「特撮映像館」、今回は妖怪討伐士、咲夜の活躍を描いた特撮時代劇『さくや妖怪伝』です。大女優が妖怪に扮して大暴れすることでも話題になりました。
80年代以降、シリーズものの特撮作品以外時代劇が目立っている印象が強いのだが、本作もそのひとつ。
撮影自体、時代劇はロケ地など難しいのではないかと思えるのだけれど、設定を作るのは現代劇よりもやりやすいのかもしれないし、「昭和ゴジラシリーズ」と違って対象とする観客の年代が子供だけではなくなったということも大きいのかもしれない。
また、ほとんどの作品で刀や妖術的なものが取り上げられていて、日本的な剣と魔法の世界観なのかもしれない。
本作で最初に思ったのは、主人公・榊咲夜を演じる安藤希のことだ。ルックスや演技は申し分ないのだが、どうにも声に迫力がない。
アニメ作品であればキャラクターのビジュアルと声のイメージを別々に選択できる(キャスティング)わけだが、実写作品ではそれができない分、ビジュアルのイメージは合っていても演技が物足りなかったり、今回のように声のイメージが違っていたりということも起こる。
まあこの年代の少女に迫力のある声を要求すること自体が、こちらのイメージが違っているのかもしれませんけどね。
監督の原口智生は原案も兼ねていて、シナリオにはクレジットされていないが監督のイメージで撮影されていたのではないかと推測できる。
また特撮は「特撮研究所」が担当し、特技監督には樋口真嗣が当たっているのだが、ここで面白いのは、大映の『妖怪百物語』を意識したと思われるシーンが2、3見られること。過去の作品へのオマージュとも言えるが、監督や制作スタッフ陣が『妖怪百物語』を見て育った世代ゆえとも感じられる。
公開当初から松坂慶子の怪演ぶりが話題になっていたと思うが、あるシーンでは松坂のひとり怪獣映画と化していたりもする。もっとももう少しキレた演技があってもよかったような気もするのだが。
冒頭で富士山が噴火するシーンがあるが、火山の噴火というよりは爆発物が破裂したような表現になっているのが残念。他のシーンでは特撮や合成がハマっていたので、どうにもここだけが気になってしまった。
ラストはシリーズ化もありそうな印象で終わっていたのだが、残念ながら制作はされなかった。が、ノヴェライズでは2003年に『新・さくや』という形で刊行されたようだ。
御庭番を演じた嶋田久作は『帝都物語』以外のハマり役だったのではないだろうか。このことも含めてシリーズ化されなかったのは残念な気がする。
監督/原口智生 特技監督/樋口真嗣
キャスト/安藤 希、山内秀一、嶋田久作、逆木圭一郎、黒田勇樹、松坂慶子、丹波哲郎、藤岡 弘、ほか。
2000年/88分/日本
(文:猫目ユウ)