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話題の漫画「自殺ノススメ」作者に自殺者遺族がインタビューしてみた

 内閣府の発表によると、日本における自殺者数は年間2万4千人(平成27年)。自殺者対策法が施行され10年がすぎ、一時は3万人を超えていた自殺者数は年々減少傾向にあると言われていますが、それでも死亡事故の約6倍。15歳から39歳までの死因1位。また、過去のデータを分析すると18歳以下の自殺は夏休み明けとなる9月1日に突出しているそうです。

 そんな日本における負の問題ともいえる「自殺」。最近では「自殺」という表現があまりに強いことから、遺族感情に配慮し「自死」と改める動きがあります。テレビや新聞で目にしたことがある人も多いのではないでしょうか。

 そこまでデリケートなテーマを扱った「自殺ノススメ」という衝撃的タイトルの漫画がこの7月、インターネット上を賑わせていました。

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    漫画「自殺ノススメ」 

     タイトルを素直に受け止めるならば、他人に自殺を勧める手引書漫画のように思われ、不快感をもって受け止める者もいましたが、ネットにあふれるコメントは「これは絶対に読むべき」「私はこの漫画を支持します」「泣けた」という、作品の支持を表明する声が多くみられました。

     この物語は、現在の日本と同じく自殺が社会問題化した架空の世界が舞台。年間3万人という自殺者対策として政府が打ち出したのは「自殺省」という組織。自殺は全て許可制となっており、無断での自殺は犯罪。希望が通れば、自殺省から職員が派遣され、自殺までのサポートを自殺志願者に対し行っていきます。
    自殺者はただ「もう死にたい」と願う。派遣された自殺省職員(神崎)は「良い自殺、しましょうね」とのんきによびかける。一見すると薄情なような、実際の遺族感情も逆撫でする内容。

    良い自殺、しましょうね

     自分の記事できちんと明かすのは初めてですが、実は筆者も自殺者遺族の一人。夫を自殺という行為で失っています。

     あの日あの時受けた衝撃。薄れることのない後悔、抱える思い。日々繰り返される「もしあの時こうしていれば」という終わりのない自分への問い。この思いは自分一人の胸にしまいこれまで過ごしていましたが、「自殺ノススメ」というタイトルに触れたとき隠しきれない「怒り」を感じました。

     普段ならばこの手の物語は絶対に読むことはしません。気持ちが乱され落ち込んでしまうからです。でもこの時は、「怒り」に任せ読んでみる気分に。そして読み進めるうち、あるシーンに来たとき自分の心にある「かさぶた」の一枚がほろりと落ちる感覚を味わったのです。

     どうしてここまでの衝撃的タイトルで「自殺」というテーマを扱ったのか。今回は本作の作者であるだらくさんに対し、本稿の執筆者である私の背景を明かした上でインタビューを申し込んでみました。

    ※注意※
    インタビューには漫画のネタバレが含まれます。ネタバレが嫌な方はこの段階で「自殺ノススメ」をお読みください。気持ちのわだかまりがあるなど読むことに抵抗があるという方は、ここで記事を読むのをやめていただくか、インタビューを読み進めて最後に漫画を読むか読まないか自分で判断ください。

    ▼「自殺ノススメ」掲載先
    ・ニコニコ静画(http://seiga.nicovideo.jp/watch/mg180262
    ・AmazonKindle(https://www.amazon.co.jp/dp/B01IN4JF96

    --はじめまして。今回インタビューに応じていただきありがとうございます。
    まずはじめに、だらくさんの漫画歴を軽く教えていただけませんか。いつ頃から描き始めたのか、そして投稿歴、受賞歴など。

    だらく:
    漫画という形でちゃんと描いたのは小学校低学年頃だと思います。(もっとも当時流行っていた漫画のパロディーのようなものですが……)
    大学時代に一度持ち込み経験はありますが、就職してからしばらくは漫画から遠ざかっていました。

    --遠ざかっていたのに復活したきっかけとかってありますか?

    だらく:
    サラリーマンとして3年ほど過ごし、やはり漫画を描きたいなという思いが強くなってきたからですかね。
    昔から溜め込んでいたアイデアはあったので、少なくともそれは形にしておきたいなと思いました。
    仕事が嫌になってきて現実逃避したかったというのも大きいですが(笑)

    --就職して3年目の頃って現実逃避というか、仕事以外のことからも色々吸収したくなる時期ですよね。なんとなくわかります(笑)
    ちなみに今回の「自殺ノススメ」以外にはどんな漫画を描かれているんですか?

    だらく:
    ツイッター・WEB上で4~8ページ位の短編漫画を定期的に公開しています。長編も数本準備しています。

    「単身赴任」
    「タクシー」
    上記は広く拡散されました。

    --漫画を描くとき、何か共通するテーマはあったりしますか?

    だらく:
    特に意識してはいませんが、暗い話を描きがちなので、明るい方向になるよういつも努力しています。

    --本題ですが「自殺ノススメ」をなぜ描こうと思ったのですか?

    だらく:
    元々ぼんやりと描きたいテーマではあったのですが、先に同じアイデアの4ページ漫画を公開したところ、思っていたよりも反響があったので 長編にしてみたいと思いました。

    --最初に公開したのはTwitterですか?

    だらく:
    最初にTwitterで公開しました。
    公開時のRTは2300くらいだったと思いますが、それから日にちをあけて何回か拡散されるタイミングがあり、現在は3000RTを超えています。

    --自殺をテーマにしたのはなぜ?

    だらく:
    自分自身も自殺願望を持ったことがあり、あえて俯瞰的に「自殺」を描くことで同じような思いの人の気持ちが少しでも軽くなればいいな、という思いを持って描きました。

    --だらくさんも自殺願望者だったのですね。どうして死のうと思ったのか、そして踏みとどまれたきっかけがあれば教えてください

    だらく:
    うーん、難しいですね。
    カジュアルなレベルも含めて「死にたい」という気持ちは常に持っているので。
    生き辛さは常に感じながら生活していて、それでもここまで生きてこれたのは、その時々で周りの人や映画や漫画などのエンタメに救われてきたというのが大きい気がします。

    今は「まだ自分にはやるべきこと、やりたいことが残っているんだ」という気持ちで生きています。

    --作品を通じ自殺願望者に伝えたかったこととは?

    だらく:
    これも難しい質問ですね……。作品で描きたかったことは、「自殺はよくない」というメッセージももちろんありますが、最終的には個人の判断である、ということもきちんと描いておきたかった。

    最終的には個人の判断

    人それぞれ状況が違うので一概には言えませんが、自殺は誰かが必ず悲しんだり、少なくとも影響を受けてしまうものだと思うので、まずは一歩立ち止まって周りを振り返って欲しいと思います。

    幸い、現実世界は自殺が犯罪ではないので、「延期できるならできるだけ延期してほしい」と思います。

    あるある自殺

    --「死ぬな!」じゃなくて「延期できるならできるだけ延期してほしい」。この考え方、周囲にいた者としてすごく考えさせられるものがあります。夫の場合は心の病も原因にあったので死ぬ前に「もう死にたい」って漏らすこともありました。そんな時、どう止めればいいのか、どう慰めればいいのかいつも迷っていたんですけど、こういう逃げ道を作ってあげることもできたんだなと。

    --さて、話を戻します(笑)
    本作のストーリーを考える上および、描く上で苦労したことはありますか?

    だらく:
    この作品に限っていえばテーマがテーマなので、
    重すぎず、かつ、軽くなりすぎないように気をつけました。

    --作品については多く読まれた反面、賛否あったかと思うのですが、良い意見、悪い意見どんなものが届きましたか?

    だらく:
    感動したという意見を多くいただき嬉しかったです。
    悪い意見というか、漫画技法の部分で指摘はいただいたので、今後原稿にしていく中でより完成度を上げていこうと思っています。

    --今回、ストーリーの鍵を握る自殺省の人達が「自殺者遺族」という切り口。これまでのこの手の作品にはない切り口ですよね。なぜそこから切り込もうかと思いましたか。

    だらく:
    先ほど述べた短編から長編にする上でどうしてもアイデアを追加したかったのと、物語に説得力を増したかったという理由があります。

    --勝手な自殺は犯罪。自殺するにも自殺省の手続きが必要。そして自殺省の職員は皆自殺者遺族。
    職員の話す内容や振る舞いって、私自身が自殺者遺族なので共感する部分がいくつもあり“説得力”を感じました。
    特に神崎の「だったら、どうして、なんで…!!」という自殺でなくなった父に対する答えのない問いの部分。この辺のアイデアってどこから出てきたんですか?すごくリアルだと思いました。

    だらく:
    ありがとうございます。自分としてリアリティがあると自信を持てている訳ではないのですが、私自身も友人を自殺でなくした経験もありますし、そうでなくても近親者を亡くした時の喪失感は誰しもが持っているものだと思います。
    そういう気持ちが素直に出たのかなと思います。

    作品中でも言及していますが、自殺には必ず悲しむ遺族や友人、知り合いが出てきます。
    その人たちの無念な気持ちを少しでも救い取れるような存在がいればという思いで設定しました。

    神崎の「だったら、どうして、なんで…!!」

    --少なくとも私は救われました(笑)
    自殺者遺族って周囲に隠して元気に振る舞っている人が多いと思います。神崎みたいに。だから悩みがあっても相談できないし、他の人がどう考えてるかも知らない。
    でも心の中はいつもぐるぐる答えのない問いと後悔を繰り返してる。
    漫画を通して、共感できるものがあることで救われる人はもっといると思います。ありえない設定だけど、だからこそ読めました。 描いてくれてありがとうございます。

    だらく:
    こちらこそありがとうございます。
    この漫画を描いて自分も救われた部分が大きいですし、それによって救われた方がいるということにさらに救われました。
    本当に描いてよかった。

    --本作を通して読み手に感じて欲しいものがあれば教えてください。

    だらく:
    「自殺」というのは日本では特に大きな問題だと思うので、それを考えるいいきっかけにしていただければと思います。
    タイトルとは違って気軽に読める内容になっていると思うので、まずはフラットな気持ちでお読みいただければ!

    父と母を前に

    --本作はまだ第1話ということですが、今後何話分までストーリーはできているのでしょうか

    だらく:
    描いた時点では何も考えていなかったのですが、いろんな人の読んだ感想を見ていく中で、いろいろ話を展開できる設定だったんだなと気づかされた部分もあるので、今後機会があれば続きを描いていこうと思います。

    --ちなみに出版の予定は?

    だらく:
    ありません!(笑)
    まだネーム段階なので今後完成原稿に仕上げていきたいと思います。

    --個人的には単行本になってくれるといいなと思ってます。そして続きを読みたいです(笑)今回はありがとうございました。

    ▼記事参考文献
    内閣府・自殺対策白書
    内閣府・平成27年版自殺対策白書「若年層の自殺をめぐる状況」
    平成27年人口動態統計月報年計・死因順位(1~5位)

    (文/インタビュー:栗田まり子)

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