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子供のクレヨン画から誕生「ネコマーク」と宅急便の秘密をヤマト運輸に聞いた

 通販など、日頃の生活でお世話になっている宅配便。その元祖、クロネコヤマトの「宅急便」でお馴染みのネコマークは、社員の子どもが描いたクレヨン画をヒントにして作られました。ヤマトホールディングスにネコマークと宅急便の秘密を聞いてみました。

  •  黒い母猫が子猫をくわえている様子を図案化したネコマーク。「クロネコヤマトの宅急便」というフレーズでお馴染みの宅急便をはじめ、ヤマトグループ全体のシンボルマークとして知られています。

     実はヤマト運輸の正式な社章は、桜の花に「Y」の文字が入ったもの。ヤマトホールディングスの担当者によると「1922年ごろから使用しております。桜の花びら一枚一枚は社員で、それが集まって花となり、さらに集まって木となるさまが当社の経営理念である全員経営を表現しています」というものだそうです。

     ネコマークが制定されたのは1957年。アメリカの大手陸運会社アライド・ヴァン・ラインズとの提携がきっかけでした。アライド・ヴァン・ラインズは、現在もアメリカの引越し大手として知られています。

     提携の理由についてうかがうと「戦後、米軍の駐留などもあり日本と米国などの間の海外輸送ニーズが増えていた中で、全米で700の協力会社を傘下に収めるアライド・ヴァン・ラインズ社と提携し、日本全国からアメリカなどへの家財の梱包、輸送、船積みなどの業務を開始しました。この提携は、在日米軍の減少などにより業務が縮小するまで、約5年間続きました」とのこと。1947年には越前堀営業所(東京都中央区新川)を開設し、日本に出入りする軍人軍属の家財梱包輸送を始めていたので、アメリカの陸運会社との連携が必要だったんですね。

     この際、アメリカに渡った当時の小倉康臣社長は、アライド・ヴァン・ラインズの広告などに使用されていた猫のイラストに目を止めます。子猫を大事そうにくわえて運ぶ母猫のイラストには「careful handling(丁寧な荷扱い)」のコピーが添えられ、利用客の大切な家財を丁寧に運ぶというポリシーに共感した康臣社長は、同社のジェームズ・カミンズ氏からその使用許諾を得て、親子猫のモチーフを使用して新たなマークをデザインすることに。担当することになったのは、当時広報を担当していた清水武さんでした。

     清水さんの娘さんがクレヨンで描いた親子猫の絵がヒントになり、1957年にネコマークが誕生します。どのような経緯で現在のクロネコになったかについては「試行錯誤した当時の様子などについては記録になく、分かっていません」とのことですが、ネコマークのヒントとなった絵は社内で大切に保存されており、東京の品川駅近くに2020年7月2日開館した「ヤマトグループ歴史館 クロネコヤマトミュージアム」に、そのレプリカが展示されています。



     ネコマークは制定直後から、当時の営業範囲だった関東一円を走るトラックの車体に描かれ、多くの人の目に触れるようになります。その後も「チラシ、ポスター、車両や営業所の看板など、広告・宣伝に社名とともにネコマークを使用しました」と担当者。顧客にとっては、ネコのマークで覚えられていったようです。

     また「1969年の制服リニューアル時には、制服・制帽にもネコマークを採用し、1985年4月からは、ネコマークを準社章とし社員バッジを『桜にY』から『ネコマーク』に変更しました」とのこと。目に見えるところはネコマークに統一されたそうです。

     小口貨物の戸別配送、という現在の宅配便システムの元祖となった「宅急便」が始まったのは1976年。企業などの業務輸送ではなく、一般向けのサービスということもあり「同年に作成した弊社最初のTVCMではネコマークのネコを主役としたアニメーションを放映しました。また、宅急便取扱店の看板や旗など街の中で見かける機会が増え、より広くお客さまに知っていただくようになりました」と担当者が語ってくれたように、ネコマークはより多くの人に知られるようになりました。

     宅急便が1976年にサービス開始した当初の商品名は「YPSの宅急便」でした。担当者によると「発売前に商品名の候補として上がっていた『YPS(ヤマト・パーセル・サービス)』と『宅急便』を当初は併記しておりましたが、次第に宅急便の方が浸透していったためYPSの併記をしないようになりました」とのこと。

     現在親しまれている「クロネコヤマトの宅急便」というキャッチフレーズについては「誕生した明確な時期は分かりませんが、1979年のCMソング誕生以前からございました」という答えをいただきました。これ以前からネコマークがヤマト運輸のシンボルとして認知されていたので、自然な流れで生まれたのかもしれませんね。

     今では様々な業者が参入している宅配便サービスですが、元祖であるヤマト運輸の宅急便には、パイオニアならではの苦労がありました。大きかったのは、物流事業に存在する規制だったといいます。

     筆者はこの業界に詳しくないもので、ヤマトホールディングスの担当者にお話をうかがうと「1989年12月に物流2法(貨物自動車運送事業法・貨物運送取扱事業法)が制定されて営業区域の規制が緩和されるまで、不特定多数の荷主の貨物を積み合わせて運ぶ路線事業は、利用する路線ごとの免許が必要でした」とのこと。サービス開始当初は、関東地区のみで提供されていたそうです。

     そして宅急便のサービス網は全国へと広がっていきます。担当者によれば「地域の同業他社の反対などから免許取得が難航した時期もありましたが、免許に関する公聴会や地方の路線事業者との提携、路線営業権の買収・譲渡などを経て、最終的には1997年に小笠原(父島・母島)がエリア化され、全国ネットワークが完成いたしました」と、サービス開始から20年あまりの歳月が費やされました。また、運転席から直接貨物室へアクセスできる集配用のウォークスルー車も、ヤマト運輸からの提案で実現したそうです。

     今では誰でも利用するサービスとなった宅急便。サービス開始当初と現在では、どれくらいの規模になっているんでしょうか。

     この疑問には「宅急便開始翌年度末の1977年度末の時点では、大口路線貨物からの転換はうまく進まず、全社に占める宅急便の割合はわずかでした。当時の社長小倉昌男は、退路を断って宅急便への転換を進めるため、1979年春に大口路線貨物からの完全撤退を指示し、同12月には大口路線貨物から小口荷物への転換を完了させました。現在の宅急便の取扱量につきましては、2019年度実績で年間約18億個(17億99百万個)を取り扱っております」との回答。平均すると国民1人あたり、年間10個以上も宅急便を利用している計算です。

     2020年7月2日、東京の品川駅港南口から徒歩10分の場所に「ヤマトグループ歴史館 クロネコヤマトミュージアム」がオープンしました。宅急便センター(ヤマト運輸 港南1丁目センター)となっている建物の外周スロープを活用し、スロープをくだりながらヤマトグループ100年の歴史を体験できるという施設。ここに、ネコマークのヒントとなったクレヨン画のレプリカが展示されています。長い歴史を持つネコマークの原点を見に、訪れてみるのいいかもしれません。

    <記事化協力・画像提供>
    ヤマトホールディングス株式会社(@yamato_19191129)

    (咲村珠樹)

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