じだったのに較べ、今年は機体やチームのポテンシャルが向上し「後半噛み合わず、結果の出ないことが続いたのに6位にとどまった」という印象だと振り返りました。自信とともに「もっと上に行けるはずなのに」という悔しさもにじむ6位だったようです。

    室屋義秀選手

    今シーズンのハイライトといえば、第3戦千葉大会での初優勝でしょう。参戦しているパイロットの誰もが夢見る、母国大会での優勝(現役パイロットではチャンブリス選手と2人のみ)という劇的なものでした。この時は2009年の同期デビュー組(ドルダラー選手、ホール選手、マクロード選手)が、我が事のように喜んでいました。結束の強いことで知られる2009年組の4人。第2戦のシュピールベルクでのドルダラー選手初優勝に続き、室屋選手が千葉で勝ったことで、全員が優勝経験者になりました。これからは彼らがレッドブル・エアレースの主役となっていくことが期待されています。

    千葉での優勝後、今シーズンの目標となっていた「年間3位以内」へ加速……とファンの期待も膨らみましたが、ここから一転して苦戦が続きます。予選ではトップを取るなど好調さを維持しているのですが、なかなか決勝で勝ち進めません。

    「一発勝負の予選は好き」という室屋選手。レースとなると今年は気象条件が悪くなったり、様々な要素が絡んで、時にトリッキーな展開になることがあり、それに翻弄された面がありました。

    誰よりも速く飛ぶという予選とは違い、ノックアウト(対戦勝ち抜き)形式の決勝では絶えず無理して100%を出す必要はなく、組み合わせや対戦相手の出方に応じて「相手よりわずかでも速く飛べばいい」という戦い方になる為、その調整がうまくできなかったことが原因であり、反省材料だったと分析していました。予選のように全開でいくのが好きだけども、それでは勝ち進んでいけないので、もう少し精神的に余裕を持ってレースを進めていかなくてはいけない、と来シーズンを見据えていました。

    トラックの好みとしてはテクニカルな方が好きだという室屋選手ですが、機体はむしろスピードの乗りやすい仕上がりになっている為に、ハイスピードなトラックの方が有利に働きます。その弊害としては、オーバーGを誘発しやすいということ。同じ動きならば速度の速い方がGが大きくなるので、他の選手の機体では大丈夫でも、室屋選手の機体では速度が出すぎてオーバーG……ということもある訳です。ハイスピードとテクニカルな要素が融合したトラックが理想なのですが、今年の千葉のトラックがまさにそれ。勝利の前提が整っていたんですね。

    室屋義秀選手02

    今年を最後に2014年の年間王者、ナイジェル・ラム選手が引退しましたが、来年チーム・ブライトリングから参戦するミカ・ブラジョー選手は、若くしてエアロバティックス(曲技飛行競技)の世界王者にもなった経験のある優秀なパイロット。「正直ビビっている」と冗談めかして語った室屋選手ですが、来年の目標は「総合優勝」。すでに来年に向けて、機体の改修は最終段階に入りつつあるとのこと。期待しましょう。

    ■迫力のデモフライト

    この後、室屋選手によるデモフライトが行われました。使用機はブライトリングカラーのエクストラ300L。

    デモフライトに向かう室屋選手

    デモフライトに向かう室屋選手

    雨雲が近づきつつある悪条件でしたが、様々なエアロバティックスの技を披露してくれました。

    使用機はブライトリングカラーのエクストラ300L

    使用機はブライトリングカラーのエクストラ300L


    ストールターン(ハンマーヘッド)

    ストールターン(ハンマーヘッド)


    手を振りながらのナイフエッジローパス

    手を振りながらのナイフエッジローパス


    デモフライト終了直後

    デモフライト終了直後

    デモフライト終了直後、雨が。空も待ってくれたようです。

    ■室屋選手単独インタビュー

    報告会終了後、室屋選手にお話を伺いました。

    ヨーロッパラウンドから、主翼にボルテックスジェネレータ(空力的に良好な結果を得る為にわざと気流を乱す突起物)を装着して試していましたが、実戦投入はされませんでした。ボルテックスジェネレータのメリットはいくつかありますが、狙いはどこにありましたか?

    「(主翼外側となる)エルロン側の失速特性をよく(失速しないように)したりとか、プロペラ後流(プロペラから発生するらせん状の気流で、機体を回転させ、姿勢を乱す原因ともなる)などの影響を排除し、主翼にかかる力のバランスを取ろうと思って試してみたんですが、トラックで飛んで精密なデータを取ってみたところ、いまひとつ効果がハッキリしない……ということで、実戦には投入しませんでした。操縦のフィーリングにも差が出てくるんで、確実性を重視したんですね。タイムが出たとしても、操縦感覚に変化があると、そちらの要素でタイムを落としてしまうので。その辺のいろんなバランスの結果、実戦投入せず、ということにしました」

    来年に向けての改修ポイントについて教えてください

    「今年はちょっと時間がないので、全体のクリーンナップがほとんどですかね。あとはエンジンのクーリングについて少々手を入れようかと」

    エンジンルーム内の気流を整える方向で?

    「そうですね。色々パーツをつけたり外したりしたので、それに合わせてカーボンパーツを切った張ったしたので、その形状を整える感じです。アメリカの工場ではいい感じで進んでいます」

    室屋さんのエッジ540V3は、表面抵抗に関しては非常に少ないシェイプになって、速度の乗りという点ではトップと言えますが、翼端の誘導抵抗の対策についてはいかがですか? 今年は許可が下りませんでしたが、ウイングレットについては?

    「今のところは同じ(レイクドウイングチップ)かな、という感じですね。あれをちょっと改良するか……全体のウエイトのバランスを見ながらですね。パーツの重量がありますので。ただ、投入するとしたらシーズン半ばになると思います。シミュレータだけでは完全には解らず、実際にテストフライトしないといけない面もあるので、ちょっと開幕までは時間が足りない感じですから」

    今年はインディアナポリスでのオペレーショナルバイオレーション(バーティカルターン時、機体をひねらず上昇しなければいけない)や、アスコットやインディアナポリスでの離陸してすぐにトラックに入る「スタンディングスタート」でオーバーRPM(制限を超えてエンジンを回してしまう)が目立ちました。ちょっと判りにくい反則ですが、オーバーRPMを誘発する原因はなんでしょう? スロットルなのか、ミクスチャー(燃料と空気の混合比)のコントロールなのか、それとも……

    「あれはプロペラピッチですね。通常のトラックだと、色々調整して入っていくことができるんですが、離陸してすぐに入るスタンディングスタートだと(余裕がなくて)調整が難しい場合があるんですよ」

    ■翌日はエアショウ

    翌日には時計ブランド、ブライトリングのユーザーを対象にしたイベントがふくしまスカイパークで行われ、こちらでも2000人の来場者を前に、トークショウとデモフライトが行われました。

    muroyatalk01
    muroystalk02
    muroyaairshow01

    ラムシェバック

    ラムシェバック


    muroyaairshow02
    スモークを出しながらのグラウンドループ

    スモークを出しながらのグラウンドループ

    レッドブル・エアレースはオフシーズンになりましたが、室屋選手のエアショウはまだまだ続きます。

    11月6日:かさおかポルダーフェスティバル(岡山県笠岡市・笠岡ふれあい空港)
    11月13日:宮子姫みなとフェスタ2016(和歌山県御坊市・日高港)
    11月26日:Fly Again Tsuchiura 2016(茨城県土浦市・霞ヶ浦総合公園)

    エアショウパイロットとしての室屋選手を、お近くの会場でぜひご覧になってください。

    (取材:咲村珠樹)

    あわせて読みたい関連記事
  • 2022年のエアレース世界選手権開催断念を伝えるツイート(スクリーンショット)
    宇宙・航空

    エアレース世界選手権2022年の開催断念 新型コロナウイルスと世界経済激変で

  • 2021シーズンキックオフ会見での室屋義秀選手((c) Pathfinder)
    宇宙・航空

    新エアレース世界選手権に正式参戦!室屋義秀2021シーズンキックオフ

  • 2022年開幕の「ワールドチャンピオンシップ・エアレース」公式サイト(スクリーンショット)
    宇宙・航空

    レッドブル・エアレース復活!「ワールドチャンピオンシップ・エアレース」として20…

  • 宇宙・航空

    室屋義秀 福島県内で応援フライト「Fly for ALL #大空を見上げよう」を…

  • 宇宙・航空

    レッドブル・エアレースにUS-2がやってきた!その隠された苦労に迫る

  • 宇宙・航空

    レッドブル・エアレース千葉2019ラウンド・オブ8〜ファイナル4 室屋義秀優勝で…

  • 宇宙・航空

    レッドブル・エアレース千葉2019ラウンド・オブ14 予想外の風に王者ソンカ敗退…

  • 宇宙・航空

    レッドブル・エアレース千葉2019予選 室屋5位 トップはベラルデ

  • 宇宙・航空

    レッドブル・エアレース千葉2019 金曜フリープラクティス 室屋は6位と5位

  • 宇宙・航空

    室屋義秀 最後のレッドブル・エアレース千葉大会直前会見

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 宝塚宙組公演、25日に続き28日まで中止 主要出演者の体調不良で
    エンタメ, 舞台

    宝塚宙組公演、25日に続き28日まで中止 主要出演者の体調不良で

  • 「3色の鳥・ゆうちょバス 年金受取口座」篇
    エンタメ, 芸能人

    岡田将生さんが再び“謎の男性”に ゆうちょ銀行「ゆうちょバス」CM第2弾が放送へ…

  • 「超宇宙刑事ギャバン インフィニティ」26年2月15日放送開始 PROJECT R.E.D.第1弾
    アニメ/マンガ, 放送・配信

    「超宇宙刑事ギャバン インフィニティ」26年2月15日放送開始 PROJECT …

  • 宝塚宙組「PRINCE OF LEGEND」公演、25日の東京公演が急きょ中止
    エンタメ, 舞台

    宝塚宙組「PRINCE OF LEGEND」、25日の東京公演が急きょ中止

  • 住まいを選ぶ際の考慮
    社会, 経済

    「春と秋、こんなに短かったっけ?」約9割が実感する“二季化”と住まい選びに与える…

  • テキストエディター「EmEditor」でセキュリティインシデント 公式サイトのダウンロード導線に不正改変か
    インターネット, サービス・テクノロジー

    テキストエディター「EmEditor」でセキュリティインシデント 公式サイトのダ…

  • トピックス

    1. 絵柄がデフォでピンボケな……いつかやってくる未来に備える「老眼トランプ」が登場

      絵柄がデフォでピンボケな……いつかやってくる未来に備える「老眼トランプ」が登場

      どんな人間にもいつかはやってくる老眼。なんだか手元が見えづらいな……という状態を体験できるトランプが…
    2. 「呪術廻戦」酷似ゲームを巡る騒動 公式声明後にApp Storeから姿消す

      「呪術廻戦」酷似ゲームを巡る騒動 公式声明後にApp Storeから姿消す

      人気アニメ「呪術廻戦」に酷似したスマホゲーム「特級呪術師」が配信され、SNSで物議を醸しました。公式…
    3. 「超宇宙刑事ギャバン インフィニティ」26年2月15日放送開始 PROJECT R.E.D.第1弾

      「超宇宙刑事ギャバン インフィニティ」26年2月15日放送開始 PROJECT R.E.D.第1弾

      東映は12月25日、11月に発表していた新番組「超宇宙刑事ギャバン インフィニティ」について、202…

    編集部おすすめ

    1. 宝塚宙組公演、25日に続き28日まで中止 主要出演者の体調不良で

      宝塚宙組公演、25日に続き28日まで中止 主要出演者の体調不良で

      宝塚歌劇団は12月26日、宙組が東京宝塚劇場で上演している公演について、主要な出演者の体調不良により公演の実施が困難な状況が続いているとして…
    2. シートタイプのWebMoney

      WebMoney、事業をビットキャッシュへ承継 一部サービスは終了へ

      オンラインゲームの課金手段として知られる「WebMoney」が事業の節目を迎えます。auペイメントは2026年3月31日付でWebMoney…
    3. 「完全在宅」「未経験OK」のはずが…求人をきっかけに高額契約 消費者庁が注意喚起

      「完全在宅」「未経験OK」のはずが…求人をきっかけに高額契約 消費者庁が注意喚起

      育児などを理由に在宅で働きたいと求人サイトを利用した人が、結果的に高額な契約を結ばされるケースが相次いでいます。「完全在宅」「未経験OK」と…
    4. Netflix映画『10DANCE』

      Netflix「10DANCE」、海外SNSで広がる“困惑と魅了” 「情緒が崩壊した」人も

      Netflixで12月18日に配信が始まった映画「10DANCE」が、海外SNSで大きな反響を呼んでいます。BL作品であることに戸惑いながら…
    5. 「漆黒の指輪」は実在したものの……サン宝石、カプセルトイ「中二病が疼くリング」の“誇大表現”を謝罪

      「漆黒の指輪」は実在したものの……サン宝石、カプセルトイ「中二病が疼くリング」の“誇大表現”を謝罪

      アクセサリーや雑貨の販売で知られる「サン宝石」は12月16日、同社が展開するカプセルトイ「中二病が疼くリング」について、公式サイトおよびSN…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト