おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【うちの本棚】第六十八回 玉三郎 恋の狂騒曲/岸 裕子

「うちの本棚」、今回は岸裕子の代表作『玉三郎 恋の狂騒曲』。見かけは女、中身は男!? 美少年をめぐるラブコメディーです。

「別冊少女コミック」に昭和47年12月号~昭和54年12月号にかけて発表された連作スタイルのシリーズ作品。岸裕子の代表作のひとつでもある。単行本は当初、小学館の「フラワーコミックス」から全5巻が刊行され、現在は小学館クリエイティブから全3巻で刊行されている。


  • 歌舞伎の女形として知られる「玉三郎」の名を主人公につけ、男でありながら並の女性以上の美しさ、女らしさを持っているという少女漫画らしいキャラクターに設定。
    玉三郎自身は男としての自覚もあり、幼なじみの玲奈に恋心を抱いているけれど、近づく男たちは玉三郎に惚れてしまうというのが本作のお約束。日本舞踊の師範でもあることから着物姿で登場することも多く、玲奈の身代わりになったりと女装シーンも頻繁にある。

    少女漫画に正面から男性同性愛の世界を持ち込んだ『風と木の詩』が連載されていた時期とも重なる作品でもあり、ホモセクシャルな話題も散見されるのだけれど、先に言ったように主人公である玉三郎自身にはその気がないので、そうした話題はネタとして処理されている感じ。とはいえシリーズの初期から美少年好きなキャラが登場したり、玲奈を愛しているのではあるが、男性にも惹かれたりするエピソードも後半には定番化してくる。

    女装も似合う男性キャラクターというのは少なからず少年漫画、少女漫画には登場しているけれど、この玉三郎は女性にしか見えない外見という意味で、それらのキャラクターとは一線を画していたかもしれない(もちろんストーリー上で)。

    また断続的に発表されたシリーズ作品でありながら結果的に単行本5巻というボリュームにまで発展したのは、それだけ読者の支持も集めた結果だろう。

    岸の画はいわゆる少女漫画であり、こぼれ落ちそうな大きな目に長い睫毛が印象的。基本的にラブコメ作家でもあり、本作もコメディ作品である。少女漫画のこの流れとして、本作のあとに魔夜峰央の『パタリロ!』が位置するといってもいいかもしれない。

    まだBLはおろかヤオイという言葉も誕生していなかった頃、本作のような作品が散見的に少女漫画誌を賑わし、読者の支持を集めていたことは、その後に来るBLというジャンルが少女漫画の読者にはもともと好まれるものだったことを証明しているのかもしれない。

    作品名/玉三郎 恋の狂騒曲
    著者名/岸 裕子


    【文:猫目ユウ】
    フリーライター。ライターズ集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。 

    あわせて読みたい関連記事
  • ジップロックで春菊栽培! 目からウロコの「家庭菜園HACK」
    インターネット, コラム・レビュー, びっくり・驚き

    ジップロックで春菊栽培! 目からウロコの「家庭菜園HACK」

  • 「子どもの頃と大人になってからで見方が変わった映画・漫画・アニメ等の作品」まとめてみた
    アニメ/マンガ, コラム・レビュー

    「子どもの頃と大人になってからで見方が変わった作品」を募集してみた結果

  • おたくまライターが選ぶ2023年アニメ注目の作品5選 ご紹介!
    アニメ/マンガ, コラム・レビュー

    おたくまライターが選ぶ2023年アニメ注目の作品5選

  • より多くの人に楽しんでもらえるために。体験展示型コスプレ「幻想郷システム」。
    アニメ/マンガ, コラム・レビュー

    より多くの人に楽しんでもらうために 体験展示型コスプレ「幻想郷システム」

  • 「ゴムゴムの実」を再現したファンアートのデザインメロン(エトオさん提供)
    アニメ/マンガ, コラム・レビュー

    これを食べれば能力者?「ゴムゴムの実」の模様を再現したファンアートのメロン

  • 「アニメージュ」1984年2月号に掲載された「風の谷新聞」の原本
    アニメ/マンガ, コラム・レビュー

    「風の谷のナウシカ」サークルの「風の谷新聞」約40年ぶりにメンバーの元へ戻る

  • 晴海・TRC時代のコミケットアピールなど
    アニメ/マンガ, コラム・レビュー

    いくつ覚えてる?昭和~平成初期の同人誌事情

  • 推しエコノミー
    アニメ/マンガ, コラム・レビュー

    エンタメの裏側で起きている地殻変動とは? エンタメ社会学者中山淳雄さんにきく(深…

  • 【ジブリグッズラボ】千と千尋に登場する謎キャラクター 君の名は…盃さま?
    アニメ/マンガ, コラム・レビュー

    【ジブリグッズラボ】千と千尋に登場する謎キャラクター 君の名は…盃さま?

  • スタジオジブリの「劇場用卓上スタンディ」
    アニメ/マンガ, コラム・レビュー

    【ジブリグッズラボ】非売品の中でも人気が高い「劇場用卓上スタンディ」後編

  • 猫目 ユウWriter

    記事一覧

    フリーライター。ライター集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。
    本コラム「うちの本棚」は作者・テーマ別にして「ブクログのパブー」から電子書籍として刊行しています。
    また最近は小説の執筆に力を入れています。
    仮想空間「Second Life」やってます^^

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • コラム・レビュー

    複数社から発売された『墓場鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎)』を振り返る

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】262回 こいきな奴ら/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】261回 ティー・タイム/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】259回 デザイナー/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり

  • トピックス

    1. 善意の通報が“誤報”に変わるAI時代 女川町のクマ騒動が示した危険性

      善意の通報が“誤報”に変わるAI時代 女川町のクマ騒動が示した危険性

      宮城県女川町が11月26日、公式Xで発信した「クマ出没情報」が、後に「生成AIによるフェイク画像」に…
    2. 派手なピンクに「マヂでアゲ」……道端に突如現れた「ギャルすぎる工事看板」が話題

      派手なピンクに「マヂでアゲ」……道端に突如現れた「ギャルすぎる工事看板」が話題

      「とても茨城県」というつぶやきとともに、Xに投稿された一枚の写真。そこには、一般的な工事現場のイメー…
    3. この涙は懐かしさ……なのか? 展示「あの職員室」で特大感情を揺さぶられたレポート

      この涙は懐かしさ……なのか? 展示「あの職員室」で特大感情を揺さぶられたレポート

      学生時代、入りたくても入れない「聖域」のような場所だった職員室。その風景を再現し、自由に探索できる展…

    編集部おすすめ

    1. ホロアースNPCに「事件に関係した実在人物想起」と指摘 運営が謝罪し削除対応

      ホロアースNPCに「事件に関係した実在人物想起」と指摘 運営が謝罪し削除対応

      バーチャルタレント事務所「ホロライブプロダクション」を展開するカバー株式会社は公式Xにて11月25日、同社のバーチャル空間プロジェクト「ホロ…
    2. エビの代わりに「パイの実」投入!ロッテ公式が送るエビチリアレンジに目を疑う

      エビの代わりに「パイの実」投入!ロッテ公式が送るエビチリアレンジに目を疑う

      ロッテは自社商品の各ブランドサイトで、アレンジレシピを公開しています。その中に「パイの実」をエビチリソースと卵で炒め合わせた「チリ玉パイの実…
    3. 100tハンマー

      伝説のコンビを追体験 40周年「シティーハンター大原画展」上野で12月28日まで開催

      「シティーハンター」連載開始40周年を記念した原画展「シティーハンター大原画展~FOREVER, CITY HUNTER!!~」が、11月2…
    4. 宝塚・宙組特別メニューから“酢”消える 「酢が退団?」とSNSざわつく

      宝塚・宙組特別メニューから“酢”消える 「酢が退団?」とSNSざわつく

      11月22日午前、X(旧Twitter)のトレンドに「宙組公演特別メニュー」が一時浮上し、ファンの間で大きな話題となりました。きっかけとなっ…
    5. ミラノで開催「IQOS Curious X Sensorium Worlds」現地取材 五感に響いたIQOSの“世界観”

      ミラノで開催IQOS X SELETTI「Sensorium Worlds」現地取材 五感に響いたIQOSの“世界観”

      フィリップ モリスが、イタリアでイベント「Sensorium Worlds」を開催。今回は、この壮大なイベントの模様とともに「IQOS To…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト