おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

高次脳機能障害の症状と当事者・家族の苦悩

update:

 小室哲哉さんの不倫疑惑報道から、介護の大変さにフォーカスしている言葉がネット上のあちこちから出ています。

  •  小室さんの妻KEIKOさんがくも膜下出血で倒れたのは、KEIKOさんが39歳の時。小室さんがKEIKOさんの発症にすぐに気が付いて救急搬送した先の病院で5時間以上にわたる大手術で一命をとりとめ体には大きな障害が出なかったものの、脳の機能障害が著しく出てしまった事は様々なメディアが伝えている通りです。
    KEIKOさんが発症している、高次脳機能障害とは。

    ■高次脳機能障害の症状と当事者・家族の苦悩

     脳へのけがや病気などによる損傷により、身体面以外での障害が出現するのが高次脳機能障害と呼ばれています。具体的には

    ・数分前の事を覚えている事ができず同じ質問を繰り返してしまったり、物をどこに置いたのか分からなくなったり、新しい事を覚える事が非常に困難となる『記憶障害』
    ・二つ以上の事が同時に起こると混乱してしまう、ぼんやりしていて注意力が散漫になる、一つの作業を長く続けられないなどの『注意障害』
    ・自分で計画を組んで物事を進める事ができない、人に指示してもらわないと行動を起こすことができない、約束した時間を守る事ができなくなってしまう、『遂行機能障害』
    ・興奮しやすくなり暴力性が出てしまう、自分の思い通りに物事が進まないと大声を出してしまう、自己中心的になるなどの性格の変化が病後に出現する『社会的行動障害』

    といった症状がけがや脳疾患などで出現します。

     突然の病気の発症と、その後の性格や行動の変化に一番戸惑い辛く思うのはその本人と家族。急激な変化を受け止め切るのは並大抵な事ではありません。「今までこんな事難しい事でも何でもなかったのに」「どうしてこんな簡単な事ができないのか」など、「なぜ、どうして」という気持ちに苦しんでいるのです。

    ■若年者の介護の難しさ、しんどさ

     介護というと高齢者が主な年齢層であり、その要介護者である高齢者を見守り介護していく家族のしんどさや辛さは今までも度々話題となっていました。高齢者介護は国を挙げて対策を整えてきていますが、その一方でKEIKOさんの様な比較的若い人が要介護状態になった時の受け皿は未だ少ないのが現状です。

     デイサービスやショートステイ、入居施設などは高齢者しかいない事も多く、40~50代の世代の利用者は非常に少ないのです。同世代がほとんどいない、高齢者しかいない施設で馴染めないなどの理由で通所施設に通ってもすぐにやめてしまう人も多くいます。

     小室さんの場合、KEIKOさん自身が有名人でありそういった施設の利用が難しかった側面もあるかもしれません。若く身体的に機能障害がないために施設利用を検討するのが困難だったという側面もあるかもしれません。様々な要因があったがために小室さんがKEIKOさんと密接した状態で介護せざるを得なくなったのは想像に難くありません。KEIKOさんの実家にも支えてもらっていたとはいえ、常に一緒に暮らしていながら大人同士の会話もできない、本来であれば支えあって生きていくはずの人の責任を全部負って仕事しながら介護をこなすのは相当の苦労があったはずです。

     病前の状態に回復できる見込みの不明な、日々出口のないトンネルの中を歩き続ける様な日々を何年間も続けていて精神的に辛くない人なんていないのではないでしょうか?自分の辛さ、介護の辛さを何でも話せる心の支えになる人がいなければ早晩精神が病んでしまいます。

     筆者は7年間リハビリ支援型のデイサービスに看護師として勤務しており、その前は脳外科を含む混合病棟でも勤務していました。脳外科病棟に入院していた人の1~2割は60歳未満。中には30代で子供が生まれたばかりという若い父親も重篤な脳疾患で入院していたのを看てきました。病棟から施設勤務になって見えてきたのは、支援する側の一貫した継続的な関わりの重要性と、家族の計り知れない苦悩でした。退院後の生活をどうしていいか分からないという人も多く、ケースワーカーも一緒に悩んできた事も数知れず。一家の大黒柱や心の拠り所から一転してケアされる側になってしまった患者さんの苦悩にどう言葉をかけていいか分からない事も多くありました。決まった答えなどはないのです。その患者さんや家族を深く知る以外には本当に必要な支援はできないのです。

    ■頑張らない介護の必要性

     仕事を続けながら介護をするのは並大抵な事ではありません。介護のために仕事をやめる「介護離職」も社会的問題として取り沙汰されています。仕事と介護の両立は、どちらも頑張り過ぎないで家庭外の力を借りる事で初めて成り立ちます。

     頑張らない介護に必要なのは、社会的資源。いくらお金がたくさんあってもそのお金を自分の負担を軽くするために振り分ける事ができなければ意味がないと言えます。お金も必要ですが、そのお金を使ってでも味方にできる人や病医院・介護施設などの社会的資源はまだまだ足りていません。特に、若年層の要介護者を支える受け皿は特に少なく、介護の専門家であるヘルパーや介護福祉士も低賃金で働かざるを得ない現状ではやりたくても職業として選ぶのが困難という声も現場では常に上がっています。
    一方で、医師などの有識者の間では高次脳機能障害を含め要介護者は家族以外のプロの介護支援を入れなければ介護にまつわる問題はいつまでも解決しないという声も多く上がっています。

     この問題を解決するためには税金や国政から変えていかないといけない、壮大な話になってしまいますが、だからこそ選挙に行ったり一人ひとりが問題を報告しあうなど自分たちにできる事をやり続ける必要があると思います。黙っていたら解決しないのです。幸いな事にネット上では平等に発言できる場所が昔よりも格段に増えています。ネットを使いこなせる人たちはテレビや新聞だけしか情報ソースを持たない人たちへの情報の橋渡しをして、より多くの問題提起や解決策を共有できるようになっていっていますがまだまだ不十分。必死に頑張っている人には届いていない情報や心遣いも多く、孤立している人を見つけるのは未だ困難な状態。紋切り型の今までの支援体制からより踏み込んだ支援に発展させるためにも、自分たちの未来に失望しないためにも、できる事をそれぞれが積み重ねていければと思います。

    (梓川みいな / 正看護師)

    あわせて読みたい関連記事
  • 華の会メール・バナー
    PR

    オトナ世代の恋愛マッチング

  • 華の会メール・バナー
    PR

    趣味でつながる30代からの恋愛マッチング \華の会メール/

  • 介護について親子で話したきっかけは「親の病気や介護に迫られてから」が5割 ダスキンが調査結果を発表
    企業・サービス, 経済

    介護について親子で話したきっかけは「親の病気や介護に迫られてから」が5割 ダスキ…

  • ダスキンヘルスレントが「親子で向き合う介護レポート」の結果を発表
    企業・サービス, 経済

    「家族・親族による介護」は子世代が56%望むのに対し親世代は26%と低め ダスキ…

  • 画像提供:みやうち沙矢(@saya_miyauchi)
    インターネット, 感動・ほのぼの

    ペットと暮らす覚悟 足腰の弱った愛犬のトイレ写真に反響

  • 「アテント かくさないパッケージ」Mサイズ(左)Lサイズ(右)
    商品・物販, 経済

    反響をよんだ大人用紙パンツの「アテント かくさないパッケージ」 1000個限定か…

  • 虐待のイメージ
    社会, 雑学

    福祉現場から見た「第三者の目」の重要性とは? 障害者施設に設置される虐待防止委員…

  • ライフ, 雑学

    老人施設とお年寄りな皆さんと私 ~あるナースが出会った人生の大先輩たち~

  • インターネット, 感動・ほのぼの

    デイサービスは「スタジオ」だぜ!認知症でもロッカー魂は不滅

  • インターネット, 社会・物議

    病気で歩行器を使っている犬はかわいそう?「今」を生きるコーギーの笑顔

  • インターネット, 感動・ほのぼの

    おばあちゃんが語る「新婚」の定義に胸キュン

  • インターネット, 社会・物議

    エレベーターの壁に大きな鏡 実は車いす用のバックミラーだったんです

  • 梓川みいな看護師(正看護師有資格者)

    記事一覧

    一般内科、呼吸器科、整形外科、老年科、発達障害などを得意とする。医療・介護福祉等に高反応。雑多なネタも紹介していきます。
    娘二人(ともに発達障害あり)とネコ二匹の母。シングル。

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 災害ボランティアに行く前にやっておくべき大切なこと
    社会, 雑学

    災害ボランティアに行く前にやっておくべき大切なこと

  • お餅での事故を防ぐ ここがポイント!(出典:政府広報オンライン)
    社会, 雑学

    お餅での事故を防ぐ 3つのサインと3つのポイント!

  • 巨大イベントへ遠征に行ったらインフルエンザを拾ってきた話(画像:イラストACより)
    ライフ, 雑学

    巨大イベントへ遠征に行ったらインフルエンザを拾ってきた話

  • 【ナースなコラム】MRIに禁忌なアレコレ え?増毛パウダーも!?
    ライフ, 雑学

    【ナースなコラム】MRIに禁忌なアレコレ え?増毛パウダーも!?

  • みかんは体に良いってほんと? 効能は?適量は?
    ライフ, 雑学

    みかんは体に良いってほんと? 効能は?適量は?

  • 【看護師コラム】実はこれやっちゃダメなんです!処方薬の使いまわし
    ライフ, 雑学

    【看護師コラム】実はこれやっちゃダメなんです!処方薬の使いまわし

  • トピックス

    1. 「水害にあったときに」~浸水被害からの生活再建の手引き~

      豪雨被害の中で頼れる一冊 「水害にあったときに」が行動の道しるべに

      大雨による浸水や冠水は、いつどこで起こるかわかりません。8月8日未明、鹿児島県姶良・霧島地方を襲った…
    2. じゃじゃ丸たちが帰ってきた!「にこにこ・ぷん NEO」で令和に復活

      じゃじゃ丸たちが帰ってきた!「にこにこ・ぷん NEO」で令和に復活

      今の30代~40代が幼い頃に夢中になった「にこにこ、ぷん」が、令和の時代に新たな姿でよみがえります。…
    3. 定番の「のり弁」が“冷やし”スタイルで登場?オリジン新作が猛暑に効く

      定番の「のり弁」が“冷やし”スタイルで登場?オリジン新作が猛暑に効く

      夏になると、どうしてもあっさりしたものばかり選びがち。そんな中、「のり弁を冷やして食べる」──気にな…

    編集部おすすめ

    1. 誤使用で窒息やケガのおそれ ピジョン、「電動鼻吸い器SHUPOT」改良部品を無償配布

      誤使用で窒息やケガのおそれ ピジョン、「電動鼻吸い器SHUPOT」改良部品を無償配布

      育児用品メーカーのピジョン株式会社は8月6日、同社が2023年6月より販売している管理医療機器「電動鼻吸い器 SHUPOT(シュポット)」に…
    2. 怨念渦巻く家で、ナダルと村重杏奈が「リフォームホラーハウス」に挑む

      一軒家を魔改築する「リフォームホラーハウス」、MBSテレビで放送

      一軒家を丸ごとホラー仕様に魔改築する前代未聞のホラー×バラエティ番組「リフォームホラーハウス」が、8月8日と15日の深夜にMBSテレビで放送…
    3. RTA in Japan、任天堂作品を2025年夏大会で除外 無許諾利用の指摘受け

      RTA in Japan、任天堂作品を2025年夏大会で除外 無許諾利用の指摘受け

      「RTA in Japan」は8月4日、2025年夏大会において、任天堂株式会社のゲームを利用しないことについて、経緯を説明。法人による任天…
    4. Nick Turley氏(@nickaturley)の投稿

      ChatGPT、週次アクティブユーザー7億人目前に 4か月で2億人増加

      米OpenAIが開発する対話型AI「ChatGPT」の人気が、再び急上昇しています。ChatGPTのプロダクト責任者であるNick Turl…
    5. 日本でも導入して欲しい!北欧のスーパーにある“アボカドスキャナー”が便利すぎる

      日本でも導入して欲しい!北欧のスーパーにある「アボカドスキャナー」が便利すぎる

      アボカドはギャンブルです。スーパーなどで見かけても、どれくらい熟してるのかは見た目ではわかりません。触って確かめることもできますが確度は高く…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト