突然ですが皆さん“溶接”ってどういうイメージを持っていますか?多くの方は半田ごてではんだ付けをしたり、フェイスマスクをつけて溶接棒で溶接しているシーンを思い浮かぶのではないでしょうか。その溶接をアートに活用した作品がツイッター上で公開されており、投稿した溶接職人のツイートが先日大きな話題となりました。
実は溶接の中には「TIG(ティグ)溶接」という金属の中でも最も高融点(なんと3380度!)のタングステンもしくはタングステン合金を電極として用いることで、一般の溶接と比較すると、高性能かつ高品質で見た目も非常に“映える”溶接手法があります。
火花が散らず大きな音が出ないTIG溶接は、仕上がりの美しさを確認しながら作業ができるのが大きなポイント。このTIG溶接は両手を使って作業するため、もっとも難易度の高いものなのですが、完成したものは非常にアーティスティックな見栄えにもなります。
そんなTIG溶接を使った、フリーで溶接関連の仕事を営んでいる滋野亮太さん。元々修理や構造物作りを専門としていた滋野さんですが、溶接アートに関しては趣味の世界で行っており、出来上がったものを自身のSNSで公開しています。
今回ツイッターで話題になった作品はとある音楽教室から依頼を受け作成したそうです。ローマ字で名前のロゴを、教室名を明朝体の様な書体で入れた音楽教室の看板は、グランドピアノのフタを模した形の金属板に溶接で書かれています。
無機質な金属板に浮かび上がるように溶接で書かれた書体は、寸分の狂いのなさを求められるもの。そして浮かび上がっている文字は、溶接の時に発生する独特な銅色っぽい光沢を放っています。
文字をよく見てみると、一文字ずつ丁寧に溶接作業が施されているためか編み込んだかの様な細かい模様が出来上がっており、文字を囲むような銅色っぽい色合いの中、文字の所どころに青い色が混じっています。
ちなみにTIG溶接の中でも文字関連、とりわけ漢字に関しては1mmのミスも許されない一発勝負で相当に神経を使うそうです。職人肌の滋野さんも文字関連の案件に関しては、まずはご自身のテンションを最高潮にしてから作業に入られるとのことです。
そんな中で完成した今回の看板。滋野さんが今まで制作した中でもとりわけ複雑な書体とのこと。それにしても見た瞬間に思わず達筆!と叫んでしまう出来栄え。でもこれ溶接なんです。いやあすごいです……ゴクリ。
Twitter上でもこの超絶技巧には驚嘆の声が多数。この技術を習得するには並大抵の努力ではなかったはずですが、滋野さんにとって溶接で何かを作ることは自分だけの世界に入れる唯一の時間で、溶接の仕事は天職だそう。
「そしたら知らぬ間に自分の作品が評判になっていたようで。仕事の依頼も増えていつの間にかアート自体が仕事になっていました(笑)」
そう語る滋野さんの作品は自身のTwitterやInstagramに公開されているのですが、どれも言葉が出てこないほどのハイクオリティな作品ばかり。これが全て溶接ということが信じられない出来です。
最後に滋野さんに溶接に対してのご自身の率直な思いを語っていただきました。
「溶接は確かにキツイ仕事ですし危険も伴います。でも一方で大変な魅力とやりがいのある仕事でもあります。自分の作品で少しでもそれが伝われば光栄です」
そんな滋野さんの夢はアートの本場アメリカ・ニューヨークにて自身の溶接アートでいつか勝負してみたいとのこと。“好きを仕事にする”という一見簡単なようで、実はとても難しいことを実現している滋野さんでしたら近い将来ニューヨークでも見られるかもしれませんね。
制作途中の看板。難しい書体は神経をつかう。TIG溶接 pic.twitter.com/1wLOymdHsw
— 滋野亮太 (@okuhidabanana) July 11, 2020
<記事化協力>
滋野亮太さん(@okuhidabanana) Instagram:ryota_shigeno
(向山純平)