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【ミリヲタ的グルメ】第34食 アメリカ軍特殊部隊用レーション

皆様こんにちは。ミリタリーにおける『食』、特にレーションについてご紹介していくDachoの『ミリヲタ的グルメ』。

今回は、アメリカ陸軍特殊部隊、いわゆるグリーンベレー御用達のLRPレーションをご紹介します。特殊部隊用というだけあって通常のレーションとは違う大きな特徴を持っています。

  • 【関連:第33食 ニュージーランド軍レーション】

     

    ●アメリカ軍長距離パトロール(LRP)レーション

    LRPレーションパッケージ

    これがアメリカ軍の長距離パトロールレーション(Food Packet, Long Range Patrol)です。
    長距離パトロール:Long Range Patrol(略称LRP)とは、少人数の部隊が隠密裏に前線のさらに奥へと潜入し、敵の拠点や部隊を発見して味方の砲撃や航空攻撃を誘導するという、非常に危険な任務を専門に行う部隊の事です。ベトナム戦争で多くのアメリカ軍部隊内に組織されたLRPチームは、多大な犠牲と引き換えに大きな戦果をもたらし、そして後にレンジャー部隊に吸収される形で姿を消しました。(LRPは、LRRP:Long Range Reconnaissance Patrol、長距離偵察パトロールと呼称されていた時期もありました。)

    こういった任務では、長期間補給を受けずに徒歩で行動するため、兵士が背負う荷物は大量で非常に重くなります。そのため、LRPの名を冠するこのレーションは、フリーズドライ食品を採用して軽量化が図られています。また、LRPレーションは1パックが1日分ですが、重労働で消費されるエネルギーを補うにはかなり少ない1,570kcalしかありません。飲まず食わず休まずで行動する訓練を受けている特殊部隊では、きっちり栄養を補給できることよりも軽量・コンパクトであることがより重要と考えられているようです。
    なお、LRPレーションを連続で使用するのは、最大で10日間までとされています。

    歴代のLRPレーション

    LRPレーションは、ベトナム戦争中に生まれ、モデルチェンジを繰り返してきました。写真は、右から1960年代、1970年代、1990年代、そして現在のモデルです。戦場がジャングルから砂漠へと変わっていった歴史がパッケージの色からもわかりますね。

    せっかくなので、それぞれの重量を計ってみました。

    ▼歴代LRPレーションの重量
    1960年代製:312g
    1970年代製:304g
    1990年代製:457g
    2000年代製:484g

    軽さが重要であるとはいえ、徐々に重くなっていっていますね。資料によると、エネルギー量も初期のものより400kcal増えているそうです。

    LRPレーションとMCWレーション

    上の写真でLRPレーションの隣に写っている白いレーションは、アメリカ軍の寒冷気候用レーション:Meal, Cold Weather(略称MCW)です。この2つにどういう関係があるかと言いうと、実はこのLRPとMCWは、名前とパッケージの色を除くと全く同じレーションなのです。
    先に説明したとおり、LRPレーションは、軽さを求めてフリーズドライ食品が採用されました。一方、寒い地域では、缶詰やレトルトの水分を含んだ食品は凍るため、同じくフリーズドライ食品を採用した寒冷気候用レーション:Ration, Cold Weather(略称RCW)が存在しました。そして、陸軍特殊部隊からのLRPレーションに関する要望と、海兵隊からの寒冷気候用レーションに関する要望を統合する形で、2001年に新しいレーションMCW/LRPが作られました。
    名前と色以外は全く同じと書きましたが、もう一つ大きく違うのが運用です。LRPレーションは1日に1パックですが、MCWは1食で1パック、1日3パック(およそ4,500kcal)となります。寒い中では、通常よりも多くエネルギーが必要なのです。(ちなみにアメリカ軍の標準的なレーションMREは、1パック1,272kcal、1日分3パックで3,816kcalになります。)

    色々と資料をあたっていたら、アメリカ軍のレーションの価格一覧がありました。面白いのでその一部と、参考に自衛隊の戦闘糧食の価格もご紹介します。

    ▼アメリカ軍
    ・MRE:およそ8.33ドル(1パック・1食当たり)
    ・FSR:およそ15.91~16.35ドル(1パック・1日当たり)
    ・MCW:およそ10.72ドル(1パック・1食当たり)
    ・LRP:およそ10.75ドル(1パック・1日当たり)

    ▼自衛隊
    ・非常用糧食(戦闘糧食I型):1,662円(1日分・1食当たり554円)
    ・戦闘糧食II型:329円(1食当たり)

    MCWとLRPの価格が微妙に違うのは、よくわかりませんが生産量の違いでしょうか。
    自衛隊の戦闘糧食については、MREと違って加熱剤がオプション扱いなので単純な比較はできませんが、日本人としてはやや寂しくなる結果かもしれません。戦闘糧食は、価格だけでなく、味の面、栄養の面、運用方法の面など、色々と気になる要素もありますが、それはいずれまた……。

    MREについては『【ミリヲタ的グルメ】第2食 アメリカ軍MRE』(https://otakuma.net/archives/2010040204.html)参照
    FSRについては『【ミリヲタ的グルメ】第11食 アメリカ軍ファースト・ストライク・レーション』(https://otakuma.net/archives/6383887.html)参照

     

    ●パッケージ内容

    LRPレーション内容一覧

    今回試食するのは、2004年製のメニュー6『ミートソースのラザニア』です。使用期限は摂氏27度で保管した場合10年とされていたので、きっと食べられると思います……(現在は摂氏27度で3年とされています)。

    ・ミートソースのラザニア(フリーズドライ)
    ・トースター・ペストリー
    ・ショートブレッド・クッキー
    ・ナッツ・レーズン・ミックス
    ・カプチーノ・モカ(粉末飲料)
    ・アイス・ティー(粉末飲料)
    ・インスタント・コーヒー
    ・粉末クリーム(コーヒー・紅茶用)
    ・砂糖
    ・塩
    ・チューインガム(2粒)
    ・タバスコ
    ・マッチ
    ・紙ナプキン(2束)
    ・ウェット・ティッシュ
    ・スプーン

    開封した時に酸っぱい匂いがしてちょっと焦りましたが、タバスコの瓶が空になっていて、これが原因でした。紙ナプキンに薄いしみが出来ている他は何も汚れていなかったので、微小な穴から水分だけ抜けて紙ナプキンに吸収されたのだと思います。
    飲み物がMREよりも多い3パック入っているのは1つの特徴です。特殊部隊の作戦中にコーヒーを作って飲む余裕があるのかどうか分かりませんが、寒冷気候では空気が乾燥しているため通常よりも多くの水分補給が必要になり、粉末飲料によってそれを促す役割があります。

     

    ●試食
    それでは試食していきましょう。

    ▼ミートソースのラザニア

    ミートソースのラザニア調理前

    ミートソースのラザニアを開封するとオレンジ色のミートソースと白いラザニア(平たいパスタ)が見えます。お湯を注いで10分待つように書いてありますが、乾燥状態のまま食べることも出来ます。なお、脱水症状対策のためか、公式にはお湯を注ぐ食べ方が推奨されています。そのままで少し食べてみると、トマトの軽い酸味にサクサクしたスナック菓子のような食感で結構美味しいです。

    ミートソースのラザニア

    お湯を注いで10分待つと、丼いっぱいのラザニアが出来上がりました。かなりの量で、アメリカ軍標準のレーションであるMREの主料理の1.5倍程度はありそうです。ややお湯が多かったらしく水分がありますが、しばらくしたらほとんど料理に吸収されていました。
    トマトソースの中には、ラザニアと牛肉のミンチが見えます。食べてみると、ラザニアは柔らかく、フリーズドライだったとは分からないくらい自然な食感です。見た目と違ってさっぱりした味付けで、トマトの酸味が爽やかです。
    実は、他のメニューもいくつか食べたことがありますが、どれも結構美味しかったです。味の評価が芳しくないMREとは、かなり違いがあります。

     

    ▼トースター・ペストリー

    トースター・ペストリー

    トースター・ペストリーとは、Wikipediaによると『トースターで安全に温められているようデザインされたペストリーの一種』だそうです。さらにペストリーをWikipediaで参照すると『小さなケーキ、タルト等の甘い菓子類』とのこと。
    戦場のアメリカ軍兵士がトースターを常備しているとは思えないので、私もそのまま食べてみました。外側がサクッとしていて中にフルーツ餡が入っています。アメリカのお菓子というと、非常に甘いイメージがありましたが、これはそんなこともなく普通に食べられる味でした。トースターで焼かなくても十分に美味しいです。

     

    ▼ショートブレッド・クッキー

    ショートブレッド・クッキーパッケージ ショートブレッド・クッキー

    ショートブレッド・クッキーのパッケージを開けると、中からナビスコの市販品が出てきました。普通のプレーンなクッキーで、これも甘すぎるという事はありません。市販品なので当然美味しいです。
    それにしても、冷静に考えると10年前の市販品のクッキーが普通に食べられるというのも驚きですね。

     

    ▼ナッツ・レーズン・ミックス

    ナッツ・レーズン・ミックス

    ナッツ・レーズン・ミックスの材料を見てみると、ピーナッツ、レーズン、クルミ、アーモンド、ヘーゼルナッツとなっています。欧米のレーションには、こうしたナッツやドライフルーツはよく見られます。56gで310kcalもあるそうなので、チョコレート並みのエネルギー量です。

     

    ▼飲み物

    飲み物

    写真は左からインスタント・コーヒー、カプチーノ・モカ、アイス・ティーです。
    インスタント・コーヒーは、正直不味いです。コーヒーはこんな味じゃないですね(笑)
    カプチーノ・モカは、かなり甘くて美味しいです。疲れを癒してくれそうです。材料を見ると、ココアも入っていました。
    アイス・ティーは、レモンの風味が爽やかです。いかにも合成物っぽいチープな味ですが、飲みやすいです。

     

    ▼チューインガム

    チューインガム

    チューインガムは、どぎつい原色の緑をした粒が2個入っています。ガムの周りにコーティングされている糖衣がかなり分厚くて硬いです。糖衣部分に強めの甘さとミント味が付けてありますが、ガム本体は噛むとすぐに味が無くなってしまいました。日本で市販されているガムとはちょっと違う感じです。

     

    MCWのようにこれが1食分だとかなり量が多いと思いました。まあ、スナック類は後から間食として食べることも出来ますね。
    一方、これを1日分とするLRPレーションは、家に引きこもるような生活でも少ないと感じるかもしれません。しかも重労働にもかかわらず、このレーションが何日も続いて当然なのが鍛え抜かれた特殊部隊のようです。味が悪くないのが救いでしょうか(笑)

     

    注意してください!!
    アメリカ軍レーションを初めとする各国のレーションは、我々民間人が手に入れて食べることを前提としていません。
    これらを販売する業者なども、あくまでコレクション品として取り扱っています。
    食品としての安全性は、各国政府、製造業者、販売者の誰も保証してくれませんので、万が一食べる場合は、すべて自己責任になります。

    (文・写真:Dacho)

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    中学時代に「エリア88」と出会い、ミリタリーに目覚める。数年前、以前から気になっていたMRE(米軍のレーション)をミリタリーショップで発見し、レーションオタクの道へ。急速に自宅の空きスペースを浸食していくレーションの山と日々闘い続けている。

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