5月13日は「愛犬の日」とされています。日本で純血種の血統証明書や犬籍(犬の戸籍)の登録、災害救助犬の育成をしている国際的愛犬団体「ジャパンケネルクラブ」と関係があるように思えますが、実は無関係。どうやら昔、愛犬雑誌の開催したイベントにちなんでいるようです。

■ 少なくとも10年前にはあったもよう

 5月13日を「愛犬の日」として記載しているカレンダーは、様々なものが流通しています。これ以外にも、犬の鳴き声に由来する11月1日(ワン、ワン、ワン)が「犬の日」として知られていますが、この「愛犬の日」の由来はなんなのでしょうか?

 世の中には日本で純血種の血統登録を実施している愛犬団体、一般社団法人ジャパンケネルクラブの創立記念日だ、という説がまかり通っているようですが、これはジャパンケネルクラブ自身が「よくあるご質問/5月13日「愛犬の日」に関する誤報について」の中で誤報であると訴えています。

 わざわざ否定するページを作るということは、よほど「ジャパンケネルクラブ説」が定着しているものと思われます。

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<一般社団法人ジャパンケネルクラブ「よくあるご質問」より引用>
「5月13日は『愛犬の日』として本会が制定した日」であるとか、「本会の創立日と関係がある」などの情報が流布されているようですが、これらの情報は、本会とは何ら関わりのない誤報でありますことをお知らせします。
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 少しインターネットで調べてみますと、いくつかのサイトで“5月13日「愛犬の日」を制定したのはジャパンケンネルクラブ”と確かに紹介されています。古いものだと2011年6月に投稿された個人ブログでこの記述を見つけることができました。どうやらこの説は、少なくとも10年前にはあったようです。

■ ジャパンケネルクラブには「5月13日」を記念日とする根拠がない

 ジャパンケネルクラブは1948年、東京都畜犬商業組合(犬を取り扱うペット業者の団体)の組合長だった坂本保をはじめとする有志により、全犬種団体として「全日本警備犬協会」として設立が図られました。それまでは各犬種ごとに愛好家団体が存在していましたが、戦後の新しい時代にふさわしく、包括的に純粋種の犬を対象として組織しよう、というわけです。

 協会は1949年に農林大臣から設立を許可され、設立総会を開いた9月1日を創立記念日としました。1950年11月3日には第1回本部展覧会が上野公園を会場として開催され、全国から約300頭もの犬が参加したといいます。協会は1952年、ジャパン・ケンネル・クラブ(JKC)の名称を採用し、1976年に会名を「ジャパン ケンネル クラブ」としています。

 このように、ジャパンケネルクラブには「5月13日」を記念日とする根拠が存在しないことが分かります。では、なぜ「愛犬の日」は5月13日なのでしょうか。

 ジャパンケネルクラブとほぼ同じ時期の1952年、愛犬家を対象とした雑誌「愛犬の友」が創刊されました。「子供の科学」などで知られる誠文堂新光社(現在の誠文堂新光社は1998年、経営危機に陥った旧・誠文堂新光社から出版営業権を譲渡された株式会社朋文社が社名変更したもの)から刊行されていた雑誌で、2020年7月号をもって雑誌形態での刊行は休刊となり、オンラインに移行しています。

 この「愛犬の友」、当時の雑誌では珍しくなかったことですが、愛読者を対象としたイベントがあり、昭和30年代の5月13日に自社主催イベントを実施したということがあったようだ、とジャパンケネルクラブは言及しています。70年近い昔の出来事であり、当時の事情を知る人もいないことから定かではありませんが、5月13日を「愛犬の日」とする根拠はここにあるようです。

 ジャパンケネルクラブには毎年、5月13日の「愛犬の日」が来るたびにマスコミなどからも由来について問い合わせが来るそうで、そのたびに自分たちは無関係で全くの誤報である旨を説明しているんだとか。世の中には由来が分からなくなった伝説や風習、記念日、祭りといったものがありますが、この「愛犬の日」もその類のようです。

 ちなみにインターネットでこの情報がどこまで遡れるかを調べているとき、個人ブログの一つで「書籍などを参考にした」(編集部註:出典は記載されていませんでした)という記述を目にしました。もしかすると過去の出版物に掲載された誤った情報が、インターネットに転載されそのまま生き続けてしまったのかな?という気がします。

<出典・引用>
一般社団法人ジャパンケネルクラブ 5月13日「愛犬の日」に関する誤報について
※見出し画像は一般社団法人ジャパンケネルクラブ公式サイトからのスクリーンショットです

(咲村珠樹)