「特撮映像館」、今回は国産の正統派な吸血鬼映画『血を吸う薔薇』です。岸田 森演じる吸血鬼がトラウマになったという人もいるのでは?
「血を吸う」シリーズの3作目であり、正統派な吸血鬼映画。
岸田演じる吸血鬼は、ハマーフィルムの『ドラキュラ』を意識したものだろう。叫び声やアクションはクリストファー・リーを彷彿とさせる。
安易な発想としてはドラキュラ伯爵やその血縁が日本にやってきていた、というものだろうが、本作では直接ドラキュラ伯爵には関係していない。もちろんこれには「ドラキュラ」を持ち出すと版権などの絡みがあることも関係しているだろうが、むしろ日本的な伝説に西洋の妖怪である吸血鬼を溶け込ませている点で注目していいだろう。
人里はなれた寮制の女子校で起こる怪奇な事件に巻き込まれていく新任教師、という滑り出しで始まり、土地に伝わる(吸血)鬼の伝説、学園の謎と展開していくわけだが、なんといっても岸田の怪演が光る作品である。
特撮としては吸血鬼が死ぬシーンと一部のミニチュアワークといったところで、あとは特殊メイクになるだろう。
もともと日本の妖怪や幽霊といったものには人間の生き血を吸うという特徴はまれで、吸血鬼という存在そのものが日本の風土にはなじみがなかったといえる。また「ドラキュラ」が吸血鬼の代名詞のようにもなっているので、正統派の吸血鬼映画を作るのはいろいろな面で難しい事情があったのは想像できる。その点、本作ではビジュアル面でこそドラキュラ的なイメージを踏襲しながら、「ドラキュラ」とは一線を画すといううまいシナリオとなっている。
ドラキュラ映画でおなじみの「お約束」も半ば封印していて十字架や聖水といった宗教的なアイテムも登場しない。また本家ドラキュラは死ぬと灰になるが、本作では溶けているように見える。
「血を吸う」シリーズはこれで終わるわけだが、岸田 森の吸血鬼をもっと観たかったと思うファンは多いだろう。
監督/山本迪夫
キャスト/岸田 森、黒沢年男、田中邦衛、望月真理子、太田美緒、桂木美佳、ほか。
1974年/83分/日本
(文:猫目ユウ)