おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

「救難最後のとりで」救難ヘリUH-60J

update:

2017年10月17日、静岡県浜松市沖の太平洋で航空自衛隊浜松基地に所属する、航空救難団浜松救難隊のヘリコプターUH-60Jが消息を絶ちました。捜索中の20時23分ごろに「航空自衛隊」と書かれたキャビンドアを発見したことから、航空自衛隊では当該のUH-60J(58-4596号機)は墜落したものとして、10月17日23時10分時点、乗員4名の捜索にあたっています。※掲載している写真は今回と同機種の別機体です。

  • この救難ヘリコプターUH-60Jはどのような機体で、所属する航空救難団とはどのような組織なのか。

    航空救難団は東京都の横田基地に司令部を置く航空総隊隷下の組織で、埼玉県の入間基地に司令部を置いています。主な任務は航空救難、航空輸送、災害派遣などとなっており、事故で脱出した隊員などを空から迅速に捜索・救難を行う組織です。また、海や山での遭難、そして大きな災害などにおいては、都道府県知事の要請により災害派遣され、遭難者の捜索・救難・支援物資の輸送などに当たります。

    基本的に災害派遣の場合、消防や警察など、他の組織による捜索・救難がまず先に行われます。そして、それだけでは手におえない……という判断がなされた時初めて、自衛隊に災害派遣要請がなされる仕組みです。つまり、航空救難団に代表される自衛隊が派遣される時は、もう他に頼るもののない究極の状態であることがほとんどです。そのため、航空救難隊は別名「救難最後のとりで」と言われています。

    救難ヘリコプターUH-60Jは、ペアとして出動する捜索機U-125Aが上空で要救助者を発見したのち、実際の救難に当たる機体です。通常パイロット2名、救難員(メディック)2名、機上整備員(FE)1名がチームを組んで24時間365日待機しており、出動命令が下ると戦闘機のスクランブル(対領空侵犯措置)同様、速やかに離陸し、救難にあたります。

    捜索時は気象条件が悪いことが多く、そんな中でも安定して飛行し、救助活動が円滑に進められるよう一箇所にとどまってホバリングを続けるなど、パイロットの技量は非常に高いことが知られています。

    また、救難に当たる救難員(メディック)は、救急救命士であることはもちろん、どんな場所でも救助が行えるよう、屈強な肉体の持ち主です。ヘリコプターからガイドとなるワイヤーを伝って降りるリペリング降下だけでなく、ヘリコプターが降下しきれない環境でも救助ができるよう、陸上自衛隊での空挺レンジャー課程(自由降下)も経ています。選抜試験は厳しく、まさにエリートと言えるでしょう。

    航空救難団の隊員が、このような高度な技量を持っているのも、自分たちができなければ助けられないという「救難最後のとりで」であることを自覚したものだからです。「That Others May Live(他を生かすために)」という彼らのスローガンも、その任務の重要性を表しています。

    墜落の原因はまだ明らかになっていませんが、人命救助のスペシャリスト達が生還することを祈りたいと思います。

    (咲村珠樹 / 画像・編集部過去撮影分より)

    あわせて読みたい関連記事
  • 航空自衛隊のC-130Hを敬礼で見送るサンタ(画像:USAF)
    宇宙・航空

    航空自衛隊C-130が参加 人道支援任務「クリスマス・ドロップ作戦」

  • ダーウィンに到着した航空自衛隊のF-2A(画像:Commonwealth of Australia)
    宇宙・航空

    空自F-2が初参加 オーストラリアで17か国参加の共同訓練「ピッチ・ブラック」

  • 取り決め書にサインした井筒航空幕僚長(右)とイタリアのアニャレッリ海軍大佐(画像:イタリア空軍)
    宇宙・航空

    航空自衛隊がイタリア空軍への戦闘機パイロット委託教育で合意

  • 僚機のKC-46Aに空中給油する航空自衛隊向けKC-46A(Image:Boeing)
    宇宙・航空

    航空自衛隊向けKC-46A 1号機が初の空中給油試験を実施

  • 「レッドフラッグ・アラスカ21-2」のブリーフィングに参加する航空自衛隊のパイロット(Image:USAF)
    宇宙・航空

    航空自衛隊F-15 日米共同訓練「レッドフラッグ・アラスカ」に参加

  • グアム島アンダーセン空軍基地に到着したB-52H(Image:USAF)
    宇宙・航空

    アメリカ空軍B-52爆撃機がグアムに進出 インド太平洋に睨みをきかす

  • グアムに到着した第96爆撃飛行隊のB-52H(Image:USAF)
    宇宙・航空

    アメリカ空軍B-52が4機グアムに展開 航空自衛隊とも訓練予定

  • 宇宙・航空

    航空自衛隊もプレゼントを投下 恒例の「クリスマス・ドロップ作戦」始まる

  • 宇宙・航空

    航空自衛隊戦闘機 アメリカ空軍爆撃機と共同訓練

  • 宇宙・航空

    アメリカ空軍爆撃機と航空自衛隊戦闘機が共同訓練 依然月2回ペースを維持

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • Web展示「違いを知ることからはじめよう展」
    社会, 経済

    生理やPMSテーマのWeb展示、ツムラが公開 約5000人来場の企画展を再構成

  • 京都アニメーションをかたる偽サイト複数確認 公式が注意喚起
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    京都アニメーションをかたる偽サイト複数確認 公式が注意喚起

  • 博多座、高額転売者の情報開示手続きへ 「看過できない」と強い姿勢
    エンタメ, 舞台

    博多座、高額転売者の情報開示手続きへ 「看過できない」と強い姿勢

  • 雨や洪水の警報が変わる 新・防災気象情報、警戒レベル表示で行動判断しやすく
    社会, 経済

    雨や洪水の警報が変わる 新・防災気象情報、警戒レベル表示で行動判断しやすく

  • 声優とAIの共存を模索 81プロデュースとイレブンラボが業務提携、オリジナルの声を守り多言語展開へ
    アニメ/マンガ, 声優

    声優とAIの共存を模索 81プロデュースとイレブンラボが業務提携、オリジナルの声…

  • Google、ダークウェブレポートを終了 実用的な対処支援へ重点移行
    インターネット, サービス・テクノロジー

    Google、ダークウェブレポートを終了 実用的な対処支援へ重点移行

  • トピックス

    1. 「LINEグループ作成」を要求する詐欺メールに注意 海外のサイバー監視が日本向け攻撃を警告

      「LINEグループ作成」を要求する詐欺メールに注意 海外のサイバー監視が日本向け攻撃を警告

      海外のサイバー脅威情報を発信する「Hackmanac」が12月19日、日本国内の複数の組織を標的とし…
    2. 電話対応の様子(NORAD Tracks Santa Newsroom)

      NORAD、サンタ追跡作戦に万全の体制 即時追跡方針を強調

      米国防総省は、北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)による重要ミッション「サンタ追跡作戦」を、2025…
    3. Google、ダークウェブレポートを終了 実用的な対処支援へ重点移行

      Google、ダークウェブレポートを終了 実用的な対処支援へ重点移行

      Googleは12月16日、個人情報がダークウェブ上に流出していないかを確認できる「ダークウェブ レ…

    編集部おすすめ

    1. 「漆黒の指輪」は実在したものの……サン宝石、カプセルトイ「中二病が疼くリング」の“誇大表現”を謝罪

      「漆黒の指輪」は実在したものの……サン宝石、カプセルトイ「中二病が疼くリング」の“誇大表現”を謝罪

      アクセサリーや雑貨の販売で知られる「サン宝石」は12月16日、同社が展開するカプセルトイ「中二病が疼くリング」について、公式サイトおよびSN…
    2. 雨や洪水の警報が変わる 新・防災気象情報、警戒レベル表示で行動判断しやすく

      雨や洪水の警報が変わる 新・防災気象情報、警戒レベル表示で行動判断しやすく

      国土交通省と気象庁は12月16日、雨や洪水などの危険を伝える「防災気象情報」について、2026年(令和8年)の大雨シーズンから新たな運用を始…
    3. コミケの名物現象がまさかのグッズ化 「食べられるコミケ雲(わたあめ)」爆誕

      コミケの名物現象がまさかのグッズ化 「食べられるコミケ雲(わたあめ)」爆誕

      夏コミ名物、会場の熱気と参加者の汗が昇華して天井付近に発生するという伝説の現象「コミケ雲」。まさかそれを口にできる日が来るとは、誰が想像した…
    4. Reactに「CVSS 10.0(最高)」の脆弱性 IPAが注意喚起

      Reactに「CVSS 10.0(最高)」の脆弱性 IPAが注意喚起

      情報処理推進機構(IPA)は12月10日、多くのウェブサービスで使われている開発技術に重大な問題が見つかり、国内でも悪用したとみられる攻撃が…
    5. ライバー事務所4社に公取委が注意 「移籍しづらい」契約に懸念

      ライバー事務所4社に公取委が注意 「移籍しづらい」契約に懸念

      ライブ配信アプリ「Pococha(ポコチャ)」で活動するライバーをサポートしている事務所4社が、所属ライバーの“退所後の活動”を不当にしばっ…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト