「うちの本棚」から気まぐれに取り出した単行本や切り抜きを紹介していくコラム。今回からしばらくは少女漫画作品を取り上げていこうと思います。
その最初に選んだのが、サンコミックスから刊行された「竹宮恵子傑作シリーズ」。まずは一冊目『サンルームにて』をご紹介しましょう。
本書はサンコミックスにおける竹宮恵子の最初の単行本であり、70年代後半、少女漫画が注目されはじめた時期の刊行と重なり、少女漫画が、竹宮作品が、女性読者のみではなく、男性読者の目にも触れ始めた時期とも重なっているといえるだろう。
巻末には作者のあとがきである「こぼれ話」のほか、石森章太郎のコメント、TVディレクター・大沢健一のコメントも掲載されていて、朝日ソノラマが竹宮恵子の作品を刊行するにあたって力を入れていたことが見て取れる。もっとも、サンコミックスと石森章太郎との縁は深く、その辺りの関係から竹宮恵子の作品集の刊行が始まったということもあったのではないかと思う(竹宮は石森の直接のアシスタントというわけではないが、デビュー前後に石森スタジオを尋ねたり、近しい関係ではあったようだ。また絵柄的にも石森の影響を受けていた)。
70年代の前半は、まだ初期作品といっていい雰囲気が漂うが、本書収録作品が発表年で並べられていることから、次第に絵柄が固まっていく様子も見ることができる。その意味でも本書は竹宮ファンには見逃せない一冊ともいえるだろう。
さて、収録作品だが、巻頭に収録され、単行本のタイトルともなっている『サンルームにて』は重要な作品だといえるだろう。というのも、本作が少年愛を扱ったものであること、登場するふたりの少年が、その後に描かれる『風と木の詩』の主人公たちの原型となっているといえるからだ。いや、キャラクターだけではない。この作品こそが『風と木の詩』に発展して行ったということだろう。「こぼれ話」では、締め切りが迫ってもネームができない状況の中で、友人から「少年愛をテーマに」と勧められ、発奮して完成させたとあり、当時から少年愛を描くということに熱意を持っていたこともうかがえる。また本書の刊行が昭和51年の春であり、『風と木の詩』の連載開始時期と重なっていることも、本作が傑作シリーズの第一巻のタイトル作品として選ばれた理由ではないかとも思える。
ストーリーは、空き家になっていた屋敷のサンルームを、自分の城として入り浸っていた主人公セルジュ(やはりジプシーの血筋)が、新しい屋敷の住人の子供である兄妹と出会い、親しくなっていくというもので、始めのうちは三人で、サンルームの中で空想に耽る遊びに夢中になっていたものの、しだいにセルジュを巡って兄と妹が取り合いのようになっていくという展開。少年愛を絡めなくてもこれはこれで成立するストーリーだとは思うが、そこは少年愛というテーマをストレートに出すには環境が整っていなかったということなのかもしれない(もちろん作品自体は少年愛を描いていることも十分にわかるものになっている)。
次に収録されている『ほほえむ少年』も少年愛をテーマにしていて、こちらの方がよりテーマを抑えて描かれている。画家の主人公とそのフィアンセ、そしてモデルの少年という登場人物だが、基本的なところは『サンルームにて』の語り直しと言っていいだろう。
『20の昼と夜』は、双子だがそれまでその存在自体を知らなかった兄弟が出会うというもので、こちらも双子の少年の近親相姦という少年愛テーマの作品。
『スター!』も、この流れから言うと少年愛が裏のテーマとしてあったと言ってしまっていいのかもしれない。「こぼれ話」では「『無理心中ですね』と言われた」とあるが、それならば尚更、少年愛テーマというものが見えてくる。
最後に収録された『ミスターの小鳥』だけが他の作品とは趣を異にするもので、コメディー調の、老人が主人公のもの。65歳のガンコじいさんが登場しているのだが、いま竹宮恵子は65歳という年齢をどうとらえるだろうか。
初出:サンルームにて/1970年12月「別冊少女コミック」、ほほえむ少年/1972年月「別冊少女コミック」、1973年7月「別冊少女コミック」、1974年8月「別冊少女コミック」、ミスターの小鳥/1975年12月「少女コミックちゃお」
書 名/サンルームにて
著者名/竹宮恵子
出版元/朝日ソノラマ
判 型/新書判
定 価/350円
シリーズ名/サンコミックス・竹宮恵子傑作シリーズ①
初版発行日/昭和51年5月20日
収録作品/サンルームにて(旧題・雪と星と天使と)、ほほえむ少年、20の星と夜、スター!、ミスターの小鳥
竹宮恵子のこと/石森章太郎
こぼれ話/竹宮恵子
ひらかれた扉のカギ/大沢健一(TVディレクター)
(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/)