おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

皆で自由に歩き回れるVR・メタバースの世界 メディアアーティストが繰り広げるザ・ワールド

 近年急速に発達している技術のひとつが、「メタバース」と呼ばれる3Dの仮想空間。従来のバーチャルと異なり、まるでリアル世界のように、アバターが様々なアクションを行える「ワールド」が特筆すべき点。

 その中で、メディアアーティストの坪倉輝明さん(以下、坪倉さん)は、累計アクセス数が500万回を超える「皆で自由に歩き回れるVR・メタバースの世界」を制作されています。

  • 「皆で自由に歩き回れるVR・メタバースの世界を作っています。公開ワールドの累計アクセス数は約570万回。メタバース クリエイター、メタバース関連銘柄ですよろしくお願い致します!」

     世界最大のVR(仮想現実)/メタバースのプラットフォーム「VRChat」で公開した作品(ワールド)を4点紹介した坪倉さん。それぞれ、「DANCHI – 団地」「Japanese Office – 坪倉仮想事務所」「坪倉仮想美術館 – Tsubokura Virtual Museum」「VERTEX: VRC Battle Royale」というタイトルの「空間」です。

     「DANCHI – 団地」は、「自分が見たい景色」を具現化したもの。

    自身の幼少期の記憶を元に制作した「DANCHI - 団地」。

     「『夕暮れの団地や、住宅街近くの河川敷を友人と帰宅した』といった子供の頃からの思い出がベースです。山側には高速道路が通っていて、夜になるとオレンジの電灯や車のライトがキレイで……そんな懐かしさを感じられるような、『ノスタルジックな世界を造りたい!』と思って制作しました」

     「Japanese Office – 坪倉仮想事務所」は、今回紹介した中では最古の作品。2020年3月ごろに制作されています。

    テレワークが普及し始めた2020年3月に作った「Japanese Office - 坪倉仮想事務所」。

     実は坪倉さんの「本業」は、「現実とデジタルの境界線をあえて曖昧にした」メディアアート作品を制作している人物。作品は、企業のイベントや美術館などで展示されています。

     しかし、世界的にコロナウイルスが猛威を奮っていたのが2020年3月当時。多くの「リアルイベント」が中止になる中、坪倉さんも仕事(展示)が激減。

     一方、大きく増加したのが「自由時間」。それを生かし坪倉さんは、自身の3Dモデリングのスキルアップも兼ね、2017年から始めていた「メタバース」に本格的に関わることになったそうです。

     また、そのタイミングで注目されるようになったのが「テレワーク」。坪倉さん自身、フリーランスという立場で、在宅ワークで仕事を行っていることもあり、作品でもそれを反映させたとのこと。

     「常に自宅で仕事を行っているので、人と会うこともなく、外出も月に1回あるかどうかという程度でした。そこで、『VR空間でみんなで仕事(テレワーク)がしたい!』という気持ちが芽生え、制作にいたりました」

     またVR空間内では、アバターの身振り手振りに加え、他者の声の距離や方向も感じられ、口も声に連動して動くので、ビデオ会議より複数人の打ち合わせに向いています。

     さらに、自身の幼少期の思い出も取り入れたそうで、ワールドは『親の会社の事務所へ遊びに行かせてもらった時の記憶』がベース。

     「イメージは、『1990年代のオフィス』になります。事務所の他に、喫茶店や会議室も同居していますよ」

     「坪倉仮想美術館」は、ちょうど1年前の2020年12月に公開したワールド。先述の通り、コロナ禍で「リアル」で作品を紹介する機会を逸失した坪倉さんが、「それならバーチャルに創ろう」と逆輸入。

    リアルの作品をバーチャルに展示した「坪倉仮想美術館 - Tsubokura Virtual Museum」。

     そして最後の「VERTEX: VRC Battle Royale」は、現在鋭意製作中の最新作。上記3作と異なり、空間内でFPSゲームが遊べるワールドとのことで、VRゴーグルを装着して同じ空間にログインし、最大18人でマップ上で銃撃戦が行えるという仕様です。

    ワールド内でFPSゲームが楽しめる「VERTEX: VRC Battle Royale」。

     というわけで、自身のノスタルジーに仕事・遊びと、様々な角度からワールド作りをされている坪倉さん。つぶやきにもある通り、累計アクセス数は約570万回と高い評価を受けている作品です。

     しかしながら、坪倉さんの本業は「メディアアーティスト」。光と影を巧みに使用した作品は、国内外で高い評価を受け、総務省主催の「異能vation ジェネレーションアワード」では、2018年に作品「空想ジオラマ」が部門最優秀賞を受賞。

    「異能vation ジェネレーションアワード」

     また、編集部でも以前に紹介した「不可視彫像」でも、「VRクリエイティブアワード2017審査員特別賞」「Mashup Awards 2017 Interactive Design部門 優勝」を受賞されています。

    編集部では以前「不可視彫像」を記事にて紹介。

     当時も筆者が執筆を担当したのですが、特に印象的だったのが、坪倉さんはコロナ禍を必ずしもピンチとはとらえていないという点でした。寧ろ「ピンチはチャンス」とばかりにメタバースに参入し、先鞭となる取り組みをされています。

     そもそも坪倉さんの場合、作品自体が「メタバース」と親和性が高く、金沢工業大学在籍時という早くからVRと関わってします。「時代が追い付いた」と表現した方が正しいのかもしれません。自身のインスピレーションをフルスロットルで伝えられる世界が、「メタバース」とも言えるのではないでしょうか。

     一方で、前回の取材時でも「リアルでも継続して活動していきたいです」という言葉もあった通り、今月(12月)4日から、滋賀県にある「佐川美術館」にて、リアル展示会イベント「魔法の美術館III」を2022年2月13日まで開催されています。

    リアルの方も引き続き活動している坪倉さん。滋賀県 佐川美術館では「魔法の美術館III」が開催中です。

     新型コロナウイルスは、新たな変異種が猛威を振るい、依然として予断を許さない状況下にあります。この2年で、人々の生活は様々な点でデジタルに依存。今後さらなる技術発展があると想定されます。

     ただし、全てがデジタルになるとも考えにくくもあり、逆にリアルの重要性も見直されている側面もあります。そう考えると、「リアル」と「デジタル」双方でクリエイティブな表現を行える人間は大変な希少種。ひょっとしたら、「坪倉輝明」というメディアアーティストは、今後重要な担い手になるのかもしれません。

    https://twitter.com/kohack_v/status/1241373886232399872

    <記事化協力>
    坪倉輝明@メディアアーティストさん(@kohack_v)

    (向山純平)

    あわせて読みたい関連記事
  • 見える見える……木目に現れた“ひろゆき”に本人も反応「気付いてしまいましたか」
    インターネット, おもしろ

    見える見える……木目に現れた“ひろゆき”に本人も反応「気付いてしまいましたか」

  • 「見ざる・言わざる・聞かざる」を物理的に再現!1人で3猿をこなせるマスク
    インターネット, おもしろ

    「見ざる・言わざる・聞かざる」を物理的に再現!1人で3猿をこなせるマスク

  • もしも「食べられるガラス」があったら? アクリル製のリアルな“試作品”
    インターネット, びっくり・驚き

    もしも「食べられるガラス」があったら? リアルな“試作品”を美大生が製作

  • 数式を組むとシーラカンスが浮かび上がる?実在しない「シーラ関数」が話題
    インターネット, おもしろ

    数式を組むとシーラカンスが浮かび上がる?実在しない「シーラ関数」が話題

  • わーおしゃれなTシャツ……かと思いきや?夫が繰り出した斜め上の愛情表現
    インターネット, おもしろ

    わーおしゃれなTシャツ……かと思いきや?夫が繰り出した斜め上の愛情表現

  • 実験の様子(画像提供:国立研究開発法人情報通信研究機構)
    インターネット, サービス・テクノロジー

    VRで空飛ぶ体験をすると高所恐怖がやわらぐ NICTが研究成果を発表

  • アスキーアートは手打ちで作れる!?まさかの方法で生み出される「モナー」
    インターネット, おもしろ

    アスキーアートは手打ちで作れる!?まさかの方法で生み出される「モナー」

  • ジュラシックなフタ押さえ!モササウルスが割り箸をくわえてカップ麺をガード
    インターネット, おもしろ

    ジュラシックなフタ押さえ!モササウルスが割り箸をくわえてカップ麺をガード

  • 傘立てから伸びる黒い手の正体は傘 「一瞬でどこにあるか分かる」
    インターネット, びっくり・驚き

    傘立てから伸びる黒い手の正体は傘 「一瞬でどこにあるか分かる」

  • 雪の上を歩いて描いた地上絵、現れたのは巨大な海の生き物たち
    インターネット, おもしろ

    雪の上を歩いて描いた地上絵、現れたのは巨大な海の生き物たち

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 北海道産のチーズを2種類使った秋冬限定フレーバー「かっぱえびせん 北海道Wチーズ味」
    商品・物販, 経済

    北海道産チーズのW使い!「かっぱえびせん 北海道Wチーズ味」がこの秋登場

  • クリスプ のりしおバター味
    商品・物販, 経済

    カルビー、「クリスプ のりしおバター味」発売 レアな“ホシ型クリスプ”も登場

  • 特別災害対策本部車(国土交通省)
    社会, 経済

    消防車も自衛隊車もNERVも! 防災車両がずらり「ぼうさいモーターショー2025…

  • ウィキペディアのページビュー
    インターネット, サービス・テクノロジー

    AI時代でウィキペディア苦境 人間の閲覧数8%減、財団が警鐘

  • ChatGPTが“全年齢対応AI”を卒業? アルトマン氏が語った「成人向けエロティカ解禁」方針
    インターネット, サービス・テクノロジー

    ChatGPTが“全年齢対応AI”を卒業? アルトマン氏が語った「成人向けエロテ…

  • ガンホー「ケリ姫スイーツ」2026年1月末に終了 2012年配信開始から13年
    ゲーム, ニュース・話題

    ガンホー「ケリ姫スイーツ」2026年1月末に終了 2012年配信開始から13年

  • トピックス

    1. 目指せ去勢マスター!「繁殖」テーマのローグライクゲーム爆誕

      目指せ去勢マスター!「繁殖」テーマのローグライクゲーム爆誕

      海外の映画やゲームが日本向けにローカライズされる際、タイトルも和訳されることもしばしばですが、「あま…
    2. 実家の一室をレトロゲームショップ風に改造 本物の什器も揃えた昭和男児の夢空間

      実家の一室をレトロゲームショップ風に改造 本物の什器も揃えた昭和男児の夢空間

      一歩足を踏み入れると、そこはまるで平成初期のゲームショップ。ショーケースにはファミコンソフトがずらり…
    3. ケーキの上は只今工事中!3歳のわが子に作った「工事現場ケーキ」が楽しそう

      ケーキの上は只今工事中!3歳のわが子に作った「工事現場ケーキ」が楽しそう

      「はたらくくるま」が好きな人に刺さること間違いなしな「工事現場ケーキ」がXで話題です。説明がなければ…

    編集部おすすめ

    1. カービィのエアライダー、桜井政博こだわりの「酔い対策」が話題 アクセシビリティ配慮に称賛の声

      カービィのエアライダー、桜井政博こだわりの「酔い対策」が話題 アクセシビリティ配慮に称賛の声

      2025年10月23日22時より配信されたNintendo公式番組「カービィのエアライダー Direct 2」にて、ゲームクリエイター・桜井…
    2. 「なぜ誹謗中傷は起きたのか」 にじさんじ運営が加害者心理を公表

      「なぜ誹謗中傷は起きたのか」 にじさんじ運営が加害者心理を公表

      ANYCOLOR株式会社は10月22日、所属ライバーである甲斐田晴さんをめぐる極めて悪質な誹謗中傷・荒らし行為への対応結果を、加害者側の意識…
    3. 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」公開40周年 タイムサーキット型時計が登場

      「バック・トゥ・ザ・フューチャー」公開40周年 タイムサーキット型時計が登場

      株式会社Gakken(学研ホールディングスグループ)は、同作の映画公開40周年を記念して、劇中の「タイムサーキット」を再現した時計「バック・…
    4. 電気通信大学が注意喚起 京王線の車内広告に何者かが不審なQRコード“貼り付け”か

      電気通信大学が注意喚起 京王線の車内広告に何者かが不審なQRコード“貼り付け”か

      電気通信大学が10月21日朝、公式Xアカウントに声明を掲載。「京王線車内の本学の広告にQRコードは記載しておりません」と述べ、車内広告にQR…
    5. 特別災害対策本部車(国土交通省)

      消防車も自衛隊車もNERVも! 防災車両がずらり「ぼうさいモーターショー2025」10月26日開催

      東京臨海広域防災公園(東京都江東区有明)で、10月26日に「ぼうさいモーターショー2025」が開催されます。警察や消防、自衛隊をはじめ、通信…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト