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ナースは見た… ロキソニンが原因で起こった本当に怖い話

update:

 今や痛み止めの中でも大人気を誇る、ロキソニン。元々は医師の処方箋がなければ手に入らない薬でした。しかし、市販薬となって販売されてから、思いもよらない副作用を目の当たりにしたことが……。クリニックや老人施設などで働いてきた私こと看護師がこの目で実際に見た話です。

  • ■ 処方箋がなくても処方されたものと同じ効果がある薬たち

     処方箋がなくても医師が処方するものと同様の強い効果を持つ市販薬「スイッチOTC」の一つとして認可されたロキソニン。2011年1月に薬局で薬剤師の指導管理下での販売が許可され、第一三共ヘルスケアが「ロキソニンS」の名称で販売を開始して以来、続々とロキソニンの主成分となる「ロキソプロフェン」が配合された薬が市販薬化されました。

     スイッチOTCとは、病院に行く前にセルフケアが簡便化できるようにと、比較的よく処方される薬の中から市販化しても問題なさそうな薬に限って認可されたものが、処方箋がなくても購入できるようになったもの。花粉症によく使われる抗アレルギー薬、発毛剤、胃薬など多岐にわたっています。

     花粉症の人は医師の診察を受けずに、今まで処方箋が必要だった薬と同等のものが手に入るようになり、ありがたさを感じている人も多いと思います。一方で、効果が強いために薬剤師が購入者と対面して適切な指導を行わないと買うことができない「第1類医薬品」もいくつかあります。

     ロキソプロフェンが配合されている「ロキソニン」も、その第1類医薬品の一つ。非ステロイド性鎮痛解熱剤として高い効果を発揮するのですが、安易に頼りすぎてしまったがためにひどい目に遭ってしまったという患者さんの例をご紹介します。

    ■ ケース1 ロキソニンを万能鎮痛薬と思い込んでた人

     ロキソプロフェンが配合されている市販薬はいくつかありますが、やはり「ロキソニン」という名前はそのネームバリューだけで惹きつけるものがあるようです。ある日、私が勤務していたクリニックに中年世代の患者さんが新規患者さんでやってきました。

     当時勤務していたクリニックは、胃カメラとバリウム検査ができるレントゲン撮影機材を揃えていた消化器系が得意な町医者。患者さん曰く、「ここ数日、便が黒くて胃の痛みが止まらないんです」

     便が黒い……察しが良い方ならこれだけでピンとくると思いますが、黒い便が出ているということは、胃や十二指腸などから出血があることを示唆しています。そして患者さん、「元から胃がキリキリしていたのでロキソニンで治るかな、と思って市販のロキソニンを飲んでいました」

     え……!それダメなやつ。火事現場にガソリンまくようなやつ!というのも、ロキソプロフェンは消化器官に副作用を及ぼすケースが非常に多いのです。薬剤師さんと対面で購入しているはずなのに、どうしてこうなった!?

     とりあえず、胃カメラの予約を取ってもらい、後日検査。案の定、胃には穴が開く一歩手前のような大きな潰瘍。500円玉の大きさを超えていたくらい。出血も明らかにみられていました。他にもいくつも潰瘍が。介助についていた私も、こんなに大きく、大量の潰瘍は初めてみたので、つい、「うわっ」と小声でつぶやいてしまったほど(患者さんの前でやっちゃダメなやつ)。

     もちろん、リアルタイムでカメラの画像を見ていた患者さんも鼻からカメラのコードを突っ込まれたままその状態を見て、「これが、俺の胃の中……」と唖然とした様子。初診でロキソニンでは胃の痛みはひどくなりますよ、と医師から説明を受けたことを思い出した様子。

     その後、胃粘膜保護剤などを処方されて患者さんは帰っていきました。半年後に再度胃カメラの予定ね、となったのですが、諸事情で半年後まで見守ることができず退職してしまったので、その患者さんのその後がどうなったのか、気になるのが心残りです……。

    ■ ケース2 ロキソプロフェンの湿布を貼りまくったご老人

     この話は私がデイサービスの看護師として勤務していた頃の話。

     今は貼り薬にもロキソプロフェンが配合され、整形外科などでも処方されることも多いのですが、一度に処方できる限度は平成28年に診療報酬改定されたことで、1枚の処方箋につき70枚が上限。1日1か所、毎日貼ると考えて1袋当たり7枚入りになっているものも多いのですが、湿布薬ってめちゃくちゃ種類が豊富なんですよね。で、70枚というと見た目は多く感じられるように思う人も多いでしょうけど、高齢者の体の痛みはとても湿布1枚では事足らない、と主張する人も多い現状。

     制限がかかるようになる前は結構ドーンと大量に処方する医師もいたようですが、今は7枚入りを10袋までという状態。あまりにも湿布を欲しがる患者さんが多く、診療報酬が改定される前から「このまま大量に出してたらヤバいんじゃないの?」と感じる医師も多く、効果が強い薬剤を使用した湿布については自主的に「1か月に処方する上限を決めている」という整形外科医も。

     デイサービスでは自宅でお風呂に入るのが困難な人に入浴介助をしていますが、入浴後、腰には左右に1枚ずつ、両膝にも1枚ずつ、両肩に1枚ずつ、首の後ろに1枚。ここまで貼っていた高齢者を見てしまった日には、「さすがにそれはやりすぎ……」と思ったのですが、本人は「飲む薬をこれ以上増やしたくないから」と聞かない始末。毎日7枚入りを一袋消費している状態に、さすがのかかりつけ整形外科医も「これ以上は出し過ぎになって胃に副作用が来るから」と毎週湿布もらいに来るその人に貼る枚数を減らすように話していた様なのですが……。ついには他の整形外科にまで湿布を求めて行くようになってしまいました。

     「医者がケチって湿布を今までの様にくれなくなったで他のところでも処方してもらったんだわ」。ご老人、皮膚が弱くかぶれやすいので、処方にもよく使っている「ロキソプロフェンテープ」というかぶれにくい湿布を所望。週3回のデイサービスでの入浴以外にも、自宅で毎日家族に貼りかえてもらっていたのだそう。

     そしてある日……「○○さん、吐血して緊急入院になったからしばらくデイの利用中止ね」という連絡が。内服よりも湿布の方が皮膚から吸収される分、消化器官への副作用は比較的穏やかな方だと思っていたんですが……いや、そうでもないみたいね。デイの他のスタッフもやはり危険だなーと思っていた人は少なくなかったようで、どこからともなく「だから言わんこっちゃない」という声が。同意しかない。

     ちなみにこのご老人、医師には「腰と両膝に貼る」とだけ伝えて上限まで処方してもらっていたと後で聞きました。アカンやろ。

     以上、看護師やってて見てしまった2例をご紹介したのですが、この2点だけは必ず押さえて欲しい事があります

    ・ロキソプロフェン配合剤は痛みの万能薬という訳ではない、適「剤」適所。
    いくら湿布でも貼り過ぎたら副作用も出る

     慌ただしい年末、無理をしてぎっくり腰になったり肩を壊したりしないよう、皆さんもお気をつけくださいね。そして、薬の使用は用法用量を守って正しくお使いください。

    (梓川みいな/正看護師)

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    一般内科、呼吸器科、整形外科、老年科、発達障害などを得意とする。医療・介護福祉等に高反応。雑多なネタも紹介していきます。
    娘二人(ともに発達障害あり)とネコ二匹の母。シングル。

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