バージニア州ノーフォークにあるアメリカ海軍安全センターは2020年10月19日(現地時間)、2019年10月1日~2020年9月30日の2020年会計年度において、海軍と海兵隊での航空機事故にともなう死亡者がゼロだったと発表しました。これは1922年以来、98年ぶり2度目の快挙だといいます。

 アメリカにおける海軍航空の歴史は、日本における航空の歴史が始まった年と同じ、1910年に始まります。初期の航空機は飛行させることが難しく、墜落や離着陸の失敗は日常茶飯事。死亡事故もたびたび発生しました。


 アメリカ海軍で初めて航空死亡事故ゼロが達成されたのは、航空機の運用開始から10年以上が経過した1922年のこと。この間には第一次世界大戦も挟まり、航空機の運用数も増えてなかなか死亡事故が減らなかったものと思われます。


 そしてその後には、航空母艦での航空機運用という新しい取り組みが始まり、さらに第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争と、海軍と海兵隊での航空作戦は広がります。その分、死亡事故が発生しやすい状況だったのでしょう。


 海軍安全センター司令官、フレドリック・R・ラクトマン少将(元F/A-18パイロット:コールサイン「Lucky」)は「98年もの歴史を重ね、この前例のない快挙を達成したのは、海軍航空に携わる全ての人々が卓越した安全文化の育成に向け、たゆまぬ努力をし続けた結果です」と、およそ100年ぶり、海軍航空にとって2回目となる年間死亡事故ゼロ達成に際し、コメントしています。

 海軍安全センターで、航空安全プログラムのディレクタを務めるスコット・クラマリク大佐は、航空死亡事故ゼロの達成には様々な要因があり、中でも艦隊全体における航空士の訓練と安全意識の徹底が第一だと指摘します。「長年の訓練、習熟、そして優れた安全文化がもたらした驚くべき成果です」

 海軍安全センターの航空作戦部門を統括するロジャー・リーチ中佐は、集団での行動や判断の数々が、今回の結果を達成する原動力だとし「数多くの人々が行動した結果であり、全員が正しいことをしている限り、これからも継続するでしょう」と語っています。

 また、事故の起きた際のデータを海軍安全センターが収集し、再発防止に役立ててきたことも重要な要素といえます。クラマリク大佐は「プロセスの改善と情報の共有は、健全な安全管理システムには不可欠です。私たちは、艦隊全体における教訓とベストな成果をほかの飛行隊と共有できるよう、真剣に取り組んでいます。こうしたアプローチが、安全文化の醸成に影響を与えてきたと思っています」とも語っています。

 2020年会計年度では、新型コロナウイルスの感染拡大により、海軍と海兵隊における航空機運用が10%ほど減少したといいます。その運用機会の減少も、死亡事故発生リスクの軽減に寄与した可能性もクラマリク大佐は否定していません。

 1922年以来2度目の年間死亡事故ゼロは誇るべきことですが、前回のように1年だけのものにしてはいけません。ラクトマン海軍安全センター司令官は「私たちは職務に集中し続け「TEAM over ME(チームは自分より優先される)」のコンセプトのもと、すべてのタスクに取り組まなくてはなりません。安全は準備にほかなりません。これからも教訓を共有し、安全文化の発展に取り組んでいきます」と、今後の取り組みについてもコメントしています。

<出典・引用>
アメリカ海軍安全センター(NAVSAFECEN) ニュースリリース
Image:U.S.Navy/USMC

(咲村珠樹)