夏を感じさせるレジンアートというと、水や海を切り取ったような立体作品が思い浮かびますが、レジンアート作家の智明葵(ちあき)さんは、一風変わった立体作品をTwitterに発表しました。

 みずみずしい植物の葉脈を写した極薄のレジンが形作るのはタンクトップ。パール顔料が光の加減で虹色に輝き、爽やかな風を感じさせる素敵な作品です。

 レジンを薄く成形し、そこに凹版印刷の技法を用いて文様を写しとる「凹版レジンアート」。智明葵さんが独自に編み出した表現で、平面作品だけでなく、貼り重ねることで重厚感のある立体表現も可能にしています。

 今回、Twitterでお披露目されたタンクトップは、親交の深いアーティスト、KONMASAさんに寄贈された作品。KONMASAさんが故郷の愛知県名古屋市・有松で運営している、ビル自体が美術作品というカフェ併設のアートビル「KONMASAビル」にて展示されます。

「タンクトップ」完成を知らせるツイート

 智明葵さんとKONMASAさんの縁は、2019年ごろにさかのぼります。KONMASAさんは仏教思想や、それらの修行などをモチーフに作品制作をしており、点描の要領で無数の穴を開け、正面から照明を当てた時と、暗闇で背後からライトを当てた時とで、まったく違う印象を与える作品を多く生み出しています。

 今回の凹版レジンアート作品でモチーフになっているタンクトップは、KONMASAさんを語る上でなくてはならないもの。普段からトレードマークとして着用しているだけでなく、アートビル「KONMASAビル」は999日の修行(営業)後、1000日目に玄関に埋められたタンクトップを取り出して完成(消滅)する作品になっているなど、モチーフとしても重要な位置を占めています。

 このためKONMASAビルには、ほかの作家がタンクトップをモチーフに制作した作品も数多く展示されています。その中に展示する作品として、智明葵さんも凹版レジンアートによるタンクトップを制作したのでした。

 一般的なレジンアートであれば、彫刻のように内部も詰まった作品になりますが、凹版レジンアートであれば「タンクトップ」のみを形にすることが可能。しかし、極薄のレジンを布を縫製するように加工するのは、なかなか困難がともなったようです。

 まずはタンクトップの展開図(型紙)を作るように、前後の見頃を肩の部分でつなげた形状でレジンを薄く成形。この時、凹版画の技法で柄となる葉脈の細かいディティールが転写されます。

 そして肩と脇を湾曲させて立体とし、脇の部分を柄の描線が埋まらないよう、ごく少量のUVレジンで接着。ほんのわずかな照射時間とはいえ、接着面がずれてしまわないように維持し続けるのは大変だったそうです。

 「両手で押さえながらUVライトを照射したいけど……誰かライトのボタンを押して!と、手がもう1本欲しいと思いながら頑張りました」

 光の加減で表情が変化する表面の彩色には、パール顔料が6色~7色ほど使われているとのこと。完全に硬化してしまうと表面に顔料を定着させられないため、微妙に表面がベタつくタイミングで、奥行きのある色の重なりにするため、2層~3層に分けてパステル画のようにすり込んでいきます。

凹版レジンアート作品「タンクトップ」(智明葵さん提供)

 層になったパール顔料は、白い背景では光をよく反射して薄く軽やかに、そして黒など濃色の背景では層の厚みを感じさせる重厚な色合いに変化。また、光の当て方によって色合いは虹色に変化し、様々な表情を見せてくれます。

 このタンクトップは、高さおよそ8cmという小品ですが、照明の角度によって見え方が変わるので、色々な角度で見てみたくなる作品。絞り染めの里、有松にあるKONMASAビル(名古屋市緑区有松1905:名鉄「有松」駅すぐ)に展示されています。

「タンクトップ」は小さな作品(智明葵さん提供)

 また東京でも、智明葵さんの新作「黒龍図」が展示されています。同じく、凹版レジンアートをパール顔料で彩色した何百枚ものウロコを1枚ずつ貼り重ねた重厚な半立体作品で、軽やかなタンクトップとは異なる雰囲気のものとなっています。

東京・上野で展示中の「黒龍図」(智明葵さん提供)

 こちらの「黒龍図」は、上野の東京都美術館2階第1展示室で開催されている「第20回 ZEN展」にて展示中。会期は2022年6月15日~21日の9時30分~17時30分(最終日13時30分入場まで)、20日は休館日で、智明葵さんが在廊される時もあるとのことです。

<記事化協力>
智明葵さん(@chiakiartstory)

(咲村珠樹)