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【無所可用】第44話 工事トロッコに憧れて~立山砂防軌道のおはなし(前)~

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【無所可用】第44話 工事トロッコに憧れて~立山砂防軌道のおはなし(前)~毎度ポテンヒットのような話題をおとどけしております「無所可用、安所困苦哉」でございます。今回と次回の前後編に分けまして、富山県にある建設工事用の軌道についてのおはなしをおとどけします。


  • 【関連:第45回 工事トロッコに憧れて~立山砂防軌道のおはなし(後)~】

     

    お話の舞台は「国土交通省立山砂防工事専用軌道」。通称、立山砂防軌道と呼ばれています。軌間610mm、延長約18km、という軌道です。
    私が訪ねていた当時は、軌道敷への立ち入り、便乗などについておおらかでしたが、現在は厳しく制限されています。本記事をお読みになり、訪問したいと思われ方は、決して無断かつ自力で訪問したりせず、「立山カルデラ砂防博物館 http://www.tatecal.or.jp/top.htm」が、体験学習会という形で軌道への乗車を公募しますので、これに応募なさってみてください。ただこれ、抽選であり、現地の変わりやすい天候や軌道をとりまく諸条件により、開催率はあまり高くないので、運も必要なようですが。

    点描1
    【写真:点描1】

    珍しく硬い注意書きから入りますが、この「軌道」は一般の旅客を輸送する営業目的のものではなく、砂防工事用です。その線路内に入るということは、工事現場に入るのと同じ事。そして営業用ではありませんから沿線の保安は通常の鉄道よりも遥かに甘く、常に落石の危険があり(実際、落石が直撃して崖下に落下した貨車なども見られます)、また鉄橋は歩行用には最低限の板一枚を渡してあるだけで枕木の隙間から下が丸見え、手すりもなく歩行中に風が吹いたらバランスを崩して落下しかねない環境です。見た目は遊園地の乗り物のように見えますが、常に危険と隣り合わせと心する必要があります。。

    そんな命の危険もある所に、数年間毎年通っておりました。この軌道は、ナローゲージが好きなワタシには大変に魅力的で、そうまでしてでも訪ねたいものがありました。ここで事故があって死んでも人生に悔いなしと思うくらいに。
    なにぶんにも昔のことであり、学生時代のお金が無い頃の写真も多く、必然的にモノクロ写真も多数ありますが、そのへんは割り引いて見ていただけますように。

    点描2
    【写真:点描2】

    この軌道の最大の特徴は、山を登るためのスイッチバックです。スイッチバックとは、斜面を行ったり来たり折り返しながら登っていく線路配置のことです。この軌道には当時、計42段のスイッチバックがあり、中でも18段連続スイッチバックは圧巻でした。現在は線路が付け替えられた部分があり、スイッチバックは計38段に減っています。
    軌道は常願寺川に沿って走りますが、岩盤が川にせり出した部分では、通常のトンネルを設けず、横からくり抜いたようなオーバーハング構造の区間もありました。落差の大きな美しい滝や静かな森、砂防工事をしているだけあって大きく崩れている部分をトンネルでくぐるなど、風景は何度行っても飽きないものがありました。

    最初にこの軌道の存在を知ったのは、小学生の頃でした。ナローゲージを特集した本に、数ページの紹介記事が掲載されていました。景観、車両、そして「営業路線ではない工事軌道がまだ残っている」ということに強く心を打たれました。行ってみたいと思いつつも、横浜から富山の山奥までは、小学生には遠い夢でした。しかし脳裏から離れることはなく、一人旅が出来るようになったら行くのだ、と心に決めておりました。しかし、小学生で工事用の軌道の世界にハマるというのは、今考えれば小学生にしてすでにかなりマニアックだったなぁと思わざるを得ませんね。

    そして10代後半からの数年間、この軌道への訪問が毎年の恒例になりました。軌道は冬の間は運休です。春の最初の運転がいつのなるのかは予測がつかないため(融雪後、まず線路の修理から始まるため)、夏から秋にかけての訪問が中心でした。
    上野から夜行列車「能登」に乗り、朝5時に富山に着いて、富山地方鉄道の一番列車で立山へ。軌道の一番列車が出る前に、線路を歩いて撮影ポイントまで行くのが通例でした。軌道は立山駅近くの起点・千寿ヶ原から、じわじわと山を登って行きます。またスイッチバックでは一気に高さを稼ぐ場所もあります。軽い登山ですし、軌道は砂利が敷かれており踏み外すと足を挫く危険もありますので、足元は軽登山靴装備です。

    線路を歩くには、当然列車に注意が必要です。トロッコですので車両規格が小さいため軌道敷は狭く、もし列車が来てしまったら逃げ場がほとんどありません。特に崖とトンネルと鉄橋は列車と出会ってしまったら最悪です。軌道の列車が走りだすのは始業時間後。そのため、富山地鉄の一番列車で到着した朝6時とかであれば列車と遭遇する危険が無いということもありました。
    軌道は途中に何箇所か電話連絡のできる「連絡所」と呼ばれる施設があり、各連絡所にはおばさんが1~2人詰めていました。一番列車を撮影した後、この連絡所でダイヤや臨時列車の運転情報を教えて頂きました。しっかりメモし、撮影の合間の移動は列車の時間を見計らって行います。こちらは仕事場にお邪魔させていただいている身。軌道の円滑な運転を妨げてはなりません。撮影は列車の運行のほか作業の支障にならない所で、かつ足場のある場所で行います。

    点描3
    【写真:点描3】

    沿線は工事関係の施設以外、一切人家がありません。軌道に入ってしまうと食料も水も調達できないつもりで臨みます(なぜ「つもり」なのかは、また別途)。立山駅では一番電車の時間では売店はまだ営業していないため、予めパンなどを用意していました。宿泊は立山駅近くにあったユースホステルを使っていましたが、3~4連泊の常連でしたので、泊まった翌日は昼飯用におにぎりを作ってもらっていました。

    撮影から戻るときは夕方の作業終了時の列車に便乗させていただくこともありました。この便乗は密かにしかし非常に楽しみでした。密かに、なのは、添乗証が無いので、言ってみればヒッチハイクしているような状況です。楽しみなのはやはり列車に乗れることと、軌道で働いている人々との会話です。しかも工事現場で。しかし作業を終えて帰路に着く人々と、狭い車内で隣り合わせ、方言の聞き取りに苦労しながらの会話は楽しいものでした。あと2日居ると言うと、起点に戻ったときに「じゃあまた明日な、気をつけてな」と見送って下さいました。むしろ邪魔者なのにあたたかく受け入れてくださった工事現場の人々には、深い感謝を捧げたいと思います。

    ところで、ここでの列車の運転は普通の鉄道とちょっと変わっています。大まかなダイヤグラムはあるのですが、ダイヤの一本の線が一列車ではなく、3~4本の列車が続く運転をしています。機関車が牽引できる貨車の重量制限と、スイッチバックの関係で長い列車が走れないので、短い列車(機関車に貨車3輌が一般的でした)を複数運転していたのです。こういう運転形態を、「続行運転」と呼びます。列車本数そのものは少なかったのですが、続行運転のおかげで撮影は効率よく出来るのでした。

    次々とやってくる列車
    【写真:次々とやってくる列車】

    といったところで、「無所可用、安所困苦哉」初の「前後編」はここで一旦終了し、次回へ続きます。次回は気に入っていた軌道の撮影スポットをご紹介いたします。

    (文・写真:エドガー)

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