おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【名作映像案内】第2回 積木くずし

update:

【名作映像案内】第2回 積木くずし時代に埋もれた名作映像作品の数々を紹介する「名作映像案内」。今回ご紹介するのは昭和58年の映画「積木くずし」。俳優の穂積隆信による原作を映画化したものです。


  • 本作の舞台となったのは1982年ですが、1970年代終盤~1980年代初頭は、「校内暴力」という言葉が話題となり、少年の非行が社会問題化していた時期です。
    フィクションではありますが、アニメ「ひぐらしのなく頃に」のヒロイン・竜宮レナが茨城県の中学校で窓ガラスを片っ端から割る事件を起こしたのもこの時代です。

    そしてこの頃、校内暴力、不登校、非行、落ちこぼれなど学校で起きる諸問題の原因として挙げられたのが詰め込み教育でありました。かくして1980年度施行の学習指導要領では、従来行われていたような詰め込み教育が見直され、“ゆとり教育”という概念が実現化されることになります。
    この路線の延長線上として、完全なゆとり教育が2002年度施行の学習指導要領によって開始されるに至りますが、ゆとり教育には多くの批判が寄せられたために、2011年度施行の学習指導要領によってゆとり教育も見直されることになりました。

    つまり、いわゆる“ゆとり教育世代(ゆとり世代)”というのは(論者によって定義は異なるものの)大体、1987年4月2日~1996年4月1日に生まれた世代ということになります。

    1996年4月2日以降に生まれた世代(“脱ゆとり世代”)は、授業時間が約30年ぶりに増加し、ゆとり世代においては削減された学習箇所が復活することになります。世代論として、未来の日本を予測する上でのヒントの1つとなるでしょう。

    さて、映画『積木くずし』の話題に戻ります。
    この映画のストーリーは以下の通り。俳優・穂波高介(演・藤田まこと)は仕事や不倫で家を空けることが多く、不倫が原因で妻・美知江(演・いしだあゆみ)との喧嘩が発生することもあった。そんな両親の姿を見てショックを受けた中学生の娘・由布子(演・渡辺典子)は不登校と非行に走ってしまいます。通う学校を変えようと考えた父は、自ら出向いて学校長と交渉するものの「不登校は親の責任」などと冷たく拒否されてしまうのでした。

    この辺りのエピソードでショッキングなのは、たらい回し、責任の押し付け合いです。

    父は母に躾を押し付け、転校先候補の学校は転校を拒み、由布子が行方不明になったため穂波夫妻が通報した時の警察の言い分は「親が管理してください」でありました。

    由布子ら不良少女数人が警察に保護された時も、警察は親と学校の責任だと指摘する一方、担任の須川教諭(演・菅貫太郎)も「こんなことは初めてだ!」と責任を全て親に押し付けるかのような発言をするのでした。

    誰もが面倒事を嫌がり、由布子と関わろうとしなかったと言えます。しかし、やっと転校を受け入れてくれる中学校を見つけるに至ります。

    そんな中、由布子は暴走族の少年を好きになります。人の愛情に飢えていたと思われる由布子にとって、癒される一時だったのでしょう。しかしその時も長く続かず、暴走族の少年からは「もう会わない」と言われてしまいます。

    そして或る時、穂波夫妻は警視庁少年相談室の技官・竹田潔(演・林隆三)を紹介されます。竹田は、由布子を更生させるために幾つか「何々をしてはいけない」という方針を示します。かくして、事態は新たなる局面を迎えることになります。

    相変わらず穂波は俳優業で忙しく家を空けることが多いため、母が1人で娘と向き合います。娘から頭を床に叩きつけられるなどの暴行を受けたり、竹田から「約束を守れないなら私は手を引きます。私の子供じゃないんだ」と言われたり、竹田が勤務時間中に動物園に行って不在だったり、他の警官から「子も子だが親も親だ」と叱責されたり、隣家の住人から「あんなに非常識で役者やってられるのかねぇ」「非常識だから役者やってるんだよ」と噂されたりする中、ひたすら耐える母(時々父も)。

    辛い日々ではありましたが、竹田の指導方針が徐々に効果を発揮し、由布子は自分から「学校に行きたい」と言い出します。
    由布子は登校するものの、担任の佐伯教諭(演・大林丈史)は「急に来られたら迷惑」と気色ばみ、由布子を職員室に隔離します。学校で居場所を得られなかったために学校から立ち去る由布子。この時の失望はいかばかりであったか。

    クライマックスにおいて、不良グループとトラブルになった由布子は、大勢の暴走族に囲まれながら殴る蹴るの暴行を受けますが、穂波は体を張って由布子を守ろうとし、由布子は父への信頼を取り戻して大団円となるのでした。

    映画は、家庭の再生への一里塚を描いて幕を閉じた訳ですが、学校など周囲の理解が得られなければ真の大団円とは言えないでしょう。しかし、映画の中で協力的な人は少なく、由布子に理解があったのは、せいぜい、転校を受け入れたA坂中学校校長(演・和崎俊哉)と自転車でパトロールしている駐在さん(演・下川辰平)の2人ぐらいでした。本作は、少年少女の教育のためには、家庭や学校、警察などを含めた地域社会の協力が重要であることを訴えていた映画でした。

    この映画で描かれた時代(非行などの少年問題が社会問題化したため、詰め込み教育が改められ、ゆとり教育路線へと転換し始めた時代)から約30年が経ちました。警察庁によると、暴走族の人数が最多だったのは1982年(この映画の舞台となった年)で、4万2510人いたそうです。しかし一昨年に警察が把握した暴走族の人数は9064人で、統計を始めた1975年以降で最少とのことです……。

    <スタッフ>
    監督・斎藤光正、脚本・新藤兼人、原作・穂積隆信、製作・黒田正司、磯野理

    <出演者>
    藤田まこと(穂波高介)、いしだあゆみ(穂波美知江)、渡辺典子(穂波由布子)、林隆三(竹田潔)、二宮さよ子(よしこ)

    制作:1983年/111分

    ●関連URL
    ▼キネマ旬報 映画データベース「積木くずし」

    (文:コートク)

    あわせて読みたい関連記事
  • 2026年も大漁!年賀状「隠しデザイン」を本気で探した結果
    季節・行事, 雑学

    2026年も大漁!年賀状「隠しデザイン」を本気で探した結果

  • 「美味しい」じゃない、“非日常の食べ物”をめぐる5冊
    ライフ, 雑学

    「美味しい」じゃない、“非日常の食べ物”をめぐる5冊

  • 例のあの和菓子、都道府県別の呼び方
    社会, 雑学

    全国で呼び名はどう違う?「今川焼」が19エリア制覇 ニチレイが“勢力図”を公開

  • 白菜の黒い斑点はポリフェノールだった 農林水産省が「捨てないで」と呼びかけ
    ライフ, 雑学

    白菜の黒い斑点はポリフェノールだった 農林水産省が「捨てないで」と呼びかけ

  • 三重県御浜町ではなぜ大量の100円玉が必要?公式Xが出題したクイズに注目
    ライフ, 雑学

    三重県御浜町ではなぜ大量の100円玉が必要?公式Xが出題したクイズに注目

  • 実は永遠じゃない エレコムがモバイルバッテリーの寿命に注意喚起「目安はおよそ2年」
    ライフ, 雑学

    実は永遠じゃない エレコムがモバイルバッテリーの寿命に注意喚起「目安はおよそ2年…

  • 缶コーヒーの「#マーク」に隠された意味 コカ・コーラ社に聞いた“色が変わる理由”
    ライフ, 雑学

    缶コーヒーの「#マーク」に隠された意味 コカ・コーラ社に聞いた“色が変わる理由”…

  • 「読書の秋」に読んでほしい!本好きライターオススメの小説&ノンフィクション5冊
    ライフ, 雑学

    「読書の秋」に読んでほしい!本好きライターオススメの小説&ノンフィクション5冊

  • 給油口の位置が運転席から分かるって知ってた? 意外と知らないドライバーのための豆知識
    ライフ, 雑学

    車に潜む「モイランの矢」って知ってる? 給油口の位置を示す小さな矢印

  • 学生時代の“謎文化”が続々集結!「○○してたら恋人募集中」アンケート結果まとめ
    ライフ, 雑学

    学生時代の“謎文化”が続々集結!「○○してたら恋人募集中」アンケート結果まとめ

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 週刊 勇者ライディーンをつくる
    アニメ/マンガ, 商品・グッズ

    「勇者ライディーン」をつくる創刊 全高65センチ、発光&変形ギミック搭載

  • TVアニメ キービジュアル
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    「ねずみくんのチョッキ」アニメ化決定 津田健次郎・能登麻美子が複数役担当

  • (写真はイメージ/写真AC)
    イベント・キャンペーン, 経済

    JR東日本、駅そば巡りスタンプ企画 148店舗参加の「駅そばの達人2026」開催…

  • ラグナロクオンライン3
    ゲーム, ニュース・話題

    「ラグナロクオンライン3」日本展開決定 スマホ&PC対応、特定コンテンツはシーズ…

  • 書籍「ふだん着で行ける秘境 ニッポンの異空間」(関口勇著)
    商品・物販, 経済

    廃墟とカオスを摂取せよ “異空間”偏愛本「ニッポンの異空間」発売

  • ABEMAで「ユーリ!!! on ICE」が無料一挙放送 「SHIBUYA ANIME BASE」で特集も
    アニメ/マンガ, 放送・配信

    ABEMAで「ユーリ!!! on ICE」が無料一挙放送 「SHIBUYA AN…

  • トピックス

    1. プレステのチャーム付きビスケット発売 アラフォーゲーマーがレビューしてみる 

      プレステのチャーム付きビスケット発売 アラフォーゲーマーがレビューしてみる 

      2月16日、バンダイからゲームファン垂涎の食玩が登場しました。その名も「PlayStationミニチ…
    2. 甘いの?しょっぱいの?1日20食限定の「チョコレート味噌ラーメン」が唯一無二の体験だった

      甘いの?しょっぱいの?1日20食限定の「チョコレート味噌ラーメン」が唯一無二の体験だった

      都内に6店舗を構えるラーメン店グループ「ソラノイロ」は、2月11日から「そらのいろ 銀座本店」にて1…
    3. 鳥羽周作シェフおすすめの「ペヤング」アレンジを実践 溶き卵につけるだけで劇的変化が!?

      鳥羽周作シェフおすすめの「ペヤング」アレンジを実践 溶き卵につけるだけで劇的変化が!?

      料理人の鳥羽周作さんが、自身のXで驚きのアレンジを紹介しました。その名も「とんでもなく簡単に最高の飲…

    編集部おすすめ

    1. TVアニメ キービジュアル

      「ねずみくんのチョッキ」アニメ化決定 津田健次郎・能登麻美子が複数役担当

      株式会社ポプラ社は2月17日、ロングセラー絵本「ねずみくんの絵本」シリーズ(作:なかえよしを/絵:上野紀子)のテレビアニメ化を発表しました。…
    2. (写真はイメージ/写真AC)

      JR東日本、駅そば巡りスタンプ企画 148店舗参加の「駅そばの達人2026」開催

      JR東日本は、駅そばを味わいながらスタンプを集められるキャンペーン「駅そばの達人2026」を、2月19日から3月18日まで開催すると発表しま…
    3. ラグナロクオンライン3

      「ラグナロクオンライン3」日本展開決定 スマホ&PC対応、特定コンテンツはシーズン制

      ガンホー・オンライン・エンターテイメントは2月13日、スマートフォンおよびPC向けMMORPG「ラグナロクオンライン3(RO3)」の日本国内…
    4. 書籍「ふだん着で行ける秘境 ニッポンの異空間」(関口勇著)

      廃墟とカオスを摂取せよ “異空間”偏愛本「ニッポンの異空間」発売

      廃墟や珍スポット、巨大工場など、なぜか心を惹きつけられる“不思議な場所”を厳選して紹介する書籍「ふだん着で行ける秘境 ニッポンの異空間」(関…
    5. 描き下ろし記念ビジュアル

      河内遙「涙雨とセレナーデ」2027年TVアニメ化 描き下ろし記念ビジュアル公開

      河内遙さんの「涙雨とセレナーデ」が、2027年にテレビアニメ化されることが決定しました。単行本最終14巻の発売日にあわせて、2月13日に発表…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト
    支援