おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【うちの本棚】207回 ノルディスカ奏鳴曲(ソナタ)/竹宮恵子

ノルディスカ奏鳴曲(ソナタ)/竹宮恵子「うちの本棚」、今回ご紹介するのは、竹宮恵子の『ノルディスカ奏鳴曲(ソナタ)』です。

 音楽好きな竹宮が自由に描いたという印象の強い佳作です。

  • 【関連:206回 夏への扉/竹宮恵子】

    ノルディスカ奏鳴曲(ソナタ)/竹宮恵子

     『ウィーン協奏曲(コンチェルト)』『ノルディスカ奏鳴曲(ソナタ)』の2編は、同じ生島 玲を主人公にした作品。15歳にしてウィーンの音楽院に留学したピアニストで、竹宮のファンという設定になっており、竹宮本人やアシスタントなども作中に登場する。大好きなクラシック音楽を題材に自由に描いているという印象もあり、作者がノッているのがうかがえる。

     1作目『ウィーン協奏曲(コンチェルト)』の冒頭では、玲が初対面の竹宮に「自分の言葉を持っている人」と言うシーンがある。自分は音楽、竹宮は漫画、それぞれの言葉を持つという点で「同志」だと。表現者としての竹宮にとっての「まんが」に対する意識がうかがあるシーンでもあるだろう。
     とはいえ、作中では「そのままの自分」だったり、「信じたままに」といった意味のことが繰り返されてもいて、どこか「漫画家竹宮恵子」に迷いがあったあと吹っ切れたのだろうかという気もしてしまう。
     竹宮はそんな玲を「生意気」だと感じるのだが、たぶん竹宮本人もその年齢の頃には生意気な漫画少女だったのではないだろうか。

     『アルファルファくん奮闘す』はドジな男の子を主人公にしたラブコメで、『つばめの季節』は教師を目指す大学生の女の子が主人公のハートフルな短編。どちらもよくまとまった佳作だが、一般的な少女漫画ともいえ、竹宮的なひねりや毒がないのが意外な気がしてしまう。また『つばめの季節』は竹宮には珍しい国内を舞台にした作品だ。関西弁も作中には頻繁に出てくるのだが、昭和49年当時関西弁がいまほど全国的に知られていなかったのか、たとえば「なんぼ(いくら)」「きけへん(きかない)」など標準語が併記されていたりする。これも時代か。

     収録された作品すべてが、読後感のさわやかなハッピーエンドというのも竹宮の単行本にしては珍しいかもしれない。

    初出:ウィーン協奏曲(コンチェルト)/集英社「りぼんデラックス」昭和51年冬の号、ノルディスカ奏鳴曲(ソナタ)/白泉社「ララ」昭和55年12月号、アルファルファくん奮闘す/小学館「週刊少女コミック」昭和53年24号、つばめの季節/白泉社「花とゆめ」昭和49年8月号

    書 名/ノルディスカ奏鳴曲(ソナタ)
    著者名/竹宮恵子
    出版元/白泉社
    判 型/新書判
    定 価/360円
    シリーズ名/花とゆめコミックス
    初版発行日/1981年2月25日
    収録作品/ウィーン協奏曲(コンチェルト)、ノルディスカ奏鳴曲(ソナタ)、アルファルファくん奮闘す、つばめの季節

    (文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

    あわせて読みたい関連記事
  • 商品・グッズ

    竹宮惠子の御朱印帳第2弾は「地球へ…」

  • ニュース・話題

    ふるさと納税の返礼で竹宮恵子先生のエッセイや画集が手に入る!

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】217回 ファラオの墓/竹宮恵子

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】216回 集まる日,/竹宮恵子

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】215回 ここのつの友情・作品集版/竹宮恵子

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】214回 空が好き!/竹宮恵子

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】213回 魔女はホットなお年頃/竹宮恵子

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】212回 森の子トール/竹宮恵子

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】211回 アストロツイン/竹宮恵子

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】210回 ここのつの友情/竹宮恵子

  • 猫目 ユウWriter

    記事一覧

    フリーライター。ライター集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。
    本コラム「うちの本棚」は作者・テーマ別にして「ブクログのパブー」から電子書籍として刊行しています。
    また最近は小説の執筆に力を入れています。
    仮想空間「Second Life」やってます^^

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • コラム・レビュー

    複数社から発売された『墓場鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎)』を振り返る

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】262回 こいきな奴ら/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】261回 ティー・タイム/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】259回 デザイナー/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり

  • トピックス

    1. 偽ファッション広告

      偽ファッション広告がGoogle広告に大量出現 サポート詐欺被害に注意

      2025年9月上旬からGoogle広告に偽ファッションサイトが急増。数秒で「Windows Defe…
    2. 邪悪なAI搭載「絶対にバズるSNS」で理不尽な炎上を疑似体験→リアルすぎて怖くなった

      邪悪なAI搭載「絶対にバズるSNS」で理不尽な炎上を疑似体験→リアルすぎて怖くなった

      Webコンテンツ「絶対にバズるSNS」が9月15日公開。9月26日公開映画「俺ではない炎上」と連動し…
    3. 26年前のMMORPG「Dark Ages」、YouTuberの挑戦で限界集落から奇跡の再生

      26年前のMMORPG「Dark Ages」、YouTuberの挑戦で限界集落から奇跡の再生

      26年前にリリースされたMMORPG「Dark Ages」をご存じでしょうか。年月とともに人口は減少…

    編集部おすすめ

    1. キミは知っているか!ヨーグルトの「舐められるフタ裏」まとめイラストが有益すぎる

      キミは知っているか!ヨーグルトの「舐められるフタ裏」まとめイラストが有益すぎる

       「キミは舐めれるフタの裏を知っているか!」……そんな挑戦的なコピーと共に投稿された一枚のイラスト。題材となっているのは、誰もが一度は気にし…
    2. 英国伝統のうなぎ料理は“水槽の味”?日本にはない「ゼリー寄せ」の衝撃

      英国伝統のうなぎ料理は“水槽の味”?日本にはない「ゼリー寄せ」の衝撃

      日本でうなぎといえば、甘いタレをつけて香ばしく焼き上げた「蒲焼き」が定番のスタイル。白焼きなどもあるにはありますが、うなぎといえばやっぱり蒲…
    3. たこばさんの「糸こんにゃく炒飯」

      えっ…これ糸こんにゃく!?目も舌も騙される“ヘルシー炒飯”を実際に作ってみた

      「糸こんにゃくで作った炒飯が本物そっくりに仕上がる」と聞いたら、信じられるでしょうか。大阪市のたこ焼き店「たこ焼たこば」の店主がSNSに投稿…
    4. 虎ノ門ヒルズの「どこか奇妙な職業体験」が話題 ゴミを拾いながら物語の世界へ没入

      虎ノ門ヒルズの「どこか奇妙な職業体験」が話題 ゴミを拾いながら物語の世界へ没入

      虎ノ門ヒルズで清掃員の仕事を疑似体験しながら、非日常な体験に巻き込まれていく……そんな不思議な没入型体験イベント「どこか奇妙な職業体験 虎ノ…
    5. あれー?どこかなー?伸びしろしかない3歳児の“全力”かくれんぼが手強すぎる!

      あれー?どこかなー?伸びしろしかない3歳児の“全力”かくれんぼが手強すぎる!

      子どもにとってかくれんぼは、ハラハラドキドキのスリリングな遊び。自分だけにしか分からないであろう隠れ場所を見つけて「ここなら大丈夫」「絶対見…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト