こんにちは、咲村珠樹です。さる11月3日に、埼玉県の航空自衛隊入間基地で恒例の航空祭が開催されました。今回の「宙にあこがれて」は、この航空祭の様子をお届けします。
埼玉県狭山市と入間市にまたがる入間基地は、本州の大部分を担当する中部航空方面隊や、レスキューを担当する航空救難団、様々な装備品の研究開発を担当する航空開発実験集団などの司令部が置かれ、戦闘機の部隊こそありませんが、計18個の部隊とその業務に従事する約4300人の隊員が所属するという、航空自衛隊最大規模の基地です。
1938年の基地開設前から敷地内に鉄道の駅(西武池袋線・稲荷山公園駅)がある為に都心からのアクセスがよく、航空祭では毎年平均20万人という全国最多の入場者が詰めかけることでも知られています。昨年の航空祭では、1月と6月に放送されたフジテレビ系の番組『さんタク』で、SMAPの木村拓哉さんがブルーインパルス(5番機)に体験搭乗したこともあり、史上最高の28万人が来場しました。
今年の来場者は約17万人。昨年より11万人減ったとはいえ、それでも他の航空祭の倍以上となる人数です。例年入場者の多さから、来場者のマナーの悪さと迷子の多さが問題となるのですが、今年は比較的整然として、ルールを守っているように感じました。それでも飛行場地区に散乱したゴミの量は多く、隊員の方は清掃に追われていましたが(飛行場にゴミが落ちているとジェットエンジンに吸い込まれ、重大事故の元になります)……。
航空祭が開催される11月3日は「晴れの特異日」として知られており、例年好天に恵まれることが多い入間基地航空祭ですが、今回は空一面雲に覆われたあいにくの天気。雲の高さ自体は結構高いのですが、まるで東京ドームの天井を見上げるような空でした。
東日本大震災の犠牲者を追悼するミッシングマンフォーメーション(編隊から1機が離脱し、天高く上昇していく慰霊飛行で、魂が天に昇るさまを表すとされています)で始まった航空祭。飛行展示は飛行点検隊のYS-11FCとU-125から始まりました。
自衛隊が使用する飛行場の空港保安設備や航法支援設備の点検をし、安全に飛行できる状態を維持する飛行点検隊。この入間から全国の基地へと文字通り飛び回っています。「おたくま経済新聞」の地元である海上自衛隊下総基地にも、7月と9月にこのYS-11FC・151号機が飛来して、設備の点検をしていました。機器の点検の為、決められたコースを精密に飛ばなくてはならないので、パイロットには非常に高い技量が要求されます。
YS-11はエンジン部品の枯渇から、飛べる機体が数えるほどになってしまいましたが、飛行点検隊では任務に必要な低空・低速での安定性が重視される為に適した後継機が見つからず、まだまだ現役です。独特の金属音が混じる「ダートサウンド」と呼ばれるエンジン音を元気に響かせてくれました。
続いて、航空総隊司令部飛行隊に所属するT-4による飛行展示。平均年齢が50代というベテランパイロット達が、ブルーならぬ「シルバーインパルス」として、アニメ『カウボーイビバップ』のOP「Tank!」にのせて編隊飛行の妙技を見せてくれました。さすがベテラン、といった見事な飛行でしたが、実際に飛行したパイロットさんにお会いすると、本当にどこにでもいそうなおじさんなのが面白いところ。
左写真の隊形は「ハンマーヘッド」というものです。横一列(ライン・アブレスト)の真ん中後方に飛行機が続く……という形ですが、横一線に並ぶのは結構難しいもの。どうしても隣より後ろになりがちなので、「自分の方が前に出てるんじゃないか?」というぐらいまで行って、初めて揃うんだそうです。安全な場所で、自転車や車に乗って試してみると、その感覚がよく判りますよ。右写真は着陸時に行う「コンバットブレイク」。編隊を解いて旋回しながら等間隔に並び直し、着陸に向かいます。
そして入間基地名物、第2輸送航空隊・第402飛行隊のC-1による飛行展示。
一糸乱れぬ編隊飛行や、単機による軽快な運動性をアピールする飛行、そして陸上自衛隊第1空挺団による降下展示も行われました。
ここで、今回の主な地上展示機もご紹介しましょう。
第402飛行隊のC-1(98-1029)と入間ヘリコプター空輸隊のCH-47J(57-4493)は機内見学ができるようになっており、行列ができていました。
愛知県の小牧基地からやってきた第401飛行隊のC-130H(85-1086・左写真)と、青森県の三沢基地からやってきた飛行警戒監視隊のE-2C(34-3453・右写真)。厚木CVW-5フレンドシップデイでご紹介した米海軍のE-2Cとプロペラの形状が違うのがお判り頂けるかと思います。
三沢基地からは第8飛行隊のF-2A(13-8516・左写真)も飛来。そしてF-2は岐阜基地の飛行開発実験団から飛来したF-2B試作2号機(63-8102・右写真)も展示されていました。同じ青を基調とした塗装ですが、実戦機である第8飛行隊の「洋上迷彩」と、試験機である飛行開発実験団の機体とでは、塗り分けなどが異なるのが並ぶとよく判ります。
練習機では、静岡県の静浜基地から、全てのパイロット達が最初にお世話になる初等練習機、第11飛行教育団のT-7(66-5937・左写真)、そして鳥取県の美保基地(米子空港)から、C-1など戦闘機以外の操縦課程で使用される第41飛行教育隊のT-400(41-5055・右写真)がやってきていました。
T-7は、パイロットさんにお願いして、エンジンと装備品(パイロットが背負うパラシュートとサバイバルキット)を一緒に見せてもらいました。パラシュートなどは戦闘機の場合、射出座席にセットされているものですが、T-7の場合は射出座席ではなく自力で脱出しなければならないので、このような装備を身体に装着します。このお陰で、結構窮屈になるそうですよ。
機内見学を除いた地上展示機で最も人気のあったのが、これ。茨城県の百里基地から飛来した、偵察航空隊・第501飛行隊のRF-4E、隊創設50周年記念塗装機(47-6905)です。
尾翼のデザインは、創設時のRF-86Fに施されていた部隊マークをモチーフにしたもの。望遠鏡で空を見る様子を図案化したこのマークは、現在も偵察航空隊のエンブレムに採用されています。また、主翼の下に装着された外部燃料タンクには、歴代の使用機(T-33とT-4は連絡機で、偵察機ではありません)のシルエットと、所属していた基地がその期間とともに記されています。
その他の地上展示機は、航空自衛隊では
U-4(85-3253・航空総隊司令部飛行隊)
T-4(36-5708・航空総隊司令部飛行隊)
YS-11FC(62-1154・飛行点検隊)
U-125A(22-3020・百里救難隊)
UH-60J(98-4569・百里救難隊)
など。
陸上自衛隊からは
UH-1J(41907・東部方面ヘリコプター隊・第1飛行隊)
OH-6D(31220・東部方面ヘリコプター隊・本部付隊)
AH-1S(73428・第4対戦車ヘリコプター隊・第2飛行隊)
OH-1(32613・第4対戦車ヘリコプター隊・本部付隊)
海上自衛隊からは
SH-60J(8294・第21航空隊・第212飛行隊)
がやってきていました。
昨年はこの他に、小松基地からF-15Jがやってきていたのですが、今回は小松基地で発生したF-15Jの外部燃料タンク破裂事故などの影響で、緊急時(スクランブル)を除いたF-15の飛行禁止措置が採られており、展示が不可能になりました。来場者も隊員さんに「F-15はないの?」と訊き、飛行禁止の話を聞いて残念がっていましたね。
その代わりという訳ではないのですが、今年はF-2による飛行展示が行われました。入間基地は周りを住宅地に囲まれるようになり騒音被害が大きい為、航空祭での戦闘機による飛行展示は、周辺自治体との申し合わせで不可能になっています。今回は特別に周辺自治体からの容認が得られた為、実現したものです。
展示を行ったのは、地上展示されていた飛行開発実験団のF-2B。飛行展示終了後、着陸せずそのまま岐阜基地へと帰る関係であまり燃料を使えず、その為少々おとなしめのデモンストレーションでしたが、久しぶりに実現した戦闘機の飛行に歓声が上がっていました。
F-2Bが岐阜基地へ向けて飛び去ると、航空救難団の百里救難隊と入間ヘリコプター空輸隊による実演です。
東日本大震災では、被災者の救助や支援物資の輸送で活躍したCH-47JやUH-60J、U-125Aが航空救難の様子を披露します。ほんの半年ほど前には、このようにして多くの人々を救っていたんですよね。現在百里救難隊は、福島第一原発事故で原発から半径3km~42km圏内の空中モニタリング支援(10月24日から二週間の予定)も行っています。今回CH-47Jがスリング懸架したコンテナには、「絆2011」「STAND UP JAPAN」のメッセージが書かれていました。
その他の装備品展示では、東日本大震災があった為か、救難系の展示が目につきました。珍しいところでは、小牧基地にある航空機動衛生隊が保有する機動衛生ユニットが内部を含めて展示され、来場者の関心を集めていました。
この機動衛生ユニット、ドクターヘリと用途が似通っているような気がしますが、傷病者を迅速に近くの病院に搬送する「空の救急車」であるドクターヘリに対して、こちらはいったん応急処置が終わり、外科的に安定化させた患者をより設備の整った高度な医療機関へと長距離搬送する為のユニットで、いわば「空飛ぶICU」のようなものです。今回の東日本大震災では広範囲にわたって壊滅的な被害を受けましたから、高度医療を提供できる病院が被災地の近隣にない……という事態も発生しました。そんな時活躍したのがこのユニット。最大で3名の重症患者を収容し、輸送機で千km以上も離れた医療機関に搬送することが可能です。
パイロットの装備を試着できるコーナーもありましたが、子供がフル装備で記念写真を撮っている姿は、装備品とのスケール感が合わないので、ちょっとシュールな光景ですね。
さあ、そろそろ航空祭の最後を飾るブルーインパルスの飛行展示が始まります。
東日本大震災でブルーインパルスの本拠地である松島基地は津波に襲われ、そこにあった航空機がほぼ全滅するなど深刻な被害を受けました。幸いブルーインパルスは、九州新幹線全線開業記念式典での展示飛行の為、福岡県の芦屋基地に移動していたので難を逃れましたが、松島基地で整備中だった804号機が被災し、廃用となりました。直接被災しなかったメンバー達も、自宅や家財道具に被害が出るなどしています。松島基地はまだ復旧途上なので、機体は帰ることができず、今でも芦屋基地の格納庫を間借りした状態が続いており、パイロットや整備員は訓練のたびに松島から芦屋まで移動しています。
次期パイロットの訓練課程が消化できない為、3年の任期を過ぎてもメンバーが引き続き留任して訓練に当たるなど、まだまだ厳しい状況が続いていますが、8月の千歳基地航空祭から展示飛行を再開し、10月の築城基地航空祭で曲技(アクロバット)飛行展示を再開しました。再開後、今回が一般公開される2度目の曲技飛行ということになります。千歳基地航空祭から、編隊長が飛行班長である平岡2佐3佐、飛行隊長の渡部1佐は地上で統制という体制に移行していましたが、この入間では渡部1佐が編隊長を務め、そして4番機の後席には今年総括班長に就任した藤澤3佐が乗っていました。次期4番機要員の堀口1尉は、ショーのナレーターを務めます。
……ですが、空を覆う一面の雲。雲自体の高度は高いので、大きく上昇する第1区分の演技も見せてくれたのですが、モヤがかかったような視界で白いスモークがとけ込んでしまい、ちょっと映えません。
人気の高いスタークロスもこんな感じ。右下の写真は昨年の入間航空祭でのスタークロスですが、ほんとはこんなにきれいなのに……と、空が恨めしい限りです。
珍しく天候に恵まれず、飛行展示が終わってから空に晴れ間が見えるという残念な天候ではありましたが、暖かく雨が降らなかったのは幸いでした。
(文・写真:咲村珠樹)