夢か、うつつか、まぼろしか。静岡県伊東市には時代を彩ってきた“流行”たちの終着駅「まぼろし博覧会」(伊東市富戸1310-1)があります。
ここには廃業した元祖国際秘宝館、石和秘宝館ロマンの館など全国8か所の秘宝館や全国を巡る企画展、テーマパークなどから引き取った展示物、さらに館長のセーラちゃんが個人でコレクションしたものが雑多に展示されています。
訪れた人は誰もが口々に「カオス空間」「訪れると精神崩壊する」「ノイズがすごい」「圧倒的情報量」といった感想をのべ、今や全国に名をとどろかせる指折りの「珍スポット」。
展示されるものたちはどれも、当時の面影そのまま……。というわけではなく、セーラちゃんの感性により「個性爆発」にアレンジされ、独特の表現で展示されています。それらはセーラちゃん曰く、全て時代の「コラージュ」。
つまり、まぼろし博覧会は、全てがセーラちゃんのコラージュブックのようなもの。しかもこのコラージュは現在も続き、倉庫にまだ大量にあるという蒐集品との入れ替えや展示エリアの追加による新展示が随時行われ、常に変化し続けています。
筆者が前回まぼろし博覧会を訪れたのは、2018年。その際、できる限りの内容を記事にして紹介しましたが、あれからわずか2年にもかかわらず新エリアを含めてかなりの内容が追加されたというので、今回は新エリア・変更があったエリアや展示を中心にお届けします。
■ 2019年10月から展示の「牛頭馬頭神輿」
再訪したのは2020年6月。前回は2018年の年末に訪れています。まぼろし博覧会の2018年の大きな動きとしては、5月3日に新エリア「まぼろし島」が追加された年です。本稿は「まぼろし島」以降の追加エリアや展示を中心に紹介します。
まずは順路の通り、巨大温室「密林にたたずむ大仏と世界古代文明遺跡」から入っていきます。
温室では、バブル時代に全国をまわっていた“世界不思議系展覧会”から譲り受けたという、古代遺跡のレプリカたちが草に埋もれて展示されている他、まぼろし博覧会のシンボルともいえる巨大なまぼろし大仏こと聖徳太子像が鎮座。そして、ヴィジュアル系バンド・R指定がコンサートで使用し2016年に寄贈した巨大仁王像1対が、聖徳太子像を見下ろすように置かれています。
入ってすぐ気づいたのが、入り口付近からずらっと装飾が施されていること。2018年に訪れたときは、入り口付近には目立つ装飾は施されていなかったのですが、今回は入ってすぐから縁日のような飾り付けになっていました。
セーラちゃんによると、この場所は「大仏様の縁日」とのこと。2019年9月に追加され、縁日の装飾および生い茂る草の隙間から、大仏様のお顔がのぞけるようになっています。
そうして縁日をぬけると、初めての人には気づきづらいかもしれませんが、みあげた右に仁王像が置かれています。正面をみると聖徳太子像。
ここは展示物がやや老朽化している以外、特に大きな変化はありません。そのままずんずん進み、奥の階段をあがると……見えてきました。2019年10月から展示に加わった「牛頭馬頭神輿(ごずめずみこし)」が。
牛頭馬頭神輿の作者は、東京藝術大学の学生たち。2019年9月に同大学で行われた学園祭「藝祭」用に制作されましたが、終了後の扱いに悩んだ学生たちはSNSを通じて、引き取り手を求める呼びかけを行いました。
しかし、幅も高さも2~3メートルという巨大な像をすぐ引き取れるという人はなかなか現れず、9月末まで引き取り手がみつからなければ解体することが決定。
そんな時に現れたのが、館長・セーラちゃんのSNSをフォローするフォロワーたち。何でも集めるセーラちゃんなら興味を持つのではないか、セーラちゃんならば置き場所にも困らないのではないかと考え、セーラちゃんに推薦したのです。
実際、セーラちゃんは当時、引き取るきっかけについて「ツイッターで見かけました。たくさんのフォロワーさんが紹介してくださいました」と筆者に語っています。
こうして結びついた二つの点。話は順調に進み、セーラちゃんが運搬用トラックの手配を行い、2019年10月にまぼろし博覧会へと迎え入れられました。今では大仏様より少し小高い場所から時代を見守るよう、穏やかな時の中でただそこに有り続けています。
■ 悪酔い横町は“ほろ酔い横町”に進化中
次に向かうのは「まぼろし島」に追加された、2020年1月1日オープンの「おっさん神宮」です。おっさん神宮とは、伊勢にあった元祖国際秘宝館(2007年3月閉館)のマスコットキャラクター「秘宝おじさん」をご神体とした神社。
まぼろし博覧会ではかねてより「秘宝おじさん」人形を数体展示していました。2020年にオープンした「おっさん神宮」ではその中の1体で、長年野ざらしで展示していた人形を綺麗に塗り直して、お社の中に鎮座させています。
というわけで、巨大温室を出て隣にある建物「昭和の時代通り抜け」から、温室「悪酔い横町」(ペンギン山・少年少女時代、ひみつの秘密基地、陽気にパラダイス)、伝説の鬼畜系ライターの名を冠した「村崎百郎館」という3つのエリアを通り抜けて進んでいきます。ちなみにこの3エリアも現在部分的に改装中。
今後の予定をざっと紹介すると、昭和の文化を展示した「昭和の時代通り抜け」では1968年パーラーが工事中(進化させるそうです)、ゲームセンターのコーナーでは「電話、携帯電話の歴史」、すぐ側ではフィギュアなどの展示コーナー「美少女村」の準備が進められていました。
そして「悪酔い横町」はペンギンの置物や、秘宝館出自とおもわれるエロ系・人体改造系マネキンに、拷問器具やミイラのレプリカなどが展示されていましたが、セーラちゃんの話では「悪酔い横町は“ほろ酔い横町”に進化します!」とのこと。といっても、全てが変わるわけではなく、一部の展示が入れ替えられ、既にあるものには(セーラちゃん的に)可愛い装飾などが施される予定だそうです。
そうこう紹介しつつ、通り道の最後は「村崎百郎館」。ここは前回とほぼ変わらず。色んな作家さんのアート作品が展示されていました。
▼各コーナーの現状
・昭和の時代通り抜け:パーラーを改装中、ゲームセンターコーナーに「電話、携帯電話の歴史」を追加。「美少女村」は準備中。
・ペンギン山・少年少女時代:ペンギンの置物やおもちゃ(ぬいぐるみなど)が展示されているエリア。前回から大きな変化は見られませんでした。
・ひみつの秘密基地:拷問や人体改造系マネキンを展示したエリア。2018年当時も一部ハロウィーン装飾を行っていましたが、装飾が増えていました。「秘密基地は年中ハロウィン天国」に進化予定。
・陽気にパラダイス:エロ系マネキンなどが撤去され、以前からあった来訪者が願い事を書いた短冊展示「千の願い」と一部の仮面展示が残され改装中。今後は「陽気にアート」に進化。2020年秋完成予定。
・村崎百郎館:2018年から大きな変更はないようです。
■ 元祖国際秘宝館のマスコットが神に 2020年1月1日公開「おっさん神宮」に参拝
いよいよ目的地「まぼろし島」へ入島します。村崎百郎館を通り抜け、外にある坂をずんずん登って行くと見えてきました。少し高い位置に設けられた「おっさん神宮」が。金ぴかに塗り直され、「秘宝おじさん」改め「おっさん太子」として朱い社の中に祀られています。なかなか趣あるなぁ。
折角なので、お社のところまで登ってきました。参拝して振り返ると……絶景。ということはなく、視界を遮る、木!草!木!。そして眼下に広がる、秘宝館出自であろうエロ系マネキンの数々(まぼろし島にはセクシーポーズのマネキンが多数置かれています)。まぼろしらしいカオス感ある景色です……。
次に向かったのが、2019年7月13日にオープンした新エリア「メルヘンランド」。エリアの入り口からして凄かったです。
朽ち果てツタがからまった状態の元自動ドアがメルヘンランドの入り口なのですが、見た目はほぼ廃墟。自動ドアの古代遺跡といわれても納得するほどの状態です。見た瞬間「ゲームの世界なら絶対この先にトラップがある」と身構えてしまいました。
しかし躊躇ってはいられません。意を決して中に入るとすぐに「メルヘンハウス」と「メルヘンの丘」が見えてきました。あ、ちゃんと整備されてる……ほっ。
前回2018年年末に訪れたときは、工事をしている真っ最中だったと記憶しています。当時は特に目立った展示は行われていませんでしたが、公開されている「メルヘンハウス」という小屋の中には、「(セーラちゃん的)カワイイ」世界観がみっちりつめこまれていました。
建物に入るとすぐに部屋全体が見渡せます。カワイイ壁紙に、子どもも好きそうなぬいぐるみに、家具、お人形……そしてリアルなマネキンにリアルな猫の人形……。うーん。カワイイとは。メルヘンとは……(しばし熟考)。
とりあえず言えるのは、ここはさながら「セーラちゃんのお部屋」といったところ。セーラちゃんの世界観の中でも、セーラちゃんが思う「カワイイ」を凝縮したエリアになっていました。
しかし……自分の本音を書かせていただくと、ホラー映画やゲームの世界を思い出してしまいました。映画「IT」に出てくるペニーワイズみたいなピエロとか出てきそうだなって。すみません。
■ 2020年5月23日公開の「メモリアル元祖国際秘宝館」
2018年の取材時からの変更を紹介してきた本稿ですが、ついに最後のコーナーとなります。最後は2020年5月23日に公開されたばかりの「メモリアル元祖国際秘宝館」。
「メモリアル元祖国際秘宝館」は、見世物小屋をテーマにしたエリア「魔界神社 祭礼の夕べ」の中にある「公衆衛生博覧曾」というコーナーに同居して設けられています。
「公衆衛生博覧曾」ではもともと、元祖国際秘宝館から移設された人間の進化に関する展示物や、学術的要素も含む珍宝的なものが、まぼろし博覧会の中では比較的綺麗な状態で展示されていました。
今回約2年ぶりに訪れてみると、入り口には以前はなかった秘宝おじさん人形が「ようこそ」と言わんばかりに置かれていました。
そして脇には、これも前は見かけなかった「性的な展示も多いため18才未満はご遠慮ください」の看板。ほほぅ。性的要素が強まったのですか。ほほぅ。
中に入ると、まず目に入ったのが元祖国際秘宝館の外観写真のパネル。2007年に閉館するまでは、国内一と謳われた伝説の秘宝館です。筆者は実際目にしたことがなく、噂に聞くその姿を初めて目にしました。アラブの宮殿でもイメージしたのでしょうか、昭和時代に建てられたラブホテルに通ずるセンスを感じます。
そうこう考えながらパネルの裏に回ると、沢山の写真が各地にあった秘宝館の説明も添えて飾られています。内容は、まぁ、くんずほぐれつな場面ばかり。閉館前に撮られた、在りし日の各地の秘宝館の様子が紹介されています。
私は秘宝館マニアというわけではないので、初めてみるものばかりであんぐり。写真にある規模と内容を今やろうとしたら、問題大ありでできないのも頷けます。これは絶対色んなところから怒られるやつだ……。
この「メモリアル元祖国際秘宝館」のコーナーは、ジャーナリストの都築響一さん協力のもと展開されています。都築さんは、全国各地の秘宝館を1993年頃から20年以上かけて巡り、歴史に埋もれかけた昭和の性遺産をすくい上げて記録。そして、本として出版こそされていませんが、全777ページにまとめた書籍「秘宝館」をUSBメモリにいれて販売しています。
ここで展示されているのは、その中の極一部。テーマは秘宝館ですが、長年足と時間をかけ各地を巡り、恐らく自腹もかなり切ったであろう取材成果の数々に、ライターの端くれとして尊敬しかありません。誰かが記録しないとすぐ歴史に消えてしまう文化。
都築さんの執念と、残そうという強い意志を、ライターという立場だからこそより強く感じました。私がこれをできるか……と言われると、多分できません。都築さんの執念あっての“仕事”だと思います。なお、都築さん著の「秘宝館」は、まぼろし博覧会の受付でも販売されています。
「メモリアル元祖国際秘宝館」の内容は、入り口で「18才未満はご遠慮ください」と書かれているとおり、全容を詳しく書くことはできないのですが、昭和が生み出し、今や失われようとしつつある「ロストカルチャー」を見ることができ、個人的には大先輩の仕事から沢山のことを学ぶ機会となりました。
なお、以前から展示されていた妊娠中の月齢ごとを表現した人体模型や、骨格標本、珍宝的なものもそのまま展示されています。多少雑に室内の端によせられてはいますが……。それでも、まぼろし博覧会の他のエリアに比べると、かなり綺麗に展示されている方だとおもいます。
■ 館長・セーラちゃんに前から気になっていたことを聞いてみた
今回は2018年からの大きな差分だけを紹介しましたが、それでも見て回るのに1時間ほどかかってしまいました。初めて行く人のために、見学参考時間を紹介しておくと、ざっと見るなら1時間、少し丁寧にみるなら2~3時間、本気でみるなら丸1日と考えて時間を作っておいた方がいいでしょう。展示物が膨大すぎて、本当に時間がかかりますから、ここは。
一通りみて外に出てみると、セーラちゃんが他のお客さんと記念撮影をしていました。セーラちゃんはまぼろし博覧会の館長であると同時に、まぼろしのアイドルでもあります。Twitterを通じて小まめに情報発信しているおかげもあり、セーラちゃんに遠くから会いに来るファンが少なくないのです。
他のお客さんとの撮影がすみ、時間があいたセーラちゃんに前から気になっていたことを聞いてみました。「ゲートの看板含めて、壊れたものって修理しないんですか?」と。
「修理したって誰もきづかないでしょ。だったら新しく作った方が楽しい!」
なるほどなー。まぼろし博覧会では、施設のメンテナンスこそ行われますが、展示物については「進化(セーラちゃん的アレンジ)」はあれど、「修理」はほぼ行われません。一度作ったり、展示されたら、時間にまかせてそのまんま。展示物によってはペンキが塗られることもありますが、それでもどこか前と違うことがほとんど。必ず何かしら進化しているのです。
約2年ぶりに訪れたまぼろし博覧会。正直、たった2年でここまで増えているとは思いませんでした。2年前の前回に続いて今回も駆け足ぎみで紹介しましたが、もしかしたら「まぼろし進化」を記録するのが私のライフワークになりかけてないか?とふと感じました。
だって、セーラちゃんはリリース出すわけでもなく、何か進化をまとめているワケでもないですから。記録を残すとすれば、私が定期的にここにきて、セーラちゃんから聞き出し、撮って、書くしかないよな……。あれ、都築さんみたいなことになってない?これが「沼」というやつか。と、どっぷり首に浸かった状態で、今の自分に気がついたのです。
今度訪れるのは1年後か、2年後か。まぼろし博覧会の進化の様子は、その時がきたらまた報告します。
<取材協力>
まぼろし博覧会
館長・セーラちゃん(@maboroshimusume)
(宮崎美和子)