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レッドブル・エアレース2019第3戦バラトン湖大会 室屋12位で千葉の最終決戦へ

 レッドブル・エアレース2019第3戦バラトン湖(ハンガリー)大会の決勝が7月14日(現地時間)開催され、年間ランキングトップの室屋義秀選手は初戦でマット・ホール選手に敗れ12位。レースはホール選手が今季初勝利を挙げ、年間ランキング2位に、室屋選手は3位に後退し、トップとなったソンカ選手を含めた上位3名は、僅差で最終戦の千葉大会にワールドチャンピオンの座をかけ臨みます。

  • ■舞台は中央ヨーロッパ最大の湖

     2004年以来、ハンガリーでのレッドブル・エアレースは 首都ブダペストを流れるドナウ川を舞台に開催されてきました。しかし諸般の事情により、2019年はブダペストから南西へ約130kmの場所にあるバラトン湖での開催となりました。

     バラトン湖は東西に細長い形をした湖で、長さ約80km、幅は広いところで12kmほど。面積は約600平方km弱と、中央ヨーロッパ最大の湖です。内陸国であるハンガリーにとっては「ハンガリーの海」という別名でも呼ばれる場所。レーストラックは湖畔のリゾート地ザマールディ、レースエアポートは対岸のブダウエスト飛行場(旧ハンガリー軍飛行場)に設けられました。

     レーストラックのレイアウトは、2017年・2018年の千葉大会に酷似した、真ん中にシケインを挟んで両端で折り返すもの。東端のゲートがスタートとなり、シングルパイロンのゲート2からシケインのゲート3をクリアし、ゴールゲートを兼ねたゲート4を抜けてゲート5で折り返し。元来たコースを折り返し、スタートゲートだった東端のゲート9で折り返すと、今度はエアゲートであるゲート10からシケインに入ります。西端のゲート13で折り返して、ゴール。

     直線的でスピードが出やすく、両端の折り返しでオーバーGになる可能性が高いため、今回はスタート速度を通常の200ノットから190ノットに落として実施することになりました。また、レーストラックの沖側には飛行空域の限界を示す「トラックリミット・ライン」が設けられ、そこをオーバーすると1秒のペナルティが加算されます。

     第2戦カザン大会の予選でパイロン下部の丈夫な部分に主翼端がヒットし、レース機を損傷したドイツのマティアス・ドルダラー選手は、レース1週間前に機体の修復が完了。無事にレース出場ができました。

     ハンガリーといえば、レッドブル・エアレースの生みの親ピーター・ベゼネイさんの母国。今回も開催に尽力したばかりでなく、レースエアポートでは各選手と旧交を温めました。サイドアクトでも2015年シーズン途中までレースに使用していたコーバスレーサー540でエアロバティックを披露して観客を楽しませています。


     今回、室屋選手はレース機にわずかな変更を加えました。方向舵を動かす操縦索(ワイヤー)が露出している部分にカーボン製のカバーをつけたのです。ワイヤーが露出している分、そこにはほんのわずかですが乱気流が発生し、機体の抵抗になります。それを軽減し、僅差の争いになっていることを踏まえ、1000分の1秒単位でもタイムを短縮したいという狙いで取り付けたようです。

    ■悪天候に悩まされた予選

     通常レッドブル・エアレースでは、予選前日にレーストラックを使ったフリープラクティスが2回(午前/午後)、そして予選日の午前中に1回実施されることになっています。しかし今回のバラトン湖は悪天候に見舞われ、予選前日のフライトセッションがキャンセルされてしまいました。

     これにより、各選手ともセッティングを決めきれないまま予選の日を迎えました。しかも北からの強風に見舞われ、パイロンが大きく揺れる状態。午前のフリープラクティスでは、この風を考慮に入れながら、予選でのラインやターンの方法(縦にするか、斜めにするか、フラットに回るか)を探るフライトとなりました。

     フリープラクティスで目についたのが、イギリスのベン・マーフィー選手のフライト。トラックリミット・ラインをオーバーする1秒と、折り返しのターンをするゲート12でのインコレクトレベルの2秒、計3秒のペナルティを受けてしまったのですが、このペナルティがなければトップのマット・ホール選手より速かったのです。機体のセッティングとトラック攻略の順調さをうかがわせるものでした。また、フランソワ・ルボット選手は離陸後、コクピット内に煙が入ってきたということでフライトを中止し、レースエアポートに引き返しています。

     風の強い状態で始まった予選。北風はトラックの横から吹き付ける形になるので、機体が岸の方向へ流されやすくなります。特に機体が風を受けやすいナイフエッジ(90度バンク)姿勢になるシケインは要注意。そしてゲート4(12)からゲート5(13)へは、一旦岸方向へ機体を振ってから斜めに進路を取った方が速くなるのですが、角度が非常に厳しくパイロンヒットの危険が伴います。

     予選トップとなったのは、隣国チェコのマルティン・ソンカ選手。チェコの首都プラハからバラトン湖までは、東京から名古屋に行くくらいの距離しかないので、チェコからソンカ選手(ゼッケン8)とコプシュタイン選手(ゼッケン18)のファンクラブ「818 CLUB」の応援団が大勢やってきていました。

     室屋選手は予選1本目に58秒846と、ミカ・ブラジョー選手(フランス)を0秒001上回って3番手タイムをマークしましたが、予選セッション終了後に驚きの裁定が待っていました。ゲート13でトラックリミット・ラインをオーバーしており、1秒のペナルティが課されたのです。どうやら、リアルタイムで送られてくるGPS位置データの誤差を補正したところ、微妙にラインを超えていた、ということだったようです。

     これにより、室屋選手は予選ポイント(1〜3位)圏外となる9番手に後退。しかも決勝ラウンド・オブ14の対戦相手は、年間ランキングで室屋選手から27ポイント差の3位につけるマット・ホール選手となったのです。ホール選手からすると、目下のライバルを直接対決でポイント加算を阻めるチャンスとなりました。

    ■風に翻弄され室屋ラウンド・オブ14で敗退

     決勝ラウンド・オブ14のヒート3でホール選手と対戦した室屋選手。先攻として離陸した時点では「北から15ノットの風が吹いている前提で戦術を決めていた(レース後談話より)」室屋選手。ところがレーストラックに進入する直前、風がパタリと止んでしまったのです。風で押し戻されることを前提に進入速度を調整していたこともあり、スタート速度は187.6ノット。ゲート5での折り返しは若干遠回りになる縦のターン(VTM)を選択したことも含めて、最初のセクタータイムは22秒377と大きく遅れます。

     反対側ゲート9でのターンは沖側へ左旋回を選択。これも裏目に出て、ノーペナルティだったものの1分1秒016というタイムに終わりました。この時点でヒート1の敗者イワノフ選手のタイムに届かず、負けるとここでレースが終わる土俵際に立たされます。

     後攻のホール選手は、室屋選手のこのタイムを無線(レース中は聞くことを義務付けられている)で聞き、トラックに風が吹いていないことを察知。これに対応し、最初のセクタータイムから21秒644とリードします。そのまま攻めのラインで飛んでノーペナルティの59秒232をマーク。1秒784の大差をつけて室屋選手を退けました。フライト順により、大きなアドバンテージが得られることを再認識させられた対決でした。

     やはりレーストラック両端でのオーバーGやインコレクトレベルが目立ったラウンド・オブ14。オーバーGはヒート1のマクロード選手(ゲート5)とイワノフ選手(ゲート13)、ヒート4のブラジョー選手(ゲート13)。インコレクトレベルはヒート2のルボット選手(ゲート4・12)、ヒート7のドルダラー選手(ゲート13)がペナルティを喫しました。ルボット選手とブラジョー選手のフランス勢は、ペナルティ抜きのタイムは相手より速かっただけに惜しまれます。

     ラウンド・オブ8に進出したのは、ヒート順にマクロード選手(カナダ)、マーフィー選手(イギリス)、ホール選手(オーストラリア)、チャンブリス選手(アメリカ)、グーリアン選手(アメリカ)、ベラルデ選手(スペイン)、ソンカ選手(チェコ)の勝者7人と、ファステストルーザーのボルトン選手(チリ)です。

    ■ファイナル4でソンカまさかのパイロンヒット!

     ラウンド・オブ8では、ヒート順にマクロード選手、マーフィー選手、ホール選手、ソンカ選手が勝利してファイナル4へ。マーフィー選手と対決したベラルデ選手は、ゲート13でのトラックリミット・ラインをオーバーする1秒ペナルティがなければ、マーフィー選手より速いタイムをマークしていたので不運でした。ここは斜めにターンする時の角度が少し違うと、トラックリミットを割ってしまうので、非常に微妙です。

     ファイナル4の飛行順は、マクロード選手、マーフィー選手、ホール選手、ソンカ選手。マクロード選手はゲート13通過後の折り返しターンでトラックリミット・ラインを超過し1秒のペナルティ。58秒966となります。

     次に飛んだマーフィー選手も、ゲート5通過後の折り返しターンで11.4Gを記録してしまい、1秒のペナルティ。しかし58秒957とマクロード選手を上回り、自身初の表彰台を確定させました。


     続いて飛んだホール選手は、ミスなくまとめて58秒839。この時点でトップに立ちます。そしてソンカ選手のフライトを迎えました。

     チェコからやってきた応援団の声援を受けて、ソンカ選手がスタート。シケインを通過してゲート4に向かう際、ここで風が運命の歯車を回しました。北から吹き込む風により、ソンカ選手の進路が岸側に流されます。進路のズレは1mほどだったでしょうか。しかし、レース機の主翼端がパイロンに接触するには十分すぎる距離でした。

     ゴールゲートを兼ねるチェッカー模様のパイロンが裂け、先端が宙に舞います。痛恨のパイロンヒットで3秒ペナルティとなり、この時点でソンカ選手の手は表彰台に届かなくなっていました。

     優勝はマット・ホール選手。そしてマーフィー選手はマスタークラス昇格2年目にして初の表彰台となる2位。マクロード選手も久々の表彰台となる3位となりました。ソンカ選手は表彰台を逃したものの、予選1位の3ポイントを含めて21ポイントを加算。室屋選手にかわって年間ランキング首位に立ちました。

    ■3名が10ポイント差で千葉の最終決戦へ

     優勝したホール選手は「このレースに優勝しないとワールドチャンピオン争いは終わると思っていたから、最大限プッシュしたよ。ギリギリの角度で飛んだし、自分の感覚もレース機と一体になってゲートをクリアし、ウイングレットがパイロンぎりぎりを通過するのを感じられるほどだった。これでマルティンの背中に爪を立てて食らいつけたし、ヨシ(室屋選手)対しても食らいつけた。千葉でのレースは……決して楽しいとは言えないけども、とてもエキサイティングなものになると思ってる。去年のフォートワースでの最終戦みたいに、タイトなレースになると思う」という談話を残しています。

     年間ランキングはソンカ選手が65ポイントで首位に。室屋選手は12位に終わり、2ポイント加算の55ポイント。優勝したホール選手は25ポイントを加算し、61ポイントと年間ランキング2位に浮上しました。

     首位ソンカ選手とは、2位のホール選手が4ポイント差、室屋選手が10ポイント差と、ワールドチャンピオン争いは事実上この3名に絞られました。レッドブル・エアレースの歴史を締めくくる9月7日(予選)・8日(決勝)の千葉大会は、かつてないほどの熱い戦いとなります。最後のワールドチャンピオンに輝くのは、誰になるのでしょうか。

    <出典・引用>
    レッドブル・エアレース公式サイト
    Image:Red Bull Media House GmbH, Andreas Langreiter, Aron Suveg, Daniel Grund, Joerg Mitter, Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool

    (咲村珠樹)

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