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【建物萌の世界】第22回 弘前・洋館だけじゃない津軽の建物

update:

入り口02こんにちは。様々な建物や街並に萌える「建物萌の世界」でございます。記録的な大雪に見舞われた今年。雪に耐える建物……ということで、青森県は津軽地方の中心地、弘前へ足を運んでみましょう。個人的に大好きな町のひとつです。


  • 【関連:第21回 二・二六事件の建物を巡る】
     

    弘前というと、真っ先に思い浮かぶのは桜の名所である弘前城。そして明治の洋館(擬洋風建築)が観光スポットとして知られています。
    例えば、津軽の名棟梁堀江佐吉が手がけた青森銀行記念館や、アメリカ人の教会建築家ジェームズ・M・ガーディナー設計による弘前昇天教会など。どちらも雪が似合う建物です。

    外観02 昇天教会01

    昇天教会はレンガ造りの建物でありながら、礼拝堂との仕切りが襖で、上がり座敷があるのが特徴。19世紀アメリカ製のリードオルガンの伴奏でキャロリングを行うクリスマスのミサは、非常にロマンチックです。牧師さんも気さくな方で、面白い趣味の持ち主。

    もちろん、これらの建物も非常に魅力的なのですが、今回はあえて「津軽」を感じさせる建物をご紹介しようと思います。まずは弘前駅からイトーヨーカ堂(弘前バスターミナル)前を進んでいくと、弘前郵便局の手前に見えてくるのが小野金商店。現在は営業していませんが、縄やムシロなど、わら工芸品を取り扱う商店でした。1928(昭和3)年築で、赤い屋根を含めて津軽の典型的な商家建築といえます。

    小野金商店

    こちらは中心部の百石町にある百石町展示館。1883(明治16)年、角三(かくさん)呉服店として建てられた土蔵作りの店舗です。1917(大正6)年に津軽銀行(後に青森銀行に合併)が購入し、銀行の店舗(津軽銀行本店~青森銀行津軽支店)として1998(平成10)年まで使われていました。2001(平成13)年に弘前市に寄贈され、展示スペースなどに活用されています。

    百石町展示館

    内装は銀行時代の木製カウンターなどが残されて、外見と中身のギャップが面白い建物です。また、喫茶スペースが設けられており、ブルターニュ風そば粉のクレープ「ガレット」が食べられます。従業員の服装もカフェーの女給さんみたいな格好で、制服萌えの方にもにもお勧め。この向かいには、「水曜どうでしょう」の「対決列島」青森編で登場した丸ごとリンゴパイ「気になるリンゴ」を作ってるお店もありますよ。

    さて、ここから羽州街道(旧国道7号線)に入り、昔からの繁華街である土手町を上っていきます。通り抜けた先にあるのが松森町。この辺りも昔は栄えていたのですが、今はちょっと落ち着いた町になっており、そのお陰で古い建物が多く残っています。

    ここでまず目につくのが、よしや質店と黒沼質店。津軽の伝統的なアーケードである「こみせ」を備えた建物です。よしや質店は明治期の建築、黒沼質店は1918(大正7)年の建築。

    よしや質店外観 黒沼質店

    こみせというのは、1階部分の軒を大きく張り出し、積雪期でも人が通れる通路を確保する為に設けられたもので、新潟の「雁木(がんぎ)」などと同様のものです。ただ、こちらの方では地吹雪などがある為に、柱の間に「蔀(しとみ)戸」と呼ばれる取り外し式の板戸を取り付け、雪の吹き込みを防止するような構造になっています。

    こみせ内部 入り口02

    津軽の地吹雪は視界を奪うほどなので、このこみせの構造がないと通路が確保できなかったんですね。

    吹雪

    他にもコンビニの向かいには、今は営業していないようですが、煙突の形状から鍛冶屋さんであったろう建物なども。時の流れにより、繁華街から少々離れたことで、結果的に昔の建物が多く残ったのは喜ばしいことです。

    鍛冶屋らしき家(鈴木鋸刃物店?)

    さらに進んでいくと、こんな素敵な床屋さんがあります。昭和初期の建築で、看板建築的な店構え。内装もあまり変わっていないとか。

    大和理髪館外観 大和理髪館入口

    この向かいにあるパチンコ屋さんの2階には、懐かしい感じのレストランがあって、個人的にお気に入りです。

    松森町の交差点に存在感ある姿を示しているのが、この高木静一商店。切り抜き文字の看板が印象的な、1929(昭和4)年生まれの建物は、肥料や農薬を取り扱うお店です。金網に木製の金文字を貼付けるこの種の看板は、大正から昭和初期にかけて良く見られたもの。電話番号も昔のままで、小野金商店同様、この時期の津軽に於ける商家建築の典型を見ることができます。

    高木商店外観

    このような平入(屋根の棟と平行の面が入口になる構造)の商家の場合、軒を深く出す為に梁や腕木を壁から突き出し、支える桁を外に出して支える「出桁造り」というものになっています。これは全国的に見られるものですが、津軽の場合、さらに桁が二重になっているのが特徴です。桁の間隔はほとんどないので、軒の深さは変わりません。

    2階部アップ02 平尾松月堂2階部アップ

    桁と支える腕木が上下に配されているので、雪の重みに耐える為の工夫でしょうか。他の暖かい地域では見られない構造です。

    あまり観光客が歩かない場所を中心に、弘前の建物をご紹介してみました。弘前にはこれだけでなく、素敵な建物がまだまだあるので、これからも折りを見てご紹介できればと思います。

    (文・写真:咲村珠樹)

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