おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

アメリカ強襲揚陸艦ボノム・リシャール 大火災からの修復を断念し退役・解体へ

update:

 定期整備中のカリフォルニア州サンディエゴで2020年7月、大火災が発生したアメリカ海軍の強襲揚陸艦ボノム・リシャール。アメリカ海軍は2020年11月30日、艦の修復を断念し退役させると発表しました。今後ボノム・リシャールは解体されることになります。なお、代替艦の建造は予定されていません。

  •  アメリカ第7艦隊の強襲揚陸艦ボノム・リシャール(LHD-6)は、前方配置先だった長崎県の佐世保から定期整備のため、強襲揚陸艦ワスプ(LHD-1)と任務を交代し、カリフォルニア州サンディエゴ基地へと2018年に移動しました。岸壁に接岸していたボノム・リシャールで火災が発生したのは、2020年7月12日の朝8時30分頃のこととされています。


     ボノム・リシャールの乗組員数は1000名あまりですが、定期整備中ということもあり、ほとんどが陸上での勤務となっていたため、火災発生当時に艦内にいたのは160名ほど。火災警報により、艦の消防隊を除いては速やかに避難が進み、幸いにも乗組員の死亡者はいませんでした。

     しかし、ここからが長期間にわたる消火作業の始まり。密閉空間である艦内は火災により高熱となり、消火にあたる消防隊の前進を妨げます。まずは消防隊が活動できるよう、艦の外側から放水し、温度を下げる措置がとられました。

     サンディエゴ基地にある消防艇が総動員され、ボノム・リシャールの外側から放水して温度を下げます。同時に、ヘリコプターも上空から飛行甲板に放水し、艦内の温度を下げて消防隊が活動できる状況を作るため奮闘しました。


     海軍だけでなく、近隣の連邦消防局からも応援が駆けつけ、24時間体制で消火作業が続きます。一時は艦橋構造物からも炎が吹き出し、レーダーマストも高熱により座屈するまでに至りました。


     出火からまる4日が経過した7月16日、ボノム・リシャールが所属する第3遠征打撃軍司令官のフィリップ・ソベック少将の記者会見で、発見できた火はすべて消火したと発表され、火災はようやく鎮圧されました。その後、鎮火が確認されています。

     4日以上にわたって燃え続けたボノム・リシャールの被害は甚大で、当初から火災の高熱によって強度が低下した艦を修復できるのかは疑問視されていました。11月30日、海軍から正式にボノム・リシャールの修復を断念し、退役・解体することが発表されたのです。


     ケネス・J・ブレースウェイト海軍長官は、ボノム・リシャールの処分について「軽々に判断したものではありません。様々な案を検討し、調査した結果、修復するには財政面で不可能であるという結論に至りました。費用対効果の面から修復が断念されたのは悲しいことですが、就役から22年にわたり、船とともに航海し、戦った人々の中でボノム・リシャールは生き続けることでしょう」との談話を発表しています。

     海軍の試算によると、ボノム・リシャールを修復する場合、建造予算の倍に相当する約30億ドル(約3130億円)以上の予算と5年〜7年の期間が必要とされました。また、代替艦を建造した場合では、10億ドル以上の予算が必要との試算もなされ、同じ額で新たな病院船や潜水母艦、指揮統制艦といった艦船が建造できるとの結論に至ったといいます。

     解体に至るまでの予定はまだ確定していませんが、海軍は今後、ほかの艦船で再利用可能な装備をボノム・リシャールから回収し、退役の手続きを行なうとのこと。現在も出火原因や火元の特定といった調査は継続して実施されています。

     ボノム・リシャールの火災を受け、海軍では艦船や港湾施設における防火のプログラムを改訂。艦隊司令官は協力して海軍の防火規則に基づいて防火体制の評価プログラムを確立し、消火作業は修復可能な艦船を優先させるという形になったといいます。

     結果として強襲揚陸艦ボノム・リシャールを失う、という大きな火災となりましたが、海軍はこれを教訓に防火体制や消火作業についての指針を見直すことに。起こって欲しくはないでしょうが、この教訓は将来、役に立つ時が来るかもしれません。

    <出典・引用>
    アメリカ海軍 プレスリリース
    Image:U.S.Navy

    (咲村珠樹)

    あわせて読みたい関連記事
  • 弾道ミサイル対処訓練を行う護衛艦あたごの乗組員(画像:海上自衛隊)
    宇宙・航空

    弾道ミサイルに対処する日米共同訓練「レジリエント・シールド2023」

  • 横浜の「動くガンダム」前で再入隊の宣誓をするラビーチ2等兵曹(画像:U.S.Navy)
    宇宙・航空

    ガンダムの前で服務の宣誓!意外と自由なアメリカ海軍の再入隊式

  • ずらりと並んだF/A-18E/FとEA-18G(78式組長さん提供)
    インターネット, おもしろ

    増えも増えたり50機あまり スーパーホーネットとグラウラーのプラモ飛行隊

  • 並走するフランス・イタリア・アメリカの空母(画像:U.S.Navy)
    宇宙・航空

    アメリカ・フランス・イタリアの空母部隊 地中海で共同訓練

  • 開会式の記念写真右から3人目が海上自衛隊の野口1佐(画像:U.S.Navy)
    宇宙・航空

    日本を含む60か国が参加 中東で最大規模の海軍共同訓練始まる

  • トンガとの友情を見せるラグビーボールを示す航空自衛官(画像:Commonwealth of Australia)
    宇宙・航空

    火山災害のトンガ 自衛隊や各国軍による救援活動が進む

  • チュニジア海軍と訓練中の空母ハリー・S・トルーマン(画像:U.S.Navy)
    宇宙・航空

    NATO艦隊が地中海で共同演習を開始 冷戦後初めてアメリカ空母も参加

  • サンディエゴを出港する空母エイブラハム・リンカーン(画像:U.S.Navy)
    宇宙・航空

    空母エイブラハム・リンカーン 東太平洋地域へ展開

  • 空母ジョージ・H・W・ブッシュ艦上のMQ-25(画像:U.S.Navy)
    宇宙・航空

    アメリカ海軍の無人空中給油機MQ-25 初めての空母運用試験終了

  • ポートランドから照射されるレーザー(画像:U.S.Navy)
    宇宙・航空

    アメリカ海軍 中東アデン湾でレーザー兵器の実射試験を実施

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 雨や洪水の警報が変わる 新・防災気象情報、警戒レベル表示で行動判断しやすく
    社会, 経済

    雨や洪水の警報が変わる 新・防災気象情報、警戒レベル表示で行動判断しやすく

  • 声優とAIの共存を模索 81プロデュースとイレブンラボが業務提携、オリジナルの声を守り多言語展開へ
    アニメ/マンガ, 声優

    声優とAIの共存を模索 81プロデュースとイレブンラボが業務提携、オリジナルの声…

  • Google、ダークウェブレポートを終了 実用的な対処支援へ重点移行
    インターネット, サービス・テクノロジー

    Google、ダークウェブレポートを終了 実用的な対処支援へ重点移行

  • 駅ホームでの“撮り・録り”が危険に? JR東日本が注意喚起ポスターと動画を展開
    社会, 経済

    駅ホームでの“撮り・録り”が危険に? JR東日本が注意喚起ポスターと動画を展開

  • イベント「清水 ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎祭」(清水駅前銀座商店街)
    エンタメ, 映画

    仲村トオルが清水に凱旋 映画「ビー・バップ・ハイスクール」40周年イベント開催

  • アクリルロゴディスプレイSounds PlayStation
    ゲーム, ホビー・グッズ

    あの起動音が再び 「アクリルロゴディスプレイSounds PlayStation…

  • トピックス

    1. Google、ダークウェブレポートを終了 実用的な対処支援へ重点移行

      Google、ダークウェブレポートを終了 実用的な対処支援へ重点移行

      Googleは12月16日、個人情報がダークウェブ上に流出していないかを確認できる「ダークウェブ レ…
    2. Gmailを受診している画面

      Gmailの仕様変更でPOP受信が終了 自分は対象?POP利用チェック

      Gmailの仕様変更により、外部メールを取り込むPOP受信機能が2026年1月より利用できなくなりま…
    3. イベント「清水 ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎祭」(清水駅前銀座商店街)

      仲村トオルが清水に凱旋 映画「ビー・バップ・ハイスクール」40周年イベント開催

      映画「ビー・バップ・ハイスクール」(1985年)の劇場公開40周年を記念したイベント「清水 ビー・バ…

    編集部おすすめ

    1. 雨や洪水の警報が変わる 新・防災気象情報、警戒レベル表示で行動判断しやすく

      雨や洪水の警報が変わる 新・防災気象情報、警戒レベル表示で行動判断しやすく

      国土交通省と気象庁は12月16日、雨や洪水などの危険を伝える「防災気象情報」について、2026年(令和8年)の大雨シーズンから新たな運用を始…
    2. コミケの名物現象がまさかのグッズ化 「食べられるコミケ雲(わたあめ)」爆誕

      コミケの名物現象がまさかのグッズ化 「食べられるコミケ雲(わたあめ)」爆誕

      夏コミ名物、会場の熱気と参加者の汗が昇華して天井付近に発生するという伝説の現象「コミケ雲」。まさかそれを口にできる日が来るとは、誰が想像した…
    3. Reactに「CVSS 10.0(最高)」の脆弱性 IPAが注意喚起

      Reactに「CVSS 10.0(最高)」の脆弱性 IPAが注意喚起

      情報処理推進機構(IPA)は12月10日、多くのウェブサービスで使われている開発技術に重大な問題が見つかり、国内でも悪用したとみられる攻撃が…
    4. ライバー事務所4社に公取委が注意 「移籍しづらい」契約に懸念

      ライバー事務所4社に公取委が注意 「移籍しづらい」契約に懸念

      ライブ配信アプリ「Pococha(ポコチャ)」で活動するライバーをサポートしている事務所4社が、所属ライバーの“退所後の活動”を不当にしばっ…
    5. パラマウントのプレスリリース

      まるで三角関係?Netflixと“婚約発表”したワーナーにパラマウントが求婚 関係を分かりやすく解説

      アメリカの映画製作・配給会社であるパラマウントが12月8日、同じくアメリカのメディア企業ワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)を1株…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト