私は数年前、東京都江東区の古石場文化センターで催された江東シネマフェスティバルで、昭和20年12月27日ロードショー、21年1月3日一般公開の映画『東京五人男』を観たことがありました。
監督は齋藤寅次郎(私の高校時代の先生のおじ)、出演は古川緑波、横山エンタツ、花菱アチャコ、石田一松、柳家権太楼、高勢実乗ら。
ストーリーは終戦直後の悲喜こもごもの騒動を描いた喜劇映画です。都電の車輛が少ないとか、食料品の配給が充分ではないとか、家がぼろっちくて寒いとか、当時の人々が実際に苦しんでいた窮乏生活を笑いのネタにしてしまうのが凄い。しかしただ単に当時の状況を笑いのネタにする訳ではなく、食料品を配給する役人の所謂“お役所仕事”のせいで食料品が庶民の手に渡らないとか、酒場の悪徳経営者が金儲けのために燃料用アルコールを飲料用として客に飲ませているなど、諷刺をふんだんに盛り込むことによって、庶民の溜飲を下げる作りとなっています。
特技監督は円谷英二(タイトルクレジットは本名の円谷英一名義)。クライマックスの暴雨風と洪水の場面ではその手腕が遺憾なく発揮されています。映画冒頭に登場した鉄道も特撮でしたが、実物の撮影は無理だったのでしょうか?
上映終了後には、長井好弘・読売新聞編集委員による講演会がありました。長井氏によれば、この映画はGHQの指示によって民主主義を啓蒙するために作られた映画だそうです。映画のラストが演説とデモ行進という政治的シーンで締め括られたのはそのせいとのこと。ラストに演説していた石田一松はこの後、実際に衆議院議員になったそうです。
※写真はイメージです。
(文:コートク)