一定年齢を過ぎると勧められる各種がん検診。大腸がん検診や胃のバリウム検査・上部消化管内視鏡検査(通称:胃カメラ)もその一つ。筆者は、看護師として消化器内科クリニックで働いていた時、胃カメラ検査を行う患者さんへの説明や検査前の処置、検査中の医師の介助を行っていました。
しかし、当の本人である私は胃の調子がよほど悪くなければ胃薬で誤魔化してしまう体たらく。市販の胃薬を飲んで2週間、どうにも様子が芳しくない……。という事で、ピロリ菌がいないかどうか、変な状態になっているかどうかをこの目で確かめるべく、近くのクリニックへ胃カメラ検査を受けに行ってきました。
■ 胃カメラを受ける前日までは?
胃カメラ検査を受ける前の日は、夜9時からは食事が摂れなくなります。お菓子も果物ももちろんダメ。胃カメラが終わって局所麻酔が切れるまでは、無理に飲み込もうとすると、気管に入ってしまう可能性が高く危険なので麻酔が切れるまでの間は、水分も食事も一切ダメ。
夜9時以降、朝ご飯抜きで検査をするのは、食事を摂らない事で胃の中を完全に空っぽにして、粘膜をカメラで隅々まで見られるようにするため。ただし、お薬を飲んでいる場合は、薬の種類によって飲んでも良いものや、一時的にやめておいた方がいいものもありますので、他のかかりつけなどで薬が処方されているいる人は、胃カメラの前にお薬手帳を持参するなどして、医師に判断してもらいましょう。
大概の薬は胃の中でサクッと溶けてそのまますぐに吸収されるか、小腸まで行ってからようやくじわじわと溶け始めるものなどありますので、よほどの事がなければ問題はありません。しかし、血液をサラサラにする薬を飲んでいる人は一定の間、休薬するように言われる事があるかもしれません。検査の途中で粘膜からの出血が見られる可能性があると、血液サラサラの薬を飲んでいると血が止まりにくくなるのです。
固形分・脂肪分の入っていない水や炭酸水などであれば水分を摂っても大丈夫。低血糖を起こしやすい人は、スポーツドリンクや無果汁の透明なドリンクであれば胃に残らないので飲んで大丈夫です。
■ そして胃カメラ本番、の前に
胃カメラを受ける前に、診察の時に検査の説明とともに同意書へのサインをする事がお約束になっています。非常に滅多にない事ではありますが、胃粘膜の組織を採取したり、取れそうなポリープを取る時などに胃に穴が開く可能性が無きにしもあらずなため。本当に滅多な事では起きないのですが、万一の場合もあるので……。ビビらせるための物ではないんです。本当です信じてください。
そして予約時間にやってきました近所のクリニック。私、胃カメラは実に20年以上ぶり。しかもその当時は口から太いカメラを入れての検査だったので、検査している間、ずっとオエオエとえずいていました。喉の反射神経が胃カメラを飲む事でダイレクトに刺激されるのです。
割とガチめなトラウマなので、今回私が希望したのは、鼻から入れる胃カメラ。がん組織や大きなデキモノを切除するのでなければ、鼻用の細いカメラでも充分に胃の内部が分かる上に、検査に出せる程度の粘膜組織をつまんで取れる、ちっさなハサミみたいなものを一緒に使う事ができるのです。
この粘膜組織を検査に出した結果、かなり早い段階の胃がんが分かる事もあります。そしてピロリ菌がいるかどうかの確定もできるのです。
■ 胃カメラの前には局所麻酔。そしていよいよ……
(ここから先は実際の胃の内部の写真が掲載されています。生ホルモンが苦手な方はご注意ください)
検査室に通された私、「このカメラはあのクリニックと同じっぽい?いやちょっと違うっぽい?」などと思いつつ、鼻に薬を注入されていきます。「私がいたクリニックと手順違うなぁ?まぁいいか」などとのんきに、鼻の粘膜の血管を収縮させて出血しにくくする薬、ゲル状の麻酔薬を両鼻に注入されていきます。
私が看護師として介助をやっていた時は、鼻の中をよく広げるために、太さの違うチューブにゲル状麻酔薬を付けて、検査する医師が細いチューブ、太いチューブと順に入れていき、鼻の穴の粘膜を広げていたのですが、できて数年のクリニックに導入されている最新式の鼻用カメラはさらに細くなっているのか、この手順はありませんでした(実はやっておいた方が人によってはありがたかったりするんです……)。
さて、鼻に注入した局所麻酔も喉まで流れてきて、口の中に苦みとともに飲み込めない感じが効いてきたところで、検査開始。鼻からスムーズに胃カメラが挿入され……ていかない!!鼻が、鼻がぁぁぁ!!痛い。
実はこの時、鼻炎気味で鼻粘膜が腫れ気味だったのでした。しかし呼吸には影響がなかったので、すっかりそんな事は忘れていたのですよね。そう、私、実は受けた先でやらなかった手順を受けておいた方がいい方の人だったんです。思わず涙がボロボロと出てしまいましたが、「口からにし直しましょうか?」という医師の提案には乗らず、そのままじりじりと鼻から押し進めてもらいました。
正直な話、口から胃カメラやるくらいなら眠らせる注射打ってもらってからにして欲しいくらい、喉が弱い私。いくら細いと言えど、カメラのあの長いチューブが喉の奥をこすりながら押したり手繰ったりされる方が断然ムリ!!なので、鼻から。「鼻粘膜腫れてるねぇ」などと言われつつも何とか先端は喉の方へ。
ここが最大の個人的恐怖スポットだったのですが、少しオエっとなっただけで無事通過。ここを通過しちゃえばあとは余裕でカメラが映し出す胃の内部の様子を見る事ができるもんね~。
と、余裕こいて胃の中を見せてもらう私。鼻からカメラを通しているおかげで、会話もできます。「この粘膜と色が違うところからが胃になりますよ」はい。「そのまま十二指腸からみますねー」はーい。
……あれ。ナニコレ。私が介助した患者の皆さんにはこんなの見かけなかったんだけど。これってもしかして……嫌な予感しかないわ。
「あー、これが胃を荒らしている原因ですねー。」十二指腸から胃の奥に、黄色い液体が溜まっているけどこんな色のついたもの私飲んだ覚えもなければ薬も飲んでないし。コレの正体、実は胆汁だったのです。長らく続いていた食後の胃の滞留感や胃痛は、胆汁が小腸に流れていくべきはずのところが胃に逆流してきていたのが原因だったのです。
胆汁は、肝臓で作られて胆のうで貯留・凝縮された消化液。この色が便の色になるもととなるのです。「消化液が胃腸の全体の動きの悪さから、胃に逆流している状態ですね」。医師の説明は確かに分かる……のですが、消化するための臓器が消化液に消化されかけている??矛盾だ!理不尽だ!!
内心そんな事を毒づきつつ、続いていた胃の状態の悪さに納得。ちなみにピロリ菌がいる様子はなし。胃カメラの介助を続けていると、胃の粘膜の縮れ具合や色の様子で、ピロリ菌がいそうかどうかがある程度分かってくるものです。
私の場合、ピロリ菌がいる気配はないものの、腸の動きが低下している事で若干のただれが生じている様子。「便秘だったりガスが多かったりしませんか?」ハイ、全部当てはまってます……。
そんな訳で、無事検査は終了。組織を取る事もなく終わりました。めでたし!……じゃない。胃と腸の動きを改善する薬を出してもらい、食事は少なめに、脂質と糖質は控えるように、さらになるべく運動を心がけて、というお達し。
■ やっぱり胃カメラは受けておいて正解だったわ!
40も過ぎると、もはやがん検診をきちんと受けるのは大人の嗜み……と、言いつつも自営業やフリーランスの人はなかなか背中を押されないと足が向きにくい人もいるでしょう。そんな人のために、がん検診のクーポン券が一定以上の年齢から自治体の国民保険に入っている人へ配られていますよね。
ちょっとした不調が、実は重大な病気の前触れだった……なんて事、医療現場にいるといくらでもみてしまうんですよ。嫌でもみてしまうので、周りの人には「早期発見、早期治療!」を口酸っぱく言っているのですが……今回、身をもって大事さが分かりました。
私の母方の祖母も実母も、実はたまたま受けたがん検診で早期の大腸がんが見つかり、手術と抗がん剤治療をして完治しているので、次は我が身と身構えつつ、声を大にして言っておきます。
「面倒でも、早期発見早期治療は超大事!!!」腸だけにね……。
(梓川みいな/正看護師)