おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【レッドブル・エアレース】ついに2018年開幕!開幕戦・アブダビ大会を占う

 いよいよ2月2日・3日に迫ったレッドブル・エアレース2018年開幕戦アブダビ大会。現地からの情報も色々入って来ています。当日の夜にNHK・BS1で放送されることもあり、今から知っておくと便利な情報をお知らせします。

  •  ■「忙しい」トラックレイアウト

     2018年アブダビ大会のトラックレイアウトは、基本的に2015年から変わっていません。が、少しずつテクニカルな要素が増えています。スタートゲートを過ぎるとまずシケイン(ゲート2)、そしてゲート3からバーティカールターン(VTM)。そしてゲート4へ向かいます。シングルパイロンのゲート5からゲート6を過ぎるとハイGターン。2017年ではハイGターンの間にゲートはありませんでしたが、今回はゲート7が存在し、ターンの途中で機体を水平に戻さなくてはいけません(2016年ではここにシングルパイロンがありました)。そしてまたスタートゲート(ゲート8)に戻り、2周目に入ります。

    2018年アブダビ大会のレーストラック(Red Bull Media House GmbH/Red Bull Content Pool)

    2018年アブダビ大会のレーストラック(Red Bull Media House GmbH/Red Bull Content Pool)

     レーストラックの図を見ると、バックセクション(ゲート1・2)とフロントセクション(ゲート4〜6)は平行に見えますが、実際のレイアウトではバーティカルターンを行うゲート3を頂点とする三角形のような形状をしており、ゲート3への進入角は少々厳しいものとなっています。風の状態によってはパイロンヒットが出る可能性も。

    2018年アブダビ大会のトラック(Joerg Mitter/Red Bull Content Pool)

    2018年アブダビ大会のトラック(Joerg Mitter/Red Bull Content Pool)

     また、反対のハイGターンの部分では、ゲート7があるために機体を一旦水平にする必要があります。そこからスタートゲート(ゲート8)へは角度が若干きついため、ゲート7やゲート8でインコレクトレベルを誘発するレイアウトです。ここで変な角度で入ってしまうと、2周目のシケイン(ゲート10)をリズムよくタイトにこなせなくなり、次のゲート11からのバーティカルターンが難しくなります。リズムよく次々とゲートを処理していかなくてはならないため、結構忙しいレイアウトだと言えるでしょう。

     ■開幕戦は「答え合わせ」のレース

     開幕戦は、オフシーズンに実施した機体の改修の成果を実戦で確認する場、という側面もあります。もちろんテストフライトを行ってはいるのですが、レーストラックを飛ぶのはこれが最初。テストフライトでは判らなかったものが判明することもあります。2017年の開幕戦、室屋選手はエンジンの冷却効果を高めた改修をオフシーズンに施して臨んだのですが、逆にオーバーヒートしてしまい、思うような飛行ができなかったことは記憶に新しいところです。

    クリスチャン・ボルトン選手とテクニシャンの西村隆さん(Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool)

    クリスチャン・ボルトン選手とテクニシャンの西村隆さん(Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool)

     今回、大規模な改修を行ったところでは、チリのクリスチャン・ボルトン選手の機体が挙げられます。2017年の千葉大会で、ボルトン選手のチームテクニシャンを務める日本人、西村隆さんが筆者に「オフシーズンでの大改修では、2015年のポール・ボノムみたいな形になる予定」と明かしてくれていましたが、実際の機体を見るとまさにその通り。現在そのボノム氏の機体を使っているスペインのフアン・ベラルデ選手と同じような姿になりました。左右非対称のエンジン冷却空気取り入れ口、そして機種下面の左右に設けられたオイルクーラー専用の冷却空気取り入れ用のNACAダクトまでそっくりです。もともとボルトン選手の機体はベラルデ選手から譲られたものなので、結果的に同じ姿になるのは非常に興味深いですね。

     ■新カラーリングのトレンドは「渋め」?

     開幕戦で楽しみなのは、各機体のカラーリングの変化。今年からマスタークラスにステップアップした、イギリスのベン・マーフィー選手の機体は室屋選手、ピーター・ポドルンシェク選手と受け継がれてきたエッジ540V2です。自身が所属する、元イギリス空軍レッドアローズのパイロットが揃ったエアロバティックチーム「ブレーズ(Blades)」の名を冠した「ブレーズ・レーシングチーム」としての参戦です。2017年11月、筆者に「最高に英国調(Best of British)な機体デザインにするよ」と答えていた通り、その機体デザインはイギリス国旗のユニオンジャックを大胆にあしらったデザインになりました。

    ベン・マーフィー選手(Joerg Mitter/Red Bull Content Pool)

    ベン・マーフィー選手(Joerg Mitter/Red Bull Content Pool)


    ベン・マーフィー選手の機体(Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool)

    ベン・マーフィー選手の機体(Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool)

     機首は赤、全体のトーンは限りなく黒に近いつや消しの紺色(鉄紺)。機体下面はシルバーです。シックで、そして内に秘めた情熱を感じさせるようなものとなりました。

     また、時計メーカー、ブライトリングのスポンサー活動縮小に伴い、独自のレーシングチーム「11レーシング(11RACING)」として参戦することになったフランスのミカ・ブラジョー選手。2017年はレトロ調だったMXS-R「スカイレーサー」は、ガラリとカラーリングが変わり、セクシーなシルバークロームとブラック、ホワイトのカラーになりました。レーシングスーツも黒になり、ヘルメットはフランス国旗のトリコロールと変わりました。筆者が送った「Brand New Brageot(新生ブラジョー)」の言葉を気に入ってくれ、TwitterやFacebookなどでハッシュタグとして使ってくれています。

    ミカ・ブラジョー選手の機体(Joerg Mitter/Red Bull Content Pool)

    ミカ・ブラジョー選手の機体(Joerg Mitter/Red Bull Content Pool)

     同じく、機体のカラーリングが大きく変わったのが、オーストラリアのマット・ホール選手。機体の前半分はアースカラーで、機体後方にかけて渋めの色合いでストライプが入って垂直尾翼へ……というデザインです。2016年・2017年のレッドブル「シンプリーコーラ」のカラーリングとガラッと変わりました。

    マット・ホール選手の機体(Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool)

    マット・ホール選手の機体(Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool)

     実はこれ、2017年からレッドブルが展開し始めたソフトドリンク(非エナジードリンク)シリーズ「オーガニクス・バイ・レッドブル」のスポンサーカラー。オーガニック材料を使ったソフトドリンクのシリーズで、以前から販売されていたシンプリーコーラは、そのラインナップのひとつになったのです。シンプリーコーラの他にはビターレモン、ジンジャーエール、トニックウォーターがあり、ホール選手機の水平尾翼には、その缶のデザインが4種類並んでいるというシュールなデザインになっています。

     機体のデザインが変わったわけではありませんが、ドイツのマティアス・ドルダラー選手の機体には今年から大口スポンサー「I-CLIP」のロゴが主翼と水平尾翼に大きく入りました。これはカードサイズのコンパクトな財布を展開するドイツのブランドです。

    マティアス・ドルダラー選手の機体(Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool)

    マティアス・ドルダラー選手の機体(Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool)

     ■今年はタイム差の少ない厳しい戦いに?

     筆者の手元には、トレーニングフライトのタイムが入ってきているのですが、ほぼ全ての選手が1秒以内のタイム差に入ってくる形になっており、機体の速度差というものが縮まってきているように感じられます。エンジンとプロペラの改造が禁止された2014年から5年目のシーズンを迎え、各チームとも機体の改修・熟成が進んできていることがうかがえます。今年はよりテクニックが重視され、わずかなミスが勝敗を分けるようなスリリングなレースが展開されそうです。

     ディフェンディングチャンピオンとして2018年シーズンを迎える日本の室屋選手。トレーニングフライトの1本目はちょっとしたトラブルで飛行できませんでしたが、2月2日に予定される予選では素晴らしいフライトを見せてくれるでしょう。

    室屋義秀選手(Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool)

    室屋義秀選手(Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool)

     ■日本でのネット生中継はDAZNへ。テレビはNHK・BS1が継続

     今年から、ネットによる生中継はレッドブルTVから、Jリーグの全試合中継も手がけるDAZN(ダ・ゾーン)が担当することになりました。こちらはスポーツキャスターのニック・フェローズさん(元イギリス代表アルペンスキー選手・コーチ)の実況と、ポール・ボノムさん(2009・2010・2015レッドブル・エアレース年間チャンピオン)の解説で放送される英語版となります。アブダビ大会は2月3日の21時(日本時間)から放送予定。

     通常のテレビ放送は、NHKのBS1が放送予定。野瀬正夫アナウンサーの実況、能勢雄一さんの解説、辻よしなりさんのレポートで、開幕戦のアブダビ大会は2月3日当日の23時から放送予定です。また、スカパー!のJ-SPORTSでも英語のダイジェスト版が放送される予定です。

    見出し写真:Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool

    (咲村珠樹)

    あわせて読みたい関連記事
  • 2022年のエアレース世界選手権開催断念を伝えるツイート(スクリーンショット)
    宇宙・航空

    エアレース世界選手権2022年の開催断念 新型コロナウイルスと世界経済激変で

  • 2021シーズンキックオフ会見での室屋義秀選手((c) Pathfinder)
    宇宙・航空

    新エアレース世界選手権に正式参戦!室屋義秀2021シーズンキックオフ

  • 2022年開幕の「ワールドチャンピオンシップ・エアレース」公式サイト(スクリーンショット)
    宇宙・航空

    レッドブル・エアレース復活!「ワールドチャンピオンシップ・エアレース」として20…

  • 宇宙・航空

    室屋義秀 福島県内で応援フライト「Fly for ALL #大空を見上げよう」を…

  • 宇宙・航空

    レッドブル・エアレースにUS-2がやってきた!その隠された苦労に迫る

  • 宇宙・航空

    レッドブル・エアレース千葉2019ラウンド・オブ8〜ファイナル4 室屋義秀優勝で…

  • 宇宙・航空

    レッドブル・エアレース千葉2019ラウンド・オブ14 予想外の風に王者ソンカ敗退…

  • 宇宙・航空

    レッドブル・エアレース千葉2019予選 室屋5位 トップはベラルデ

  • 宇宙・航空

    レッドブル・エアレース千葉2019 金曜フリープラクティス 室屋は6位と5位

  • 宇宙・航空

    室屋義秀 最後のレッドブル・エアレース千葉大会直前会見

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • アルファポリス、アニメ制作会社WHITE FOXを完全子会社化 自社IPの映像展開を強化へ
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    アルファポリス、アニメ制作会社WHITE FOXを完全子会社化 自社IPの映像展…

  • 「auバリューリンクプラン」の新TVCM「無敵の父、登場」篇
    TV・ドラマ, エンタメ

    大沢たかお、天帝役で三太郎CM初出演 かぐや姫の「無敵の父」降臨

  • 期間限定メニュー「厚切り豚角煮定食」
    インターネット

    ド迫力の塊肉!吉野家「厚切り豚角煮定食」が登場 ねぎラー油&からしで味変も

  • 朴璐美さん、新幹線で“とんでもない席トラブル”に遭遇 駅弁楽しむはずが…
    アニメ/マンガ, 声優

    朴璐美さん、新幹線で“とんでもない席トラブル”に遭遇 駅弁楽しむはずが…

  • モランボン、肉主役の「肉肉麻婆豆腐の素」発売 社内の豆腐派を説得して実現
    商品・物販, 経済

    モランボン、肉主役の「肉肉麻婆豆腐の素」発売 社内の豆腐派を説得して実現

  • 麻婆豆腐ごはん中辛
    商品・物販, 経済

    お湯を注いで5分、丸美屋の“即席麻婆ごはん” 開発2年半のこだわり詰めて発売

  • トピックス

    1. “視える世界”を歩く 霊能者監修「視える人には見える展 -零-」体験レポ

      “視える世界”を歩く 霊能者監修「視える人には見える展 -零-」体験レポ

      人には見えない“何か”を視ることができる人たちの目には、どのような景色が写っているのでしょうか。そん…
    2. 夏の救世主!リュウジさんの「やけくそチャーハン」はレンジで2分の革命飯

      夏の救世主!リュウジさんの「やけくそチャーハン」はレンジで2分の革命飯

      毎日暑い日が続くと、火を使う料理が億劫になるもの。そんな時におすすめのレシピを、料理研究家のリュウジ…
    3. 愛犬の誕生日に“狂気のケーキ”を手作り ホラーすぎて家族が悲鳴

      愛犬の誕生日に“狂気のケーキ”を手作り ホラーすぎて家族が悲鳴

      あらゆる意味で一生忘れられない誕生日になりそうです。4歳のシーズー犬「てんぽ」ちゃんのため、飼い主さ…

    編集部おすすめ

    1. 「M3GAN/ミーガン 2.0」公式サイトは日本公開中止の告知のみの画面に

      映画「M3GAN/ミーガン 2.0」日本劇場公開が突如中止 理由は不明

      10月10日に日本での劇場公開が予定されていた、映画「M3GAN/ミーガン 2.0」の公開中止が発表されました。8月1日に映画の公式サイトと…
    2. 「RO」シリーズ最新作「Ragnarok Online 3」、フルゲームプレイトレイラーが初公開

      ROシリーズ最新作「Ragnarok Online 3」、フルゲームプレイトレイラーが初公開

      GRAVITYは7月31日、開発中の新作MMORPG「Ragnarok Online 3」のフルゲームプレイトレイラーを公式YouTubeに…
    3. 防衛省、観閲式など原則中止 厳しさ増す安全保障環境を理由に

      防衛省、観閲式など原則中止 厳しさ増す安全保障環境を理由に

      防衛省は7月30日、「今後の観閲式等について」と題した文書を公開。観閲式、観艦式、航空観閲式について、今後は開催しない方針を明らかにしました…
    4. 朴璐美さん、新幹線で“とんでもない席トラブル”に遭遇 駅弁楽しむはずが…

      朴璐美さん、新幹線で“とんでもない席トラブル”に遭遇 駅弁楽しむはずが…

      アニメ「鋼の錬金術師」エドワード・エルリック役などで知られる声優・朴璐美さんが、7月27日に自身のX(旧Twitter)を更新。新幹線車内で…
    5. 男性記者が“生理痛”を疑似体験 ツムラの「#OneMoreChoice プロジェクト」で見えた“隠れ我慢”のリアル

      男性記者が“生理痛”を疑似体験 ツムラの「#OneMoreChoice プロジェクト」で見えた“隠れ我慢”のリアル

      生理やPMS(月経前症候群)などの不調を我慢せず、自分に合った「もう一つの選択肢」を持てる社会を目指すツムラの取り組み「#OneMoreCh…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト