おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

昭和家庭に1個はあった「イチゴスプーン」 開発元に歴史を聞いてみた

 かつて大ヒットし、どこの家庭にもあった「イチゴスプーン」。 底が平でぶつぶつイチゴの模様になっており、イチゴを食べる際にしっかりホールドできる便利なスプーンとして知られています。

 最近ではあまり見かけなくなったため「イチゴスプーン」を知らない人も増えており、ここ最近急にネットで再注目されだしそれを見た特に若い世代からは「初めて見た!」なんていう声も上がっています。

  • 【関連:栃木が放つチャレンジグルメ「いちご寿司」に俺たち試されてる】

     そしてこの「イチゴスプーン」。再注目のきっかけは離乳食や介護食を作る際に食材を潰すのに便利だということから。というわけで、今回は「イチゴスプーン」の開発元であるLUCKYWOOD(小林工業株式会社・新潟県燕市)の小林貞夫社長にお話を聞いてみました。

    ※見出し画像は青山彫金師の作品でデザインNo.2000「イチゴスプーン」皿型 (実際の製品は凸凹が反転する。)

    ■職人が本物のイチゴを見ながら造った

     イチゴスプーンが開発されたのは昭和35年のこと。小林工業からの依頼で、青山彫金所の彫金師・青山敞さん(※2014年に逝去)が発案したそうです。小林社長は開発に関するインタビューに答えた青山さんの記事も見せてくれました。『暮らしの手帖2000年 8.9月号』に掲載されており、記事では依頼主である小林工業は「洋食器メーカー」と記されていましたが、たしかに昭和35年に誕生したと紹介されています。

     依頼主となる小林工業ではその当時、イチゴを潰せるスプーンを日々考えていたそうです。その頃のイチゴは現在市場で出回るような大粒で甘いものではなく、それゆえにスプーンで潰して牛乳と砂糖をかけて食べるという食べ方が主流だったそうです。しかし、普通の丸いスプーンではイチゴは逃げてつぶしにくく、それをやりやすいスプーンをと考え最初に試作品として出来たのが「無地でスプーンの底が平らなもの」。ただ試作品を試してみると底がつるつる滑ってつぶせないので、当時の工場長が青山さんに「滑り止めに何か模様を入れてくれ」と依頼しました。

     すると青山さんが「だったら、イチゴの種の模様だろう」と発案。青山さんの感覚でイチゴの種模様が配置された現在のイチゴスプーンの原型が誕生しました。イチゴの模様は青山さんが実物のイチゴを見ながらプロの技と感覚で入れていったもので、何度かの試作を経て「シンメトリーではないものの無秩序でもない絶妙な良い加減」に配置されることによって、しっかりとイチゴをホールドする凸が表現できたそうです。

    青山彫金師 の作品 : デザインNo.2000「イチゴスプーン」皿型

     そして、イチゴスプーンはイチゴが一般家庭へ普及するとともに大ヒット。日本のカトラリー生産の約90%以上を占める、新潟県燕市のカトラリーメーカーのほとんどが手掛ける定番アイテムへと成長しました。ただし、この種の間隔や凹凸の突起の高さは、それぞれのメーカーが出しているもので微妙に違うとのことで、小林社長は同業者として興味深いそうです。なお、LUCKYWOOD(小林工業)の「イチゴスプーン」はしっかりと凸に高さを持たせることでホールド力を高め、滑らずしっかりと潰せるスプーンとなっています。

    ■最盛期には年間30万本生産された「イチゴスプーン」→今では600本前後へ

     小林社長の話では「イチゴスプーン」は昭和30年代後半から昭和40年代までが市場への流通の最盛期。その時期、小林工業ではステンレス製品デザインのほとんどに「イチゴスプーン」が採用されるほど人気が高く、売れ筋デザインとなると最盛期で年間5万本から7万本、全体では年間15万本から30万本も製造されたそうです。

    イチゴスプーンが載った最古のリーフ(1960年代)

     その後、お手軽な価格の類似品が多く出回ることとなり、小林工業からの販売数は徐々に減少。さらにイチゴが品種改良によって甘くなったために、イチゴを潰して食べる機会も減り「イチゴスプーン」の存在そのものが数を少なくすることになりました。

     現在LUCKYWOOD(小林工業)で販売している「イチゴスプーン」は昭和35年発売の『デラックス』と昭和42年発売の『ロマンス』からリリースされている2種類のみ。燕にはまだ年間数千本製造しているメーカーもあるそうですが、小林工業の場合は600本前後と少なくなってしまったそうです。一時は全廃番も覚悟したといいますが、「まだまだイチゴを潰して食べる!」という根強いファンもいることから、頑張って製造し続けてくれているそうですよ。

    ■現在では離乳食や介護食に

     現在ではイチゴを潰すという用途の他に、離乳食や介護食を作るために使用する声を多く耳にします。実際、小林社長もそのような使用例を耳にしたことがあり、お客様から「離乳食に関する実用書で紹介されていた」と聞いたこともあったそうです。

     消費者の食生活をより良いものにしようと職人やメーカーが力を合わせて生み出した「イチゴスプーン」が、時を経て少子高齢化の現代で必要としている人々の食生活を豊かにするために活躍するなんて、素敵な時の流れを感じますよね。
    デザインの可愛らしさだけではなく機能性にもこだわり抜いた老舗の「イチゴスプーン」は、世代を経てこれからも様々なシーンで活躍していくのではないでしょうか。

    ・協力:LUCKYWOOD・小林工業株式会社
    ・参考:暮らしの手帖2000年 8.9月号

    ※初出時一部誤記がありました。LUCYWOOD表記2カ所を「LUCKYWOOD」に修正。関係者の皆様には心よりお詫び申し上げます。

    (大路実歩子)

    あわせて読みたい関連記事
  • 華の会メール・バナー
    PR

    オトナ世代の恋愛マッチング

  • 華の会メール・バナー
    PR

    趣味でつながる30代からの恋愛マッチング \華の会メール/

  • メガネレンズの「HOYA」の呼び方はホーヤ?ホヤ?
    企業・サービス, 経済

    メガネレンズの「HOYA」の呼び方はホーヤ?ホヤ?

  • ファミマの都市伝説、赤い看板と青い看板
    企業・サービス, 経済

    ファミマの「酒 たばこ」の看板の色で店舗の前世が分かる説 本当か確かめた

  • みんな知ってた? トイザらスの「ら」は何故ひらがななのか(撮影:ゆっくりドットコム)
    社会, 雑学

    みんな知ってた? トイザらスの「ら」は何故ひらがななのか

  • 「コカ・コーラ」ではなく「コカ・コーラ」?
    ライフ, 雑学

    「コカ・コーラ」ではなく「コカ・コーラ」?間違えやすい企業や商品の「正式名称」調…

  • パインアメのパッケージ
    グルメ, 話題・知識

    知らんかった! パインアメにはなんで穴があいている?担当者に聞いてみた

  • ニトリの店舗看板
    社会, 雑学

    知らんかった!ニトリのキャッチコピーは「お値段以上ニトリ」ではない!?実際は………

  • ファミリーマートの看板
    ユニーク, 雑学

    知らんかった!「あなたとコンビニファミリーマート」は誤解!?正しくは「あなたとコ…

  • 魚の形のポリ容器「ランチャーム」には金のタイプがあるって知ってる?
    ユニーク, 雑学

    魚型たれ瓶「ランチャーム」には金色バージョンが存在するって知ってた?

  • 「ランチをチャーミングに」から生まれたたれビン「ランチャーム」。製造元「旭創業」に話を聞いた。
    社会, 雑学

    魚の形の醤油容器「ランチャーム」 製造元の旭創業に気になるアレコレを聞いた

  • 画像提供:富山めぐみ製薬株式会社
    社会, 雑学

    銭湯でよく見かけるケロリン桶 関東と関西で大きさが違うの知ってた?

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 魔改造カップヌードル
    商品・物販, 経済

    日清食品「魔改造カップヌードル」4品を新発売 定番フレーバーを背徳アレンジ

  • 企業と株主対立を“見える化” ストラテジックキャピタル、ガンホー批判サイト公開
    社会, 経済

    企業と株主対立を“見える化” ストラテジックキャピタル、ガンホー批判サイト公開

  • 無料クーポンリレー
    イベント・キャンペーン, 経済

    ファミリーマート、ファミペイ新規登録者向け「無料クーポンリレー」開始へ

  • 「文藝きっかわこうじ」表紙
    イベント・キャンペーン, 経済

    吉川晃司60歳記念「文藝きっかわこうじ」発行 UL・OSとコラボキャンペーン開始…

  • 芳根京子さん、地震保険の新広報キャラクターに就任 新CMで「なまベェ」と共演
    企業・サービス, 経済

    芳根京子さん、地震保険の新広報キャラクターに就任 新CMで「なまベェ」と共演

  • メガ焼豚ラーメン
    商品・物販, 経済

    喜多方ラーメン坂内、“肉の壁”に挑む期間限定「メガ焼豚ラーメン」販売

  • トピックス

    1. マクドナルド非公認レシピ「改造てりたま」

      マクドナルド非公認レシピ!夏のてりたま欲を満たす「改造てりたま」を作ってみた

      春限定の人気商品「てりたまバーガー」を夏でも味わうため、筆者が考案した「改造てりたま」の作り方を紹介…
    2. 江頭2:50の“トルコ伝説”がポテチ化 ファミマ限定「伝説のケバブ風味ポテトチップス」を実食

      江頭2:50の“トルコ伝説”がポテチ化 ファミマ限定「伝説のケバブ風味ポテトチップス」を実食

      江頭2:50さんが60歳の節目に放つ、まさに“レジェンド級”のコラボ商品が登場です。YouTubeチ…
    3. 企業と株主対立を“見える化” ストラテジックキャピタル、ガンホー批判サイト公開

      企業と株主対立を“見える化” ストラテジックキャピタル、ガンホー批判サイト公開

      ゲーム会社ガンホー・オンライン・エンターテイメントをめぐり、投資ファンドの株式会社ストラテジックキャ…

    編集部おすすめ

    1. 「なんかやってる」4羽の文鳥 まるで連続写真?

      「なんかやってる」4羽の文鳥 まるで連続写真?

      「なんかやってる……」Xで飼い主さんにこうつぶやかれたのは、4羽の白文鳥さんたち。添えられた写真には、4羽が棚の上に連なって集まり、まるで連…
    2. 法事でオリジナルTシャツ!?音楽フェスのような斬新な引き出物が話題

      法事で配られた家紋&没年入りTシャツが話題 “フェス感”漂うセンスに爆笑

      法事の引き出物(お返し)といえばお菓子やカタログギフトが王道ではないでしょうか。しかしときには予想だにしない品をもらうこともあるようで……。…
    3. 災害関連死ゼロを目指す「EDAN」発足 フィリップ モリスら民間団体が連携

      災害関連死ゼロを目指す「EDAN」発足 フィリップ モリスら民間団体が連携

      フィリップ モリス ジャパン(PMJ)が、全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)と共同で、避難生活に特化した支援ネットワーク…
    4. 「週刊文春」2025年9月4日号(8月28日発売)

      週刊文春、最新号表紙は「白紙」 48年続いた和田誠さんの表紙絵に幕

      総合週刊誌「週刊文春」は、2025年8月28日発売の9月4日号で48年間にわたり表紙を飾り続けたイラストレーター・和田誠さんの絵を終了し、大…
    5. 作文嫌いの救世主 親子で楽しむ「魔法のワークシート」が超便利

      作文嫌いの救世主 親子で楽しむ「魔法のワークシート」が超便利

      夏休みの宿題において、多くの小学生が悩まされる「作文」。特に低学年の子どもにとっては「何から書けばいいのか分からない」壁にぶつかることもしば…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト