新型コロナウイルスの影響で、艦艇部隊の洋上訓練のみと規模を縮小して実施された、アメリカ海軍主催の国際共同訓練RIMPAC(環太平洋演習)は、8月31日に日程を終了しました。8月30日には、アメリカ海軍を退役した艦艇を使い、実際に船を攻撃して沈める、という貴重な機会も提供されています。
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、参加者の接触機会を最小化して洋上訓練のみ、とされた2020年のRIMPAC。それでも10か国から集まった水上艦艇22隻、潜水艦1隻と搭載航空機による訓練がハワイ周辺海域で実施されました。
日本の海上自衛隊からは、ヘリコプター搭載護衛艦いせと搭載航空機のSH-60、そしてミサイル護衛艦あしがらが参加。多国籍部隊における作戦運用を通じ、必要とされるノウハウを学びました。
参加国の艦艇は2つの任務部隊(Task Force)に分かれ、一体となって行動します。給油艦から補給を受けたり、海上で捜索救難訓練を実施したり、それぞれ異なる国の艦艇が共通の任務に取り組むことで、お互いの理解や信頼の醸成、相互運用性の向上を図りました。
8月30日に実施されたSINKEXは、実際に標的艦に攻撃を加え、撃沈するまでを経験する貴重な機会。攻撃を受けた船がどのようになるのか、実弾を使って経験することで、きて欲しくはない実戦での攻撃法を確立します。
訓練を指揮した第1任務部隊指揮官、フィリパ・ヘイ大佐(オーストラリア海軍)は「シミュレーションは訓練で重要な位置を占めていますが、実弾射撃に勝るものはありません。SINKEXは、実戦に極めて近い方法で兵装とそのシステムをテストできる貴重な機会です」と訓練の意義を説明しています。
今回、標的艦として訓練海域に曳航されたのは、チャールストン級攻撃貨物輸送艦の2番艦ダーラム(LKA-114)。1969年に就役し、ベトナム戦争でのサイゴン撤退作戦(フリークエント・ウィンド作戦)をはじめ、湾岸戦争にも参加して1994年2月に退役しました。
実際に船を沈めるSINKEXは、法律に基づきアメリカ合衆国環境保護庁の規則に従って実施されます。沈める訓練場所は、陸地から50海里(90km)以上離れた水深1000尋(約1800m)以上の海域でなくてはなりません。もちろん、事前に海洋を汚染する危険のあるPCBなどの化学物質が取り除かれていることを確認して訓練に供されます。
訓練ではまず、対艦ミサイル攻撃や機銃掃射が実施されます。次いで水上艦艇からの艦砲射撃が実施され、最終的に標的艦を撃沈。大型艦の場合、意外と対艦ミサイル数発程度では簡単には沈まない、という点も訓練の参加者は実感することでしょう。
新型コロナウイルス禍という見えない敵との戦いを強いられ、通常とは違った形で実施されたRIMPAC2020。次回は2022年の開催を予定しています。
<出典・引用>
アメリカ海軍 ニュースリリース
Image:U.S.Navy/海上自衛隊
(咲村珠樹)