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【レッドブル・エアレース2016】波乱の開幕戦。2人のフランス人が表彰台に

レッドブル・エアレースの2016年シーズン開幕戦、アブダビ大会が3月11日(予選)・12日(決勝)に行われました。今シーズンの流れがどうなるか注目が集まったのですが、予想外の展開となったのです。

  • 【関連:室屋義秀選手単独インタビュー、2016年シーズンの抱負を聞いてみた】

    開幕戦の舞台となったアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビでは、これに先立つ8日~10日の日程で航空見本市「アブダビ・エア・エキスポ」が開催されており、レッドブル・エアレースなどのイベントと合わせて「アブダビ航空宇宙週間(Abu Dhabi Aviation and Aerospace Week)」を構成していました。

    くしくも開幕の日付は、東日本大震災から5年となる3月11日。福島を拠点とする室屋義秀選手は、今年ユニフォームの袖に、福島と共に歩むことを示す「Wings for FUKUSHIMA」というパッチをつけて戦います。

    室屋義秀選手

    室屋義秀選手

    ◆想像以上にタイトなトラック

    トラックレイアウトはこのような感じ。攻略のポイントとなるのは、シケイン(ゲート2)をクリアした後に待ち受けるゲート3(2周目ではゲート10となる)へのアプローチと、それに続くターニングマニューバ(マリーナターン)、そして単独パイロンとなるゲート7を回るハイGターンです。

    アブダビ大会のトラック(画像:Red Bull)

    アブダビ大会のトラック(画像:Red Bull)

    また、会場レイアウトがトラックをはさみ込む形になっている為、飛行可能区域を示すクラウドラインがコースに接近していることも特徴のひとつ。クラウドラインを越えるとDQ(失格)になってしまいます。特にゲート3通過後のターニングマニューバ(折り返し)が難しく、DNF(リタイヤ扱い)となるオーバーGを避ける為、高く縦に回るとタイムをロスしてしまい、かといって横に膨らむとクラウドラインを超え、DQとなってしまうのです。

    このトラック、今回元F1ドライバー(現在はスーパーGTに参戦中)のヘイキ・コバライネン氏が体験飛行しています。コバライネン氏の後席で操縦しているのは、昨年のチャレンジャーカップ年間王者、フランスのミカエル(ミカ)・ブラジョー氏。ブラジョー氏は今年、レッドブル・エアレース参戦はせず、同じチーム・ブライトリングのナイジェル・ラム選手から、マンツーマンの英才教育を受けています。

    ◆機体の話題

    開幕戦とあって、各選手はオフシーズンの間に様々な改修を愛機に施してきました。室屋選手の大きな武器になるはずだった、ボーイング737MAXと同じような形の大型ウイングレットは、直前にレース統括委員会から待ったがかかり、この開幕戦には間に合いませんでしたが、昨年苦戦していたエンジンの冷却システムを強化しています。

    昨年後半から流行し始めたウイングレット。翼端に発生する誘導抵抗を減らし、旋回時に速度が落ちないようにする為の装備です。

    このアブダビからはグーリアン選手、ドルダラー選手もウイングレットを装着してきました。同時にキャノピーを小型化し、それに続くリアカウル「タートルバック」の高さを抑えたスタイルを採用。ドルダラー選手はこの機体を「エッジ540V3 RSR」と呼称していました。これはグーリアン選手による、今シーズン仕様の機体解説動画。

    チャンブリス選手は、エッジ540V3の垂直尾翼を小型化して空気抵抗を低減し、速度性能の向上を図ってきました。垂直尾翼を小さくすると、機首が左右に振れやすくなるのですが、微妙な形状調整で、影響を最小限に抑えたようです。エッジ540の開発段階からパイロットとして携わっていた、チャンブリス選手ならではの改修と言えるでしょう。

    機体の改修とは別に、大きな注目を集めたのが、マスタークラス参戦2年目となるベラルデ選手。昨年、史上最多3回目の年間王者を決めた直後に引退を発表したポール・ボノム氏(今年は英語実況の解説者に)から、そのチャンピオンマシンであるエッジ540V2を譲り受けたのです。

    昨年のボノム機。今年はベラルデ選手が駆る

    昨年のボノム機。今年はベラルデ選手が駆る

    チャンピオンマシンを手に入れたことで、大幅に戦闘力が上がったベラルデ選手ですが、同時に、常に昨年のボノム氏と較べられてしまうプレッシャーもあります。大注目と言えるでしょう。

    ◆注目のニューカマー、そしてラム選手引退発表

    昨年限りで引退したベゼネイ氏とボノム氏に代わり、チャレンジャークラスからコプシュタイン選手(チェコ)とポドランセック選手(スロベニア)がマスタークラスに昇格。そしてチャレンジャークラスにも3人のルーキーと1人の再参戦選手が加わりました。中でも注目されているのが、初の女性パイロットであるフランスのメラニー・アストル選手です。

    BMWのサポートを受けているアストル選手。1916年に航空機エンジンメーカー(バイエルン航空機製造)としてスタートしたBMWは、今年3月7日に創立100周年を迎えました。この記念すべき年に、サポートする女性パイロットがレッドブル・エアレースに参戦するというのも不思議な巡り合わせです。

    そして、先日放映されたNHK・BS1スペシャルで衝撃を受けたファンも多かったでしょう。2014年の年間王者、イギリスのナイジェル・ラム選手が今シーズン限りでの引退を発表しました。「まだ胸の炎は燃え盛っているし、勝ちたいという気持ちも衰えてはいない。最終戦のラスベガス大会まで全力で突っ走るよ」と、動画でコメントしています。

    今年、ラム選手は所属するブライトリング・レーシングチームの若手パイロット、ミカエル(ミカ)・ブラジョー選手の「師匠」として、レッドブル・エアレースに勝つ為の技術をマンツーマンで教えています。まだ正式な発表はありませんが、来年、ラム選手の機体(MXS-R)を受け継ぎ、ブラジョー選手がマスタークラスに参戦することになりそうです。もしそうだとすると、2017年のブライトリング・レーシングチームは、ルボット選手とブラジョー選手、2人のフランス人パイロットを擁するチームとなります。

    ◆「マリーナターン」の罠にかかるパイロット達

    さて、フリープラクティスでの飛行が始まると、パイロット達はオーバーGやクラウドラインを越してしまうことによるDQを連発させてしまいます。頻発したのは、やはりタイトなターニングマニューバを要求される、ゲート3(ゲート10)通過後の「マリーナターン」。タイムを落とさないようギリギリを突く為に、どうしてもオーバーGや、外に膨らみすぎてクラウドラインを越え、DQになってしまったのです。

    この為、クラウドラインを越えないように、旋回半径を小さくしてもオーバーGにならないよう、スタート時の速度制限を通常の200ノット(時速約370km)から180ノット(時速約333km)に低下させる特例措置が取られることになりました。

    予選でトップとなったのは、今年の年間王者の最有力候補と見られている、オーストラリアのマット・ホール選手。今年から新スポンサーとなったレッドブル・シンプリーコーラ(オーストラリアで販売されているレッドブルの非エナジー系コーラ。日本未発売)のメタリックな赤・青・銀のカラーに変更されたMXS-Rがマークしたタイムは58秒079。

    ドイツのドルダラー選手、アメリカのグーリアン選手、日本の室屋選手がこれに続きます。アメリカのチャンブリス選手は、オーバーGを連発してタイムなし(DNF)となり、予選最下位となりました。

    また、予選後のコメントでは、複数のパイロットが「コクピット計器でのG表示と、コントロールタワーに送られているテレメトリーデータとのズレ」に言及していました。今年から新しい統合計器(ガーミンG3X)が採用されたのですが、センサーの取り付け方法かデータ送信のタイミングなのか、何らかの食い違いが生じていたようです。

    ◆サイドアクトも充実

    アブダビ大会のサイドアクト。昨年日本(岩国)での初公演を行ったブライトリング・ウイングウォーカーズをはじめとする、様々なスカイスポーツのショウが繰り広げられました。これはその中のひとつ、レッドブル・スカイダイブチームがマスタークラスの決勝前に行ったパフォーマンス。

    ◆波乱の決勝

    迎えた決勝。ラウンド・オブ14から大波乱が起こります。最終ヒート7、ホール選手がゲート10(2周目のゲート3)で痛恨のパイロンヒット。3秒のペナルティでチャンブリス選手に敗れてしまったのです。

    予選終了後の記者会見で、今年はNHK・BS1でリポーターを務める辻よしなりさんが「今年、全部勝ってしまう自信はあるのか、もしくは、どれだけ勝てると思っていますか?」という質問をしていましたが、まさかこんな結果が待っていようとは……。

    着陸直後のインタビューで、ホール選手は「(ゲート通過後に待ち受けるターニングマニューバでの)クラウドラインに気を取られて、ゲートへのライン取りがずれてしまった」と語っていました。

    一番白熱したのはヒート3のグーリアン選手とルボット選手の対決。グーリアン選手の1分0秒653に対し、ルボット選手は1分0秒752。わずか0秒099差でした。ルボット選手は敗れたものの、ファステストルーザーとして自身初のラウンド・オブ8へ進出し、室屋選手と対戦することになりました。

    ラウンド・オブ8の初戦である、ルボット選手対室屋選手。ここで室屋選手はゲート3でオーバーG。DNFとなってしまいました。のちに室屋選手がFacebookで語ったところによると、テレメトリーデータでオーバーGを記録したのは、一番ありがちな縦のターニングマニューバを開始する機体引き起こし時ではなく、宙返り(ループ)の頂点。通常なら速度が一番落ちる地点であり、いわば「Gが抜ける」場所。室屋選手も意外だったようです。今回複数のパイロットが言及していた、コクピットでの計器表示とレースコントロール(ジャッジ)に送信されるテレメトリーデータとのズレが影響したのかもしれません。

    ファイナル4に進んだのはルボット選手(フランス)、アルヒ選手(オーストリア)、ドルダラー選手(ドイツ)、イワノフ選手(フランス)。

    最初に飛んだのはルボット選手。ゲート13(2周目のゲート6)でインコレクトレベルを取られて1分2秒281。続くアルヒ選手は、ゲート3通過後のターニングマニューバ「マリーナターン」でクラウドラインを越えてしまい、痛恨のDQ(失格)。ここでルボット選手は初の表彰台を確定させました。

    ドルダラー選手は58秒660。最後にイワノフ選手が58秒550で飛び、2014年最終戦、シュピールベルク大会以来の優勝となりました。2位はドルダラー選手、3位はルボット選手と、それぞれ嬉しい自己最高位です。表彰台にはフランス人が2人(優勝のイワノフ選手と3位のルボット選手)登ったのでした。

    2016年開幕戦を制したイワノフ選手(2015年千葉大会での姿)

    2016年開幕戦を制したイワノフ選手(2015年千葉大会での姿)

    イワノフ選手の機体整備を担当するチーム・テクニシャンは、昨年まで室屋選手のチームに在籍していた西村隆さん。日本人がレッドブル・エアレース優勝に関わった初めての例となりました。

    いきなり大波乱の幕開けとなった開幕戦アブダビ大会。NHK・BS1でのテレビ放送は3月26日、夜7時からです。
    レッドブル・エアレース第2戦、シュピールベルク(オーストリア)大会は4月23日・24日に予定されています。

    ▼レッドブル・エアレース公式サイト
    http://www.redbullairrace.com/

    (文:咲村珠樹)

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