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放送禁止の向こう側――初めての演芸場は危険な話題がいっぱい

 先日機会があり訪れた浅草で、一人途方にくれていた。打ち合わせを予定していた相手が2時間も遅れそうだと突然連絡してきたのだ。

 相手は取引先。待つことを告げてそのまま時間を潰すことにしたのだが、待ちぼうけをくらった場所は普段私に馴染みのない浅草。

  •  誰か“連れ”でもいれば色々と時間を潰すところもあるのかもしれないが、あいにく一人。どうやって時間を潰そうかとぶらぶらしていると、パチンコ屋が目に入った。

     普段パチンコをする趣味はないが、一人でできることといえば限られる。久々にパチンコでもするか……。と思ったが、財布にあるのは1万円とちょっと。時間を潰す前に全財産失ってしまいそうである。

     ふとパチンコ屋のとなりを見ると、ハッピを来た男性が声をかけてきた「昼の寄席は4時半まで。まだお時間ありますよ~」。

     見ると『浅草演芸ホール』という看板。見物料も2,500円という手頃さ。終演時間を考えると丁度いい。その日の演目を見ると、落語やコマ回しなどいろんなことをやっている様子。

     知っている芸人はいなさそうな香盤だったが、「そういや生の落語なんて見たことなかったなぁ」という思いつきで、約束の時間までそこで過ごすことにした。

     初めての演芸場は思ったより広かった。後で調べると350席もある演芸場。演芸場の中では大きな部類なのだとか。

     もぎりのおばさん、もといお姉さんによると「既に1階は満席。2階から観てください」ということなので、とりあえず2階で見物することに。入ってみると、1階2階ほぼ席は埋まっており、偶然みつけた空席になんとか尻を落ち着けることができた。

     私が見始めたときは丁度コマ回しの人が技を披露していた。時折技を中断し、コマ回しのことについて解説を入れてくれる。コマ回しといえば、テレビで見たことはあってもこうして生で見るのは初めて。

     生でみるコマ回しはテレビの狭い箱でみるよりずっと面白かった。演者が全身全霊でコマに集中する姿は圧巻。ため息と笑いが入り混じる観客の空気もこれまた良し。これが生の迫力というものなのだろうか?気付けば私もいつのまにやら声を出し、笑い驚きしていた。

     次に登場したのは落語家。名前は知らない。文章に起こすにあたって誰だったか調べようと思ったが、ちょっと名前が出てこなかった。後で後悔。

     演目は分からないが、夫婦と召し使いの男性3人が織り成すコミカルな話。旦那は嫁の目を盗み遊びに行きたいが、お目付け役として召し使いの男性を供につけられる。話はテンポよくすすみ、時折方言らしき言葉もまじる。

     落語家は一人何役もこなす。まるで一人舞台の役者のよう。顔も声も仕草もコロコロ変わる。小道具は扇子に手ぬぐい。たったこれだけ。しかも演者は座ったまま。しゃべりだけでここまで物語の情景が出てくるものかとこの人にもまた取り込まれてしまった。

     次に出てきたのが三遊亭圓歌。まるで「近所の愉快なじいさんがふらりと遊びに来た」くらいのノリで座布団に座り客席に語りはじめた。

     “愉快なじいさん”と書いてしまったが、この方、落語協会の最高顧問。かなり偉い人らしい。昔は知名度もあったが「最近はそれを言っても信じてもらえない事がある」とボヤいて笑いを誘っていた。

     その当時の人気を証明するために、昔後援会長だった元内閣総理大臣・佐藤栄作氏のサイン入り扇子も見せてくれた。

     客席から見ていたので距離もあり、真贋は定かではないが、会場内にいた全員が「おー」という声を上げた。まるで水戸黄門で印籠が出てきたようなノリである。私もつられ「おー」と同じく声をあげてしまった。

     他にも“やんことない身分のファミリー”の前で高座を務めた時の話をしてくれた。「普段の高座とは雰囲気が違いすぎた」とぼやいていた。テレビならば放送できないレベルの話である。これが生の醍醐味。普段テレビやラジオでは削られる、ギリギリどころかそのはるか向こうの話を超どころか激ぶっちゃけで話してくれる。

     他にもその“やんことない身分のファミリー”相手に落語をした話は続く。内容は腹を抱えるほどの面白さ。でも、文章ではグレーどころかブラック過ぎて書けるレベルではない。私レベルのライターだとここまで書くのが限界。おじいちゃんの威光ならば恐らくゆるされるのだろう。気になる方はおじいちゃんが健在なうちに、演芸場で直接見聞きして欲しい。

     話が終わり立ち上がろうとした段階。足が痺れて立てないと言い出した。最後は弟子が来て抱え上げて立ち去る。偉い人かもしれないが、最後まで「とぼけたじいさん」のままで笑いに包まれ座を去った。

     途中、漫才を挟みいよいよ最後の演者。この人も初めて見聞きする人だった。後で調べたところによると、どうも三遊亭歌之介という人らしい。

     真打と呼ばれる立場の人らしく。どうもこの人も偉いらしい。後で調べると「昼の部主任」と肩書きに書いてあった。主任というからにはきっと偉いのだろう。他には課長や部長もあるのかな?今度調べてみよう。

     話は戻るが、歌之介。登場するや場内から割れんばかりの拍手と呼びかけ。座った途端に「親戚でもないのに声かけてくれてありがとうございます」と声をかけたおじさんに話しかける。また場内爆笑の渦。

     この空気感は文章にすると全くつまらなく感じるかもしれないが、生で見ているとたったこれだけの掛け合いすら面白い。

     その後その日の演目に入る。演目は「爆笑龍馬伝」……だったと思う。幕末の英雄、坂本龍馬の生まれから一連を語るのだけど、途中途中で話の腰をおる。

    歌之介幼少の話から、自分が真打に昇進する際、名跡に空きがなく、新しい名前をつけるため思案した話など。ここでもまた“やんことない身分のお方”の話題が……。先代のモノマネ付きで見せてくれた。その後も、龍馬の話と歌之介幼少の話を織り交ぜながら話は続く。

     その間ずっと笑いっぱなし。大人になってここまで声を上げて笑えることがあっただろうかと思う程に人目もはばからず久々大声で笑ってしまった。

     この世にはテレビで見ないだけで、こんなにも面白い人がいるのかと一種の感動すら覚える。その日みた高座の中でも一番大笑いをさせてくれた人だった。

     全ての演目が終わり知ったことだが、『浅草演芸ホール』の場合、昼の部が11時40分から16時30分までと、夜の部が16時40分から21時まで行われている。その間、昼夜で演者がほぼ重なることなく入れ替わり出続ける。それなのに、部をまたがり客の入れ替えを行っていないとのこと。

     つまり、最長朝11時40分から21時まで約9時間2,500円で楽しむこともできるのだ。勿論、途中退席、途中入場もOK。自分の好きな演者だけ見るもよし、一日潰して見続けるもよし。こんな手軽で低価格で生の娯楽を見られる場所は他にはないのではないだろうか?

     勿論私は今後リピートすることになるとは思うし、歌之介の他の落語見たさに別の場所の寄席にも足を運びたいとも考えている。

     落語や寄席といえば「古臭い」と感じるかもしれない。私もこれまで同様に考えていたが、実際に見るそれは古臭さなど全くなく、むしろ「新鮮」に感じるものだった。

     腹の底からここまで笑えることがあるのかと思うほどに楽しい空間。また、腹の底から笑っても誰にも咎められることがない空間。機会があれば是非一度“寄席”に足を運んで欲しい。

    (宮崎美和子)

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  • 宮崎美和子編集長

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    鹿児島県産。放送関連、印刷、ソフト開発会社を渡り歩きさまざまな職種を経験。ライターデビューもこの頃。その後ゲーム会社に転職しMD(主にサブライセンス管理)、マーケを経験。運営・システム関連では管理職も務める。2008年にWEBライターとして独立。得意分野はオカルト、ネットの話題、過去職の経験から著作権と雑多。趣味は読書。40才すぎてバレエを習い始めました。

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