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「会った人の顔と名前が覚えられない」 悩み告白の漫画に共感集まる

update:

 何度も会っている人なのに覚えられない、または顔と名前がなかなか一致しない、という人は少なくないはず。社会生活を送る上で欠点と感じることも多いかもしれませんが、そのことと向き合い、相対化することで乗り越えようとする姿を描いた漫画が、Twitterで共感を呼んでいます。

  •  この漫画をTwitterに投稿したのは、会社員として働きつつ漫画の勉強をしているという、トケイさん。内容は実体験に基づくエピソードだそうです。

     トケイさんは人の顔と名前を覚えるのが苦手。初対面の時はもちろん、何度も会っている取引先の人でも、名前を言われた時に「どの人だっけ」となってしまいます。顔を忘れないよう、名刺に似顔絵を描いて覚えるよう努力していますが、名前と顔がうまく紐付けできません。


     社会人として欠陥があるのでは、と先輩にアドバイスを求めますが、たまたま先輩は顔と名前を覚えるのが得意で参考にならず。ふと過去を振り返ってみると、人の顔と名前をうまく紐付けできないという傾向は、学生時代からもあったことに気づきます。

     けしてその人をぞんざいに扱っている訳ではなく、覚えようとしているのにできないというのは、非常に心理的な負担となります。何より、解決策を見出せないのがつらいのです。


     しかし落ち込んでばかりもいられないので、仕事に精を出すトケイさん。仕事中、同僚から上司や会社の愚痴を聞いている時に、ふと思い当たります。……自分に対して不満を漏らす上司も、部下が愚痴るほどに欠点があるのでは?


     そこに気づいたことで、トケイさんの悩みは普遍化され、落ち込むばかりでなく客観的に捉えることができるようになりました。先輩から、逆に自分の長所を聞いてみると、随分と多かったことにも気づきます。


     欠点や失敗は誰にでもあること、重要なのはそれをどうフォローするかだという先輩の言葉に、トケイさんは救われたような気持ちになります。考え方を転換し、自分が「人の顔と名前が覚えられない」ことを前提に、うまく仕事を回していく方策を見つけて実行していく……という姿で漫画は結ばれます。



     この漫画には「私も人の名前が覚えられない」という共感の声が多数寄せられ、それと同時に様々な対処法も寄せられました。皆さん、それぞれに悩みと向き合い、うまくやっていく方法を編み出しているようですね。

     残念ながら筆者の場合、人と会って会話すると、逆に色々なことが自然と紐付けされてしまう性質なのですが、自身を客観視してみると、その人の余計なディティールに意識が行ってしまうことが多く、それが思い出す手掛かりになっているように思います。

     あのメガネはどこのかな、見かけによらず可愛いネクタイしてるな、あの時計はどこの……などなど、気が散りっぱなしなのですが、それがちょうどトケイさんが漫画の中で作っていたメモのように、顔と名前、そしてそれを補強する属性情報として記憶されていくのでしょう。

     悩みを抱える人はどうしても、自分で欠点だと思うことは気になってしまい、そのことばかりを意識して落ち込んでしまいがち。しかしそれを一旦受け入れて、それをカバーする方法を模索していくのは前向きな解決法だといえます。

     これは精神医学の分野で、およそ100年前に精神科医の森田正馬(もりた・まさたけ)によって始められた「森田療法」の考え方にも似たもの。あることに対し、できない自分を理想の自分が罰することで起こる葛藤と、その結果落ち込んでしまうことから解放するため、まず一旦受け入れた上で、そこから先の対処法を考えていくという一種の精神療法(心理療法)です。

     トケイさんの漫画では、ちょうど同僚からの愚痴と、先輩が語ってくれた「自分のいいところ」によって、悩みのスパイラルにいる自分を客観視する視点を得ることができました。自分を客観視することで、自分が見ている「世界のありよう」を変えることができたようです。

     自分の目的は「人の顔と名前をしっかり覚えること」ではなく、仕事に支障がないようにコミュニケーションすること。誰かが大ざっぱに分かれば、しっかり覚えていなくても仕事や対人関係は大体回るものです。トケイさんはそれに気づかれたようですね。

     たくさん寄せられた反響にトケイさんは、こんなに似た思いをしている人がいるとは、と驚いたとのこと。また寄せられた様々な、その人なりの対処法についても感銘を受けたそうです。

     トケイさんは取材に「Twitter上で表示される『いいね』などの数字は記号ではなく、その先に同じく悩む人間がいるのだと感じ、共有できた喜びを感じました。私が1人で抱えていた苦しみを、誰かに残る漫画に育ててくれたのは読んでくださった皆様です。大切にします」と感謝の言葉を述べていました。

     これからもトケイさんは、いろんな漫画やお話に挑戦していきたいと語ってくれました。今回の作品にあるように、自分を客観視できるようになると、自身に起きた出来事でも「お話」として再構成する際、大きな力になります。また多くの人が共感するような作品の誕生を願ってやみません。

    <記事化協力>
    トケイさん(@tokeikamone)

    (咲村珠樹)

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