「うちの本棚」、今回はアダルトな雰囲気をもったヒーロー探偵『コンドル・キング』をご紹介いたします。
『少年ジェット』『赤胴鈴之助』の武内つなよしによる探偵ヒーロー漫画。トップ屋の西郷一平が謎のヒーロー「コンドル・キング」になって悪と闘うというのが基本的な物語。
連載当初、読者に向けて明確に西郷=コンドル・キングという描写は登場していないし、キングの得意とするコンドルカードというトランプ状の武器についても取り立てて説明がないのは、作品が描かれた当時では珍しいことではなかったかもしれないが、読者としては知りたいところだ。
とはいえコンドル・キングというキャラクターは当時のほかのヒーローに比べ、ちょっと大人の雰囲気を出していたのではないかと思える。粋なスーツ姿にカードを投げる戦法はスマートでかっこいい。
第1部「怪物グロの巻」に登場する新生物グロ(ナメクジのようなものが集まって巨大にもなるし、人間などにも化けることができる)は、その後『少年ジェット』で描かれる怪生物の原型のようだ。
第2部「怪人0博士の巻」になると巨大ロボットが登場。それに対抗して巨大ロボットを建造し、闘わせるというのはすでに人気になりつつあった『鉄人28号』や『鉄腕アトム』の影響だろうか。当時は「ぼくら」を発行する講談社では「少年マガジン」で『13号発進せよ!」も連載されいたはずなので、ロボットの登場はある意味流行に乗っていたのかもしれない。
第3部「キング4番勝負」ではドクロ・キングを名乗るカード使いが登場し、コンドル・キングとカードで対決するシーンがふんだんに描かれる。ある意味もっともこの作品のスタイルを活かしたストーリーだったのではないだろうか。またそれまで暗黙の了解的に西郷=キングという描き方だったのが、キングから西郷、西郷からキングへの変身(というより変装かな)シーンを描くことで読者にはハッキリとヒーローの正体を明かしている。またそのためなのか西郷でいるときにはちょっと間の抜けたキャラクターとして描いているようだ。ドクロ・キングの手下として登場するビート三兄弟のうち「サウンド大助」というキャラクターは『少年ジェット』のミラクルボイスのような技を使っていた。
第4部「あくまのきば」、連載の最後となるこのエピソードは前後編という短いもの。ストーリーもサブタイトルの妖しげな雰囲気を出しつつも、意外とまっとうなトリック、推理劇だった。途中、キングのコスチュームも刷新しようと試みたようで、カウボーイのような格好で現れるシーンがある。また最後の最後にキングが誰なのかという種明かしもされるのだが、あまりのあっさり加減にちょっと肩すかしを食らう。
「三角岳の怪物」1961年「ぼくら夏の増刊号付録・痛快漫画ブック」は、ケンタウルスのような獣人が登場する短編。人体改造によって人と獣を合成して怪物を作り出している博士を追ってキングたちが三角岳へと踏み込んでいく。人の体を腰から切断し、頭を落とした野犬の体に移植するというマッドサイエンティストが犯人なのだが、捕まり反省し、獣人化した人たちを元の姿に戻す(でも切断しちゃった下半身って残ってないんじゃないのかなあ、なんて疑問も…笑)。
「きちがい博士」1961年「ぼくら増刊号付録」実は『三角岳の怪物』の犯人も「きちがい博士」を名乗っていた。今回登場する「きちがい博士」はまったくの別人で、自らが怪物のような頭部を持っていて、殺人を予告する。今回もおどろおどろしいタイトルやキャラクターに比べ内容はシンプルな推理もの。
総合して、コンドル・キングは当時の少年マンガのヒーローとして、いやいまでもちょっと異色な存在だったと言っていいだろう。
初出/ぼくら(1961年1月号~1962年12月号) 書誌/パンローリング・マンガショップシリーズ(全5巻) アップルBOXクリエート(全7巻、キング四番勝負・全2巻) |
■ライター紹介
【猫目ユウ】
ミニコミ誌「TOWER」に関わりながらライターデビュー。主にアダルト系雑誌を中心にコラムやレビューを執筆。「GON!」「シーメール白書」「レディースコミック 微熱」では連載コーナーも担当。著書に『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』など。