「うちの本棚」第二十六回は異色の少女マンガ『天人唐草』をご紹介いたします。
最初に「山岸凉子」という漫画家を知ったのはいつだったろう。
たぶん『妖精王』の連載中で、それが話題となっていたころだったと思う。
その当時も少女漫画は多少読んでいたが、『妖精王』を手にすることはなく、時間が過ぎていき、『天人唐草』でその魅力を知ることになる。とはいっても、雑誌掲載時にリアルタイムで読んだのではなく、単行本になってからなのだが…。
当時は、例えば倉田江美の『エスの解放』だったり、高野文子の一連の作品だったりが、少女漫画というジャンルを越えて話題になっていて、『天人唐草』もそのような作品のひとつだった。
厳格な父をもつ少女が、その家庭環境ゆえに社会から逸脱していくというストーリーは、従来の少女漫画とはまったく異質な物語だ。
『天人唐草』の数年前に、竹宮恵子が『風と木の詩』によって、いまで言うボーイズラブがジャンルとして確立するキッカケを作っていたが、同性同士の恋愛という点をのぞけば、それは少女漫画のルールの上にある物語だ。『天人唐草』が発表された前後に、少女漫画という枠を外れて文学的なアプローチを示した作品が多く発表されたのは、「時代」なのだろうか。
事実その後漫画は、よりそのマーケットを拡大し、その内容も多様化し、文学を押し退けて、広く大衆に読まれるメディアになっていった。現在の漫画の発展と成功を、『天人唐草』は暗示する作品だったといってもいいのではないだろうか。
山岸凉子はその後も、神話に題材を採り、人間の精神性を追求した短編を発表していき、『日出処の天子』で大ブレイクする。
硬質で繊細な線、妖しい魅力を持ったキャラクター、それらは、逆に言えば『アラベスク』など少女漫画のルール上にある作品より、『天人唐草』や『日出処の天子』など、性別や年代を意識しない読者に向けた作品に向いていたのだろう。
・初出:週刊少女コミック ’79年2号 ・書誌:サンコミックス / 白泉社版作品集 / 角川書店版作品集 / 文春文庫 |
■ライター紹介
【猫目ユウ】
ミニコミ誌「TOWER」に関わりながらライターデビュー。主にアダルト系雑誌を中心にコラムやレビューを執筆。「GON!」「シーメール白書」「レディースコミック 微熱」では連載コーナーも担当。著書に『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』など。