おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

障害者は見た目に障害がないとダメなの? ~ある発達障害者の体験から~

 障害を持っているから障害者手帳を使っただけなのに、後ろに並んでいた老人の心無い言葉に傷ついた……。こんな話がツイッターで拡散されました。

  •  「バスで料金払うときに手帳見せて障害者の料金で払ったんだけど、後ろの老人の一言でかなり落ち込みました。 自分は発達障害だから見た目は何もないんです。『最近の若者は見た目丈夫なのに嘘ついて手帳貰ってるのか。』その先は頭真っ白になって聞こ取れなかったけど悲しいですね」

     こうツイッターにつぶやいたのは、ADHDと自閉症スペクトラムを抱えている、こーたろさん。こーたろさんは、成人してから発達障害の診断を受けた、大人の発達障害当事者のひとり。子どものころから、会話の際に場の空気を読めずに突然違う話をし出したり、相手の気持ちをなかなか上手くくむことが難しかったりなど、自閉症スペクトラム特有の特性があったために、周囲から浮いてしまったり、いじめを受けてしまったりということもしばしばあったそうです。

    ■ 大人になって知った、自分が「発達障害」だということ

     こーたろさんが子どもだった当時は、今ほど発達障害の概念が確立されておらず、情報も少なかった時代。自閉症の概念といえば、著しく勉強ができずに自分の世界に閉じこもってしまいコミュニケーションが非常に難しい、という様なイメージだった時代。こーたろさんは、子ども時代からあった自閉症スペクトラムについて、親からも理解されず、暴言や暴行を受けて育った背景があります。

     そんなこーたろさんが発達障害の診断を受けたのは、22歳の時。はじめて入社した会社で上手く行かず2社目に転職しましたが、仕事が覚えられない、ミスが続くなどの失敗が相次いだせいもあってか、上司からの執拗なパワハラを受けうつ状態に。自殺未遂やうつ状態から、2018年5月に精神科を受診。その場で休職の診断書が出され、後日、検査した結果、ADHDと自閉症スペクトラムとの診断がおりたということです。現在も休職していますが、パワハラで受けた傷はそう簡単には癒えないようです。

    ■ 障害者手帳は簡単に交付されるものではない

     自閉症スペクトラムなどのいわゆる発達障害は、医師の診断書を保健所に持って手続きをとれば、精神疾患のひとつとして“精神障害者保健福祉手帳”が交付されます。一見すると簡単な手続きに見えるかもしれませんが、そもそも診断書が出るまでには、何回もの診察などが必要なため、障害者手帳の不正取得を前提にして医師を欺くのは困難。さらに診断書を出す以上は医師にも責任がともないます。医師側も患者によりそいつつ、その点は冷静な診断を行います。つまり、医師の診断書が必要という時点で、単に噓をついて交付を受けるということは困難なのです。

     障害者手帳を持つということは、自分が健常ではないということを示すこと。健常者と違って、脳の機能が違っているが故の特性であり、それは日常生活や社会生活を脅かす特性でもあり得ます。生活するにあたって障害と感じることが多くあるが故の、障害者手帳なのです。

     こーたろさんが社会的に困難を感じたことのひとつに、指示されたことが一度で覚えられずに何度も聞き返すなどした結果、相手を怒らせてしまったり、ミスが多発したりすること、一つの事に集中している時に他の要件が入ってくるとパニックになって複数のタスクを完了させることが出来なくなる、などがあります。結果、提出物をため込んで期限内に提出できないといった、仕事上での問題を多く抱えるまでに至ってしまいました。

     こうした、仕事ができない、対人関係でつまずく、などをきっかけとして抑うつ状態から発達障害に診断がつながることが最近増えてきています。これは、発達障害の特性故にまわりとの協働やコミュニケーションに困難と感じることが、二次障害的に適応障害や抑うつという状態(気分障害)を引き起こすことが多くあるためです。複数の学術文献からも、ADHDや自閉症スペクトラムと気分障害は併存すると指摘しています。

     世の中には様々なハンディキャップを抱えながら生活している人が多くいます。四肢、内臓、視聴覚、脳神経など……多くの人が、目に見えたり見えなかったりする何かを抱えて生きています。しかし、目に見えないというだけで理解されなかったり、差別的・侮蔑的な扱いを受ける人も多い現状。先述のこーたろさんのツイートには、「心の病とか見た目で判断出来ない病とかいっぱいあります。高齢の方ほど理解不足ですね」「内面の障害者は、わかりづらいですよね。私も障害者なのでよくわかります」「わからない人はわかりませんね。ASDとADHDのグレーゾーンの私も二次障害二つ、三つありますが、優先座席、ヘルプマーク、手帳、何でも使って自分の人生を歩みます」など、理解を示す声があふれています。

     また、「むしろ見た目で分からないけど辛いから手帳見せるんですけどね……」「自分も見た目では分からないけど精神2級の手帳を所持しており、バスでは見せています」「内臓疾患など見た目にはわからない人のために見せましょうよ。見た目でわかる私はタクシー乗る時につい手帳見せるの遠慮しちゃってたのですが、発達障害で手帳持ちの娘にそう言われてはっとしました」といった、認知を広めるためにも積極的に手帳を使っていくという人々の声も。こーたろさんは、自身の特性に対し、スケジュール帳、家のカレンダー、携帯のカレンダー機能を活用し、遅刻対策として、タイマーを出発時間の5時間前から一時間刻みでセットして、最後は出発時間15分前に鳴らすようにしているそうです。また「心がけてる事は、自分が間違ったことをした場合は素直に謝るようにしてます」と、自身の特性故に周囲とぶつかりやすいことを意識して行動している様子。

    ■ 障害者手帳は生きるための助け

     福祉は高齢者や障害が見た目でわかる人だけのものではありません。筆者の娘も、発達障害で手帳持ち。筆者が住む自治体では、市が運営している交通機関を福祉乗車券を利用すると無料で乗ることができるため、手帳を申請したときに福祉乗車券も発行してもらいました。おかげで、いじめや不登校など、“見えない心の傷”を負っていても、自発的に外出することができるようになりました。また、手帳を持っているおかげで、公共施設の利用料の減免などが受けられるので、積極的に見聞を広めに足を運べるようにもなりました。にぎやかなところに自主的に出ることで、発達障害者にありがちな聴覚過敏も少しずつ自分の限度を分かるようになってきました。

     こうした、各種障害者手帳は、当事者の日常生活の助けになるほか、その人がその人らしく生きるための助けにもなります。障害者手帳というものは、見える・見えないにかかわらず、何かしらのハンディキャップを背負っているから持つ事ができる、特別なものです。目が悪い人のための眼鏡や、耳が遠い人の補聴器などと同じ、その人自身をささえるためのもの。眼鏡や補聴器、杖などと同じ感覚で使えるくらい、理解が広まって欲しいと、筆者は強く思います。

    <参考>
    気分障害と発達障害, および米国における成人発達障害の取り組み (合同シンポジウム: 成人期の発達障害と心身医療, 2009 年, 第 1 回日本心身医学 5 学会合同集会 (東京))(PDF)
    障害者施策 – 内閣府

    <記事化協力>
    こーたろさん(@xXiKmo6unbH0rr8)

    (梓川みいな/正看護師)

    あわせて読みたい関連記事
  • 三笠書房ホームページより
    インターネット, 社会・物議

    ビジネス書『職場の「困った人」』が出版前からSNSで炎上、イラスト担当が謝罪

  • 発達障害さんのための友達作りアプリ「モッチ」がリリース 開発会社に質問してみた
    インターネット, サービス・テクノロジー

    発達障害さんのための友達作りアプリ「モッチ」がリリース 開発会社に質問してみた

  • 「KIBOT(キボット)」専用キーボード
    商品・物販, 経済

    発達障害児のためのタイピングソフト「KIBOT」を開発 色や形で認識するキーボー…

  • LLブック トップページ
    社会, 経済

    ひそかに話題の「LLブック」とは?「誰でも読める」全ての人に優しい本なんです

  • 障害のある猫が受け入れられる社会に 全盲猫との暮らしを発信する飼い主さんに話を聞いてみた
    インターネット, 感動・ほのぼの

    障害のある猫が受け入れられる社会に 全盲猫との暮らしを発信する飼い主さんに話を聞…

  • こまった課?
    商品・物販, 経済

    障がいを楽しく知るコミュニケーションゲーム「こまった課?」が発売

  • 発達障害のオンライン療育「ミッテル」
    企業・サービス, 経済

    発達障害者にもオンライン療育を 専用アプリ「ミッテル」開発推進めざしクラウドファ…

  • コラム・レビュー

    ロービジョンの症状は人それぞれ 当事者の漫画家が「ありえない」レビューに異例の意…

  • インターネット, びっくり・驚き

    発達障害だって個性 1枚の葉で独自の世界を表現する「葉っぱ切り絵クリエイター」

  • ライフ, 雑学

    「ADHDの私」はこう困っててこんな対策している イラストレーターがまとめた内容…

  • 梓川みいな看護師(正看護師有資格者)

    記事一覧

    一般内科、呼吸器科、整形外科、老年科、発達障害などを得意とする。医療・介護福祉等に高反応。雑多なネタも紹介していきます。
    娘二人(ともに発達障害あり)とネコ二匹の母。シングル。

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 災害ボランティアに行く前にやっておくべき大切なこと
    社会, 雑学

    災害ボランティアに行く前にやっておくべき大切なこと

  • お餅での事故を防ぐ ここがポイント!(出典:政府広報オンライン)
    社会, 雑学

    お餅での事故を防ぐ 3つのサインと3つのポイント!

  • 【ナースなコラム】MRIに禁忌なアレコレ え?増毛パウダーも!?
    ライフ, 雑学

    【ナースなコラム】MRIに禁忌なアレコレ え?増毛パウダーも!?

  • みかんは体に良いってほんと? 効能は?適量は?
    ライフ, 雑学

    みかんは体に良いってほんと? 効能は?適量は?

  • 【看護師コラム】実はこれやっちゃダメなんです!処方薬の使いまわし
    ライフ, 雑学

    【看護師コラム】実はこれやっちゃダメなんです!処方薬の使いまわし

  • エクストリーム! 全自動マーブルチョコの色分けが装置爆誕
    インターネット, おもしろ

    エクストリーム! 全自動マーブルチョコの色分け装置が爆誕

  • トピックス

    1. 絵柄がデフォでピンボケな……いつかやってくる未来に備える「老眼トランプ」が登場

      絵柄がデフォでピンボケな……いつかやってくる未来に備える「老眼トランプ」が登場

      どんな人間にもいつかはやってくる老眼。なんだか手元が見えづらいな……という状態を体験できるトランプが…
    2. 「呪術廻戦」酷似ゲームを巡る騒動 公式声明後にApp Storeから姿消す

      「呪術廻戦」酷似ゲームを巡る騒動 公式声明後にApp Storeから姿消す

      人気アニメ「呪術廻戦」に酷似したスマホゲーム「特級呪術師」が配信され、SNSで物議を醸しました。公式…
    3. 「超宇宙刑事ギャバン インフィニティ」26年2月15日放送開始 PROJECT R.E.D.第1弾

      「超宇宙刑事ギャバン インフィニティ」26年2月15日放送開始 PROJECT R.E.D.第1弾

      東映は12月25日、11月に発表していた新番組「超宇宙刑事ギャバン インフィニティ」について、202…

    編集部おすすめ

    1. 宝塚宙組公演、25日に続き28日まで中止 主要出演者の体調不良で

      宝塚宙組公演、25日に続き28日まで中止 主要出演者の体調不良で

      宝塚歌劇団は12月26日、宙組が東京宝塚劇場で上演している公演について、主要な出演者の体調不良により公演の実施が困難な状況が続いているとして…
    2. シートタイプのWebMoney

      WebMoney、事業をビットキャッシュへ承継 一部サービスは終了へ

      オンラインゲームの課金手段として知られる「WebMoney」が事業の節目を迎えます。auペイメントは2026年3月31日付でWebMoney…
    3. 「完全在宅」「未経験OK」のはずが…求人をきっかけに高額契約 消費者庁が注意喚起

      「完全在宅」「未経験OK」のはずが…求人をきっかけに高額契約 消費者庁が注意喚起

      育児などを理由に在宅で働きたいと求人サイトを利用した人が、結果的に高額な契約を結ばされるケースが相次いでいます。「完全在宅」「未経験OK」と…
    4. Netflix映画『10DANCE』

      Netflix「10DANCE」、海外SNSで広がる“困惑と魅了” 「情緒が崩壊した」人も

      Netflixで12月18日に配信が始まった映画「10DANCE」が、海外SNSで大きな反響を呼んでいます。BL作品であることに戸惑いながら…
    5. 「漆黒の指輪」は実在したものの……サン宝石、カプセルトイ「中二病が疼くリング」の“誇大表現”を謝罪

      「漆黒の指輪」は実在したものの……サン宝石、カプセルトイ「中二病が疼くリング」の“誇大表現”を謝罪

      アクセサリーや雑貨の販売で知られる「サン宝石」は12月16日、同社が展開するカプセルトイ「中二病が疼くリング」について、公式サイトおよびSN…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト