「うちの本棚」、今回は岸裕子の代表作『玉三郎 恋の狂騒曲』。見かけは女、中身は男!? 美少年をめぐるラブコメディーです。

「別冊少女コミック」に昭和47年12月号~昭和54年12月号にかけて発表された連作スタイルのシリーズ作品。岸裕子の代表作のひとつでもある。単行本は当初、小学館の「フラワーコミックス」から全5巻が刊行され、現在は小学館クリエイティブから全3巻で刊行されている。


歌舞伎の女形として知られる「玉三郎」の名を主人公につけ、男でありながら並の女性以上の美しさ、女らしさを持っているという少女漫画らしいキャラクターに設定。
玉三郎自身は男としての自覚もあり、幼なじみの玲奈に恋心を抱いているけれど、近づく男たちは玉三郎に惚れてしまうというのが本作のお約束。日本舞踊の師範でもあることから着物姿で登場することも多く、玲奈の身代わりになったりと女装シーンも頻繁にある。

少女漫画に正面から男性同性愛の世界を持ち込んだ『風と木の詩』が連載されていた時期とも重なる作品でもあり、ホモセクシャルな話題も散見されるのだけれど、先に言ったように主人公である玉三郎自身にはその気がないので、そうした話題はネタとして処理されている感じ。とはいえシリーズの初期から美少年好きなキャラが登場したり、玲奈を愛しているのではあるが、男性にも惹かれたりするエピソードも後半には定番化してくる。

女装も似合う男性キャラクターというのは少なからず少年漫画、少女漫画には登場しているけれど、この玉三郎は女性にしか見えない外見という意味で、それらのキャラクターとは一線を画していたかもしれない(もちろんストーリー上で)。

また断続的に発表されたシリーズ作品でありながら結果的に単行本5巻というボリュームにまで発展したのは、それだけ読者の支持も集めた結果だろう。

岸の画はいわゆる少女漫画であり、こぼれ落ちそうな大きな目に長い睫毛が印象的。基本的にラブコメ作家でもあり、本作もコメディ作品である。少女漫画のこの流れとして、本作のあとに魔夜峰央の『パタリロ!』が位置するといってもいいかもしれない。

まだBLはおろかヤオイという言葉も誕生していなかった頃、本作のような作品が散見的に少女漫画誌を賑わし、読者の支持を集めていたことは、その後に来るBLというジャンルが少女漫画の読者にはもともと好まれるものだったことを証明しているのかもしれない。

作品名/玉三郎 恋の狂騒曲
著者名/岸 裕子


【文:猫目ユウ】
フリーライター。ライターズ集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。