おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

福祉現場から見た「第三者の目」の重要性とは? 障害者施設に設置される虐待防止委員会に期待すること

update:

 知的・精神的な障害などがある人たちが利用する福祉施設では、障害者がケアを受けながら自立のための訓練や労働を行います。しかし、施設職員が利用者である障害者を虐待してしまうケースが後を絶ちません。厚生労働省は障害者施設でのより強い虐待防止策として、2022年度から事業所に虐待防止委員会設置を義務付けました。

  •  ■ 障害者を支援するはずの施設でなぜ虐待が起こるのか

     2020年12月、愛知県東浦町の障害者施設で入所者に虐待をして重傷を負わせる事件で、元臨時職員が逮捕・起訴されたという報道がありました。またその元臨時職員はほかの入所者にも虐待をしていたとして再逮捕されています。

     職員による弱者である利用者への虐待……。極めて悪質な事件で許されるものではありません。その背景にはいったい何が起こっているのでしょう。

     厚労省の手引きというものがあります。そこには虐待が行われる背景について、「密室の環境下で行われること」と、「組織の閉塞性や閉鎖性」が指摘されているとしています。他の職員の虐待行為を発見した場合、見過ごすことは大きな過失です。きちんと職員同士が倫理観を持って、支援にのぞむことはきわめて重要なことです。

    ■ 福祉現場から見た「第三者の目」の重要性とは?

     筆者は4年間、福祉施設で働いて来ました。障害者施設の多くは職場の閉塞性が高くなりがちです。障害者福祉施設には、サービスを提供する使用者(=ヘルパー・介護福祉士などの職員)と、それを受ける利用者がいます。職員と利用者の人数の比率は、職員が少ないところが圧倒的に多いでしょう。

     職員の人数が少なければ少ないほど、職場の閉塞性は極めて高くなります。早い話が、情報を外部に明らかにすることなく、隠匿することも可能ということです。断っておきたいのは、すべての施設がそうでは無いということです。これはあくまでも筆者の経験から来る考えです。きちんと障害者支援を、熱意を持って行っているところがほとんどです。

     職場で情報共有が取れていない、一人の職員が虐待していることを他の職員が黙認すると、事件につながる可能性は大きく高まります。たとえ虐待を受けている利用者以外の利用者が声をあげても、物的な証拠が無いことや職員数人で、虐待がされているということを否定すると事実はうやむやにできるでしょう。

     そこで重要な存在が「第三者の目」なのです。厚労省の虐待防止委員会を設置することには大きな意味があると筆者は感じます。

     小さな福祉の職場は、非常に風通しが悪いです。職員が結束を固めれば、障害者支援に大きな力を発揮できます。ですが体質としてやる気が無くなれば、支援はおろそかになりがちです。そういった意味では委員会は重要な意義を持つと期待しています。

     また、虐待のなかには保護者等が発見することができる虐待もあれば、見つけることが難しい虐待もあります。

     筆者が感じたことですが、心理的虐待と性的虐待、支援の放棄は第三者の目の届かない閉ざされた現場で行われているので、証拠をあげることが難しいです。性的虐待に関しては、はずかしめを受けたという感情から保護者等に相談できないケースが大半を占めると考えます。

     虐待をすることは決して認められることではありません。ですが虐待が繰り返される理由に、障害者が自ら声をあげることが困難であるという、つらい事情もあるでしょう。どこに相談してよいのかわからない、誰かに相談することによって職員との関係が悪くなるのではないか、といった悩みを抱えている障害者は多いと筆者は考えます。

     また、虐待を受けていても自覚や認識が必ずあるとは限りません。結果的には虐待の事実は無いとされるケースはあるでしょう。そこで第三者となる、虐待防止委員会が重要になるのです。

    ■ 施設職員のメンタルヘルス管理の重要性

     虐待防止委員会が障害者支援に大きな意味を持つことは声にしてきました。ですが「第三者の目」は、障害者にとってのみ重要なことではありません。職員にとっても大切なことです。

     職員の職務は障害者支援の現場で、その都度障害者に対応するだけではありません。個人個人のサービスプランの作成、利用者の家族への対応などに時間がかかり、職員の心身に余裕が無くなることもあります。その結果、ストレスがたまって利用者にあたるということは考えられます。

     虐待は絶対にあってはならないことです。ですが、職員の心のケアは虐待と密接に関わっているでしょう。このケアをすることは、福祉に関わる人にとってとても重要なこととなります。

     厚労省の手引きには、虐待発生の理由として職員のストレスについてもふれています。職員のメンタルヘルスの把握には「職業性ストレス簡易調査票」等を活用することが考えられています。障害者虐待の理由の一つには、職員の心のケアがなされていないという実態があり、メンタルヘルスの把握だけではなく、これからは心のケアも重要になるでしょう。

    <参考>
    障害者福祉施設等における 障害者虐待の防止と対応の手引き(令和2年10月版)(PDF)
    福祉新聞「障害者施設、虐待防止の取り組み義務化へ 22年4月から
    中日新聞「別の障害者にも暴行 東浦の施設虐待、容疑で被告再逮捕」

    (室崎陽光/社会福祉士)

    あわせて読みたい関連記事
  • 介護未経験者全体の72.9%が将来に向けて「特に何も準備していない」
    社会, 経済

    仕事と介護の両立に不安85% ダスキンが「介護白書2025」で実態調査

  • ゆっくりと落ちていくコーヒー
    グルメ, 食レポ

    SNSで話題のコメダ「とろみコーヒー」初体験 発売1年でも続く注目メニュー

  • 重度障がいを持つ子どもたちが「ハンドサッカー」体験 第3回「IncluFES」が2025年2月1日に開催
    イベント・キャンペーン, 経済

    重度障がいを持つ子どもたちが「ハンドサッカー」体験 第3回「IncluFES」が…

  • テレメンタリー2024「沈黙の搾取 見過ごされた障害者虐待」放送
    TV・ドラマ, エンタメ

    HTBが根深い障害者差別に迫る テレメンタリー2024「沈黙の搾取 見過ごされた…

  • 介護について親子で話したきっかけは「親の病気や介護に迫られてから」が5割 ダスキンが調査結果を発表
    企業・サービス, 経済

    介護について親子で話したきっかけは「親の病気や介護に迫られてから」が5割 ダスキ…

  • ダスキンヘルスレントが「親子で向き合う介護レポート」の結果を発表
    企業・サービス, 経済

    「家族・親族による介護」は子世代が56%望むのに対し親世代は26%と低め ダスキ…

  • 画像提供:みやうち沙矢(@saya_miyauchi)
    インターネット, 感動・ほのぼの

    ペットと暮らす覚悟 足腰の弱った愛犬のトイレ写真に反響

  • 「靴にポケットつけてみた」車いす使用の不便を解消する機能性ブーツに称賛の声
    インターネット, びっくり・驚き

    「靴にポケットつけてみた」車いす使用の不便を解消する機能性ブーツに称賛の声

  • 「アテント かくさないパッケージ」Mサイズ(左)Lサイズ(右)
    商品・物販, 経済

    反響をよんだ大人用紙パンツの「アテント かくさないパッケージ」 1000個限定か…

  • ライフ, 雑学

    老人施設とお年寄りな皆さんと私 ~あるナースが出会った人生の大先輩たち~

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 介護未経験者全体の72.9%が将来に向けて「特に何も準備していない」
    社会, 経済

    仕事と介護の両立に不安85% ダスキンが「介護白書2025」で実態調査

  • プリキュア映画ぬりえコンテスト、第三者による不正応募判明 公式が謝罪と訂正
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    プリキュア映画ぬりえコンテスト、第三者による不正応募判明 公式が謝罪と訂正

  • 美食祭 in 日本橋三越
    TV・ドラマ, エンタメ

    高見沢俊彦の“美しいメシ”100回記念 日本橋三越で初の美食祭

  • なか卯が“ウニの二大メニュー” 雲丹おろしうどんとウニ丼を9月17日から販売
    商品・物販, 経済

    なか卯が“ウニの二大メニュー” 雲丹おろしうどんとウニ丼を9月17日から販売

  • 掃除機「自動お手入れ機能」篇(15秒)
    商品・物販, 経済

    反町隆史、東芝新CMで料理や掃除に挑戦 家庭的な素顔ものぞかせる

  • 音楽劇「謎解きはディナーのあとで」(撮影:阿部章仁)
    エンタメ, 舞台

    上田竜也が毒舌執事に挑む 玉井詩織&橋本良亮と共演「謎解きはディナーのあとで」開…

  • トピックス

    1. 偽ファッション広告

      偽ファッション広告がGoogle広告に大量出現 サポート詐欺被害に注意

      2025年9月上旬からGoogle広告に偽ファッションサイトが急増。数秒で「Windows Defe…
    2. 邪悪なAI搭載「絶対にバズるSNS」で理不尽な炎上を疑似体験→リアルすぎて怖くなった

      邪悪なAI搭載「絶対にバズるSNS」で理不尽な炎上を疑似体験→リアルすぎて怖くなった

      Webコンテンツ「絶対にバズるSNS」が9月15日公開。9月26日公開映画「俺ではない炎上」と連動し…
    3. 26年前のMMORPG「Dark Ages」、YouTuberの挑戦で限界集落から奇跡の再生

      26年前のMMORPG「Dark Ages」、YouTuberの挑戦で限界集落から奇跡の再生

      26年前にリリースされたMMORPG「Dark Ages」をご存じでしょうか。年月とともに人口は減少…

    編集部おすすめ

    1. 英国伝統のうなぎ料理は“水槽の味”?日本にはない「ゼリー寄せ」の衝撃

      英国伝統のうなぎ料理は“水槽の味”?日本にはない「ゼリー寄せ」の衝撃

      日本でうなぎといえば、甘いタレをつけて香ばしく焼き上げた「蒲焼き」が定番のスタイル。白焼きなどもあるにはありますが、うなぎといえばやっぱり蒲…
    2. たこばさんの「糸こんにゃく炒飯」

      えっ…これ糸こんにゃく!?目も舌も騙される“ヘルシー炒飯”を実際に作ってみた

      「糸こんにゃくで作った炒飯が本物そっくりに仕上がる」と聞いたら、信じられるでしょうか。大阪市のたこ焼き店「たこ焼たこば」の店主がSNSに投稿…
    3. 虎ノ門ヒルズの「どこか奇妙な職業体験」が話題 ゴミを拾いながら物語の世界へ没入

      虎ノ門ヒルズの「どこか奇妙な職業体験」が話題 ゴミを拾いながら物語の世界へ没入

      虎ノ門ヒルズで清掃員の仕事を疑似体験しながら、非日常な体験に巻き込まれていく……そんな不思議な没入型体験イベント「どこか奇妙な職業体験 虎ノ…
    4. あれー?どこかなー?伸びしろしかない3歳児の“全力”かくれんぼが手強すぎる!

      あれー?どこかなー?伸びしろしかない3歳児の“全力”かくれんぼが手強すぎる!

      子どもにとってかくれんぼは、ハラハラドキドキのスリリングな遊び。自分だけにしか分からないであろう隠れ場所を見つけて「ここなら大丈夫」「絶対見…
    5. プリキュア映画ぬりえコンテスト、第三者による不正応募判明 公式が謝罪と訂正

      プリキュア映画ぬりえコンテスト、第三者による不正応募判明 公式が謝罪と訂正

      アニメ映画「映画キミとアイドルプリキュア♪ お待たせ!キミに届けるキラッキライブ!」公式は9月12日、「キミプリ♪ぬりえコンテスト」において…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト