新型コロナウイルス感染症(COVID─19)流行の影響により、在宅勤務にシフトする会社が増加しています。これに伴い、それまで対面でこなしてきた勤務スタイルから一転。急な変化に戸惑う人も多いのではないでしょうか。

 それぞれ部署や課ごとで様々なリモートワーク補助サービス(チャットやビデオ通話、タスク管理システムなど)を活用しているかと思いますが、続けるうちにシステム面では解決できない色んな問題も起こりがち。対面での業務の場合には見えてこなかった人間関係の問題点が現れてきます。

 そこで本稿では、リモートワークを取り入れ12年。平常時でも一部を除き、在宅勤務者が多いという弊社のケースで、「リモートワークを行う上で大切にしていること」「ルールとして決めていること」を参考までに少し紹介していきたいと思います。

 ただし、重ねて書きますが、これはあくまで弊社の例。会社や業態によっては参考にならないこともあり得ます。その点あらかじめご理解ください。

■ 生活リズムを作る

▼個人篇
 在宅勤務で最初にやらなければならないのは、一日のスケジュール決め。起床、勤務開始、昼食、終業、必要なものの買い出し、夕食、消灯。簡単でかまいません、一日のスケジュールを決めてください。

 他にも大切なのは、必ず朝は歯を磨き、しっかり朝食もとり、着替えもすること。誰もいないし、人にも会わないから……といってルーズになると、いざ仕事をはじめても気持ちの切り替えがうまく行かず作業効率があがりません。

▼上司篇
 在宅勤務組は、どう指示しても、口を酸っぱく言ってもたまにだらけます。そこで大切なのが、「時間の管理」と「声かけ」、「タスクの優先順位(プライオリティー)管理」です。

 個人篇にある個人の生活時間とは別に、会社内での普段の動きにあわせて、ざっとした1日の予定を決めてください。

 出勤、昼食、休憩、退勤。基本はこの4つ。その時間には必ず声をかけてください。

 次が弊社の場合

・10時始業:チャットで朝の挨拶を必ず全員でする(出欠確認)。その後、一人一人がその日の予定を報告。上司はそれを聞き、タスクの優先順位を調整する。

・12時お昼:各人の業務状況を聞き、手の空いた人から食事に行くように声をかける。放っておくと中には食べない人も出てきますが、在宅勤務が長くなればなるほど生活リズムを壊しやすくなります。このためスケジュールにしっかり昼食時間を入れることで、リズム作りの一つとしてあげる。普段気にしていない上司も多いかもしれませんが、これは必ず行ってあげてください。

・15時休憩:お茶時間を促す声がけをしてあげてください。10分から15分程度の休憩時間です。在宅勤務はTEL応対や、人との会話がないこともあり、中には「過集中」に陥る人がいます。過集中タイプの人は、お茶をこまめに飲んだり、トイレに行ったりする当たり前のことを忘れて行動します。このため、休憩時間をしっかり作ってあげることが大切。「そろそろ休憩時間入れようか」。必ず声をかけてあげてください。

・17時進捗確認:18時の終業に向け、現在取り組んでいるタスクがどの程度進行しているかを確認。18時までに切りよく終わるよう、手の空きそうな人を他の人の手伝いに回すなど調整。どうしても終わらない場合には、時間を決めて残業を指示。

・18時終業:弊社の場合は個人個人でタスクが異なるため、一人一人に声をかけて終業を促しています。その際、業務状況を聞き、明日でいいものは明日に、今日中に終わらせる必要があるものは残業をお願いし、指示。という流れです。そして上司だからこそ「自分が率先して終業する」。これが最も大切です。だらだらいると、部下が気にして残りがち。業務効率に悪影響しか与えませんので、皆が気兼ねなく上がれるよう率先して「じゃ、私そろそろあがりまーす!」と宣言して、とっとと上がってください。

■ そこに「空気」はありません

 チャットシステムやビデオ通話があるから、コミュニケーションは大丈夫!だと思っていたかもしれませんが、続けていくうちに、何かいつもと違うちぐはぐ感や、不安などを徐々に感じていませんか?

 その理由は今まで以上に必要な「密な連絡(情報共有)」が欠けているからです。また、みながみな「孤立」作業をしているという自覚を忘れているからです。

▼部下篇
 普段から言われている事かと思いますが、リモートワークだからこそ「報告・連絡・相談」がより重要になりますが、特に大切なのが「完了報告」。

 リモートワーク専用のチャットツールなどにはタスク管理の機能が付いているものもありますが、簡単なものは登録しないことも多々。

 例えば「○○さんに連絡しといて」といった簡単なもの。オフィスだとすぐ近くにいるので、言わずとも上司や周囲が「空気」を読んで完了を察知し、求めてこないことも多いでしょう。しかしリモートワークの場合には、周囲に人はいません。そこに空気はありません。

 そこで必要となってくるのが「しました」までの完了報告の癖付け。しかもすぐすることが大切です。後回しはいけません。

 簡単だからこそ、一つ一つ忘れないうちにしておくこと。すると、状況がみえない上司から「あれどうなった?」なんて聞かれる手間が省けます。

 そんな事くらいと思うかもしれませんが、自分直の上司は一人でも、上司にとっては部下は複数。部署内で報告癖がないと、上司はいちいち全員に「あれどうなった?」と聞いて回るハメになります。自分がその立場になって考えると分かると思いますが、これかなりしんどいです。それに聞かれる側も「またかよ」と徐々にメンタルに来はじめます。

 また、「報告・連絡・相談」どれでも当てはまりますが、何か伝えるときは「端的(はっきり言う)」かつ「明確」に行うこと。ビデオ通話やチャットでのコミュニケーションは、対面よりも意思が伝わりにくいことがあります。

 このため、人によっては前置き(説明)がどうしても長くなりがち。そうすると、伝えているつもりが全く伝わらない(本題がわかりにくくなる)、時間だけかかって相手をイライラさせる、という事にもつながってしまいます。

 これは以前弊社でもあったことで、かなりイライラしました。以来「物事は端的に説明する」ということを徹底しています。同じく「返事も端的に」。おかげで会議時間の短縮にも繋がり、業務効率はかなり上がりました。

・報告類は全て「端的」「明確」
・完了報告はどんな細かい事でも「全て」「すぐ」行う
・上司や周りに「空気」を期待するな

▼上司篇
 部下篇で報告類は「端的」に。と書きましたが、上司も同じくです。指示は「端的」「明確」に。決して曖昧に伝えないこと。

 例えば、その日の15時ころ「この資料、明日の昼提出だからその前までにはよろしくね」と部下に、頼んだとします。すると自分の中では「明日の昼提出だし、まだ時間の余裕もあるから、(空気を読んで)朝までには用意してくれるだろう。朝あれば昼までにはチェックできる」と思っているかもしれませんが、それは思い込みです。そこにも空気はありません。

 部下によっては「明日の昼までなら明日朝に着手して昼に出せばいいか」と考え、超ギリギリに出してくるケースもあります。

 普段会社で顔をあわせいていれば、どの程度の急ぎなのかを場の状況や他の人の進捗などで、部下も察することができますが、リモートワーク中はそうした「空気」が一切ありません。

 このため部下たちは予想以上にフリーダムな行動を時にみせてくれます。特に孤立作業はどうしても自身のことしか見えなくなり、自分の都合のいいように作業をすすめがち。

 それを回避するために、指示は「確実な言葉(時間付き)」で出すことが超重要。また、依頼するときは現在持っている個人タスクも確認しつつ、全体を把握している上司自ら業務のプライオリティーを付けてあげることも大切です。

 もしプライオリティーの指示がない場合には、今進行している(急ぎではない)業務をそのまま完了まで進行し、後に着手。残業や早出をして部下に無理をさせてしまう。ということもあるでしょう。

 進行業務の重要度を把握し「今してるのは急ぎじゃないから、これを先にしてもらって、今日中に出してくれると助かる。今やってることは明日の作業でいいよ」など必ず指示を出してあげてください。それが必ずお互いのためになります。

 と、ここまで書くと一部の方からは「そんなの子供じゃないんだから皆言われないでもできるよ」という声が聞こえてきそうですが、残念ながら部下の数だけそれぞれの特徴も個性も異なります。特にリモートワーク中は隠れていた個性までもが、表に出てきがち。だからこそここまでの意識が必要となってくるのです。

・指示は「端的」「明確」。さらに時間込み(締め切り)で伝える
・新しい業務が入ったら部下のタスクにプライオリティーをつける
・部下のタスク状況はこまめに把握
・部下に「空気」を期待しない

■ 会話をする上でのルールを明確に

 「端的・明確に物事を説明する」ということを説明してきましたが、これには一つだけ弊害があります。それは「部署内のチャットが殺伐としてくること」です。

 長々しい説明を一切取り除くと、かなりシビアできっつい物言いの連続になります。業務的には効率がいいのですが、徐々に場の空気が冷たくなりがち。というか必ずなります。

 これは弊社のケースですが、まず新しい人が入ってきたときに「うちは、チャットがコミュニケーションの主だからこそ、業務効率のため仕事に関しては全て端的に会話をします。だから、直球すぎて怖いと感じることがあるかもしれませんが、仕事上必要なことなので恨みっこ無しがルールです」というのをしつこい位に説明し、その上で「雑談はOK」とも説明しています。

 仕事上の会話は端的が大切です。ただそれだけだと、人としての何かが失われ、段々会話に参加することが苦痛になります。このためある程度の「遊び」も大事。ただしメリハリも大切です。

 業務中の雑談はあまり長くならないこと、盛り上がる雑談は昼やお茶休憩、業務後に少し。など、これもルールを決めておくといいでしょう。

■ 言葉遊びを取り入れる

 その他、弊社ではもう一つリモートワーク中、会話をする上で大切にしていることがあります。それは部署内限定の呼称(あだ名)や言葉を取り入れる。真面目な中にも、ちょっとした「遊び」を入れることで、部署内の空気が和らぐこともあるからです。

 弊社の場合だと、編集長=親方、副編集長=教授という呼び方にはじまり、承知しました/了解しました=ガッテン、すみません=ヒーハー。という感じです。ちなみに「すみません」は本当にやらかしたときは使用可。普段何気ない言葉としてでる「すみません」は全て「ヒーハー」で統一しています。

 かなりふざけた様に聞こえるかもしれませんが、この言葉遊びからは「空気を和らげる」以外に、もう一つの効果が得られています。それは「部下の気持ちを萎縮させない」こと。

 例えば「すみません」と言う謝罪の言葉。チャットの場合は文字になることで可視化され、特にわかりやすいのですが、人は想像以上に「すみません」という言葉を日常の中でつかっています。

 「遅れてすみません」「ちょっとすみません」、返事や挨拶代わりに「すみません」などなどなど、とにかく何かにつけて使用しています。しかもそれを、毎日色んな人が一日に何回も皆の見ている前(チャットであったりビデオ通話であったり)で使っているわけですから、どんどん積み重なっていきます。

 リモートワーク中のチャットやビデオ通話は、便利である一方、相手の細かい表情がつかみにくくなります。代わりに人は、そのニュアンスを文字や言葉だけから拾おうとしてしまい、普段なにげに使っている言葉でもマイナス面の意味(謝罪)のほうで感受してしまい、意識が徐々にネガティブに偏ることがあります。

 謝罪は決して悪いことではありません。ただ、程度にもよると思うのです。大きな問題から小さなことまで。しかし「言霊」という概念があるように、ネガティブな言葉は使いすぎると、使う側はその言葉がもつ本来の意味に無意識に縛られ、徐々にモチベーションを低下させ、萎縮していきます。ついには、会話が少なくなることも。これは弊社で実際に過去に起きたことです。

 この状況に気づき、その打開策として取り入れたのがこの「ヒーハー」でした。以来、ちょっとしたことでマイナス面に引きずられる人は少なくなり、かわりに編集部のチャットには、ガッテン!ヒーハー!親方原稿できました!!なんて言葉が毎日踊るようになっています。

■ 業務時間とプライベート時間は明確に線引き

 リモートワークは、皆が(ネット上)一つの部屋にいるけれども、それぞれが孤立し働いている状態。長期になればなるほど、心理的に色んな面で問題が起きてきます。これまで書いてきたことはその解決策として弊社が取り入れてきたものですが、最後にもう一つだけ大切にしていることを紹介して終わりにします。

 それは「業務時間とプライベート時間を明確に分けること」です。実は今はやりのオンライン飲み会も、オンラインランチもしたことがありません。多少の雑談は行いますが、普段から、仕事とプライベートの時間をしっかり分けるようにしています。

 ただでさえ在宅というプライベートな空間での業務。仕事時間と個人時間の境目があいまいになりがち。しっかり線引きしないと、ずるずる仕事時間を長引かせてしまい、みなが徐々に疲弊していきます。それは業務効率がいいとはいえません。

 決められた時間内で、チーム全員が最大パフォーマンスを出せるようにする。そのために厳守すべきはプライベート時間の確保。オンオフメリハリをつけ、適度な距離感を保つことが重要となってきます。これはリモートワークを続ける上での最大のコツだと歴12年の弊社は実感しています。

 今起きている、新型コロナウイルス感染症の影響から、この先あとどの程度、多くの会社がリモートワークを続けていくかは分かりません。2週間かもしれないし、1か月、2か月かかることも。

 弊社は12年かけて少しずつ問題解決に取り組む余裕がありましたが、ここ最近急に取り組んでこられた方々は、自分が思っている以上に、負担や不安、そして普段よりもやりにくさを感じていることでしょう。これまで弊社が積み上げてきた、上記のようなちょっとしたヒントが、それぞれ抱える問題解決までの一助となれば幸いです。

 なお、最後の最後に猫などペットを飼っている人限定のアドバイスも少し……。「データは細かく保存」「マグカップは蓋付きがおすすめ」。

 見出し写真は、筆者のリモートワーク中の様子です。ちなみにこの時は、リモートワークのイメージを撮ろうとしたところ、すすっとやってきてキメ顔されました。パソコンだけ撮りたかったのですが……。

 とにかくこんな風に、ちょこちょこ邪魔をされる&目を離したすきにカップやパソコンも弄られがち。特にデータ保存は忘れると大変なことになるので、自動保存の設定にしておくことはもちろんのこと、自身でも細かく保存する癖をつけておくことが大切です。

(宮崎美和子)