兵士は銃や弾薬の他にも様々な個人装備を携行しています。状況によっても違いますが、その重さは30〜40kgになることも。そして銃を構えると両手がふさがってしまい、他のことができなくなります。でも未来には「第3の腕」が手助けしてくれるかも? そんな研究がアメリカ陸軍で進められています。
アメリカ陸軍の装備品を研究開発する、メリーランド州のアバディーン性能試験場。ここで陸軍研究所によって、兵士(特に歩兵)の手助けをする未来の装備品が研究されています。研究されている「第3の腕」は、映像撮影で手ブレを防止した移動撮影で使われる「ステディカム」に似たようなアイテム。ベストにアームがついた形状のもので、肩と腰でアームに取り付けた物品の重量を支え、手を離してもそれを保持し続けることができる、というものです。
この装備は2017年の研究発表会で存在が明らかになったもの。この発表会では、2018年の春に最低でも15人の兵士によって再度テストを行うとされています。この開発に携わっている技術者、ダン・バエチャル氏は、この装備について次のように語っています。
「ようやく、素材を検討するためのプロトタイプができあがりました。どんな素材、機構が武器や盾の安定支持に適していて、兵士の腕の疲労を軽減することができるのか、絞り込むことができます」
現在のプロトタイプは、兵士からのフィードバックを受けて改良された「バージョン2.0」とでもいえるもの。自重は3.5ポンド(1.6kg弱)で、約12kg強のM249軽機関銃(ミニミ)くらいまでの装備を支えることができます。銃の場合、光学照準器を取り付ける場所である、本体部のピカティニー・レールにアームを取り付けます。銃だけでなく、10kg程度の盾を保持することもでき、盾の陰から射撃を行うことも可能です。
この「第3の腕」の研究は、2015年の後半に「いかに兵士の疲労を軽減するか」というアイデアを話し合ったことから始まったといいます。2016年には最初のプロトタイプを製作してテストを開始。その中で、いかに手を使わないで武器を安定して保持できるか、というものに開発の方向が定まったそうです。
2017年、6人の兵士に協力してもらって、体の各所に筋電力を測定するセンサーを取り付け、どれくらい筋肉を使わずに銃や盾を保持できるかという調査を行いました。そして、この装備を使った状態と使わなかった状態で銃を撃ってもらい、命中率に差はないか、反動は吸収されるのかといった部分についてもデータを取得しています。その結果、安定して銃を保持できるため、腕が疲れて命中率が下がるという現象が軽減され、また射撃時の反動も軽減されていることが判明したとか。そして兵士からのフィードバックを受けて、アームの取り付け部を後ろ側にして、腕の動きに干渉しないように改良しました。
バエチャル氏によると、もう少し装備自体の重量を軽減し、銃を撃った際の反動吸収も向上させたいとのこと。疲れにくくするには軽い銃が望ましいのですが、そうするとどうしても小口径で威力の小さい銃にならざるを得ない……という矛盾を解消する「第3の腕」。未来の兵士はこんな装備をつけて活動するようになるのかもしれません。
Image:U.S.Army
(咲村珠樹)