FAI公認の世界選手権となって通算10シーズン目となる2017年のレッドブル・エアレース。先に発表されたアブダビでの開幕戦(通算75戦目)まで、あと3週間。ついに年間スケジュールが発表されました。今シーズンはどんな展開になるでしょうか。開幕前の話題をピックアップしてみましょう。
■開幕戦のアブダビからインディアナポリスまで、全8戦のスケジュール
2017年のスケジュールは以下の通り。2月のアブダビから10月のインディアナポリスまで、全8戦で行われます。
開幕戦:アブダビ(2月10日~11日)
第2戦:サンディエゴ(4月15日~16日)
第3戦:千葉(6月3日~4日)
第4戦:ブダペスト(7月1日~2日)
第5戦:カザン(7月22日~23日)
第6戦:未定(ヨーロッパ・8月12日~13日)
第7戦:未定(ヨーロッパ・9月2日~3日)
最終戦:インディアナポリス(10月14日~15日)
千葉大会は6月3日〜4日、そして2006年第4戦サンクトペテルブルク大会が中止、2015年に一度ソチが設定されたのちにキャンセルされたロシア開催が、カザン(ロシア連邦・タタールスタン共和国の首都)で実現しました。サンディエゴは2007年〜2009年(2007年・2008年は現在解説者のポール・ボノム氏、2009年はニコラ・イワノフ選手が勝利)以来の開催となります。
ヨーロッパでの2戦が開催地未定となっているのが気になりますが、昨年初開催された「モータースポーツの聖地」インディアナポリス大会は最終戦に設定。会場となるインディアナポリス・モータースピードウェイは、開催された各ジャンルのレース勝者の名がパネルに刻まれています。2016年のマティアス・ドルダラー選手に続き、名を刻むのは誰になるでしょうか。
■アジアからも参戦・新加入のパイロット
2017年シーズンは、マスタークラス2名、チャレンジャークラス3名の合わせて5名のルーキーが参戦します。チャレンジャークラスには、2人目となるアジアからのパイロットも。それぞれ簡単にご紹介しましょう。
いよいよマスタークラスにステップアップ……という言葉がふさわしいのが、2015年のチャレンジャークラス年間王者、フランスのミカエル(ミカ)・ブラジョー選手(ナンバー11)です。1987年生まれの29歳。最年少でエアロバティックス(曲技飛行競技)のフランス代表に選ばれた優秀なパイロットで、2016年の世界エアロバティック選手権でもフランスの団体優勝に貢献しました。2016年は新規にスタートした「マスター・メンタリング・プログラム(MMP)」に参加し、2014年のマスタークラス年間王者であるナイジェル・ラム選手のチームで、マスタークラスに参戦する為のチームメネジメントやレース機への習熟をみっちり行ってきました。2017年はラム選手のMXS-Rとチームメンバーの一部を受け継いで参戦します。これまでのルーキーとは違う形での参戦となる為、そのパフォーマンスに注目です。
昨年9月、ヘリコプター事故で急逝したハンネス・アルヒ選手の代役(リザーブパイロット)として、2016年の第7戦インディアナポリス大会からマスタークラスにステップアップした、チリのクリスチャン・ボルトン選手(ナンバー5)も2017年、正式なマスタークラスパイロットとして年間通して参戦することになります。室屋義秀選手と同い年となる、1973年生まれの43歳。2015年までチリ空軍の中佐として、軍のエアロバティックチーム「アルコネス(ファルコンズ)」の隊長を務めていました。現在は退役し、プロのエアショウパイロットとして活動しています。2016年千葉大会のチャレンジャーカップ勝者でもあるので、顔を覚えている方も多いでしょう。機体は昨年に引き続き、フアン・ベラルデ選手が2015年に使用していたエッジ540V2を使用します。
チャレンジャークラスには、2014年のハリム・オスマン選手(マレーシア)以来、2人目のアジア人パイロットとなる、香港のケニー・チャン(蒋霆)選手が参戦します。1989年生まれの28歳で、13歳から飛行機の訓練を受け始めたといいます。17歳の時、ロンドンのテムズ川で行われたレッドブル・エアレース(2007年第6戦・勝者はアメリカの故マイク・マンゴールド)を見て、エアレースパイロットに憧れたという、いわばケビン・コールマン選手と同じ「エアレース第2世代」と言えます。19歳でキャセイ・パシフィック航空に入社し、ボーイング747-400の最年少パイロットの1人として活躍したのち、現在はボーイング777のパイロットの傍ら、エアショウで飛んでいます。
ハンガリーのダニエル・ジェネヴェイ選手は、1978年生まれの38歳。エアロバティックス(曲技飛行競技)のハンガリー代表チームに所属しています。カリブ海にルーツを持つジェネヴェイ選手は、普段はエールフランスのパイロット。パイロット組合の代表を務めた経験もあります。
フランスのバティスト・ヴィーニュ選手は1985年生まれの31歳。エアロバティックス(曲技飛行競技)で世界最高レベルを誇るフランス代表チームのメンバーで、過去にはニコラ・イワノフ選手、フランソワ・ルボット選手、現在はミカ・ブラジョー選手とチームメイトです。現在は曲技飛行も行う飛行学校・航空会社で飛行教官を務めています。
■年間王者争いはどうなる?
開幕戦が2月になり、2016年シーズン終了から期間が短くなったこともあり、各選手の機体改修は小規模な手直しが多く、あまり大きな動きはありません。開幕戦アブダビと第2戦サンディエゴとの間、そして第2戦サンディエゴと第3戦千葉との間がそれぞれ2ヶ月空いているので、この間に本格的な改修がなされていくものと思われます。
しかし、そんな中で意欲的だったのがカービー・チャンブリス選手。エンジニアとともに外見からも判る改良を施しています。ウイングレットをより表面抵抗の少ない形に変更して軽量化、また車輪カバーも新設計して直線での速度向上を図っています。また、クーリングシステムを変更し、エンジンとは別系統でオイルクーラーを冷却するダイレクトクーリングシステムを取り入れました。具体的な形状については明らかになっていませんが、フアン・ベラルデ選手の機体(2015年までポール・ボノム選手が使用)のように、カウリングにオイルクーラー専用の冷却空気取り入れ口を設ける方向で改修しているものと思われます。確実に戦闘力は増すでしょうから、年間王者争いも2016年の8位から、さらに上位に食い込んでくる可能性があります。
また1月12日、マット・ホール選手からの「エッジ540を導入した」という発表は、驚きをもって迎えられました。機体の熟成が間に合わない為、開幕戦のアブダビはMXS-Rで臨むそうですが、シーズンの途中でエッジ540に機体をスイッチすることになります。今までの2年間、MXS-Rで連続して年間2位になっていたところでのスイッチが吉と出るか凶と出るか。これまでのエッジでの飛行経験がわずか2回(ドルダラー選手の機体を借りて15分ずつ)しかない為、不確実な要素が増えますが、元々爆発的な速さを持っているので、機体へ早く慣れることができれば、年間王者の有力候補となるでしょう。
2016年の年間王者に輝いたマティアス・ドルダラー選手。速さに確実性が加わったことで、千葉を除く7戦で表彰台に乗るという安定感が目立ったシーズンでしたが、今年も年間王者の有力候補であることは間違いないでしょう。しかし、まだポール・ボノム氏(2009年・2010年・2015年王者、現解説者)以外に連覇を達成した選手はいないので、2017年は「ディフェンディングチャンピオン」という重圧とも戦っていくことになります。機体やチーム体制については「勝っている時には変えるな」という格言に基づいて、今のところ全く変更点はないとのことです。
2016年の千葉大会に勝利し、期待も高まる室屋義秀選手ですが、機体の速さは十分なので、精神面での安定が年間王者へのカギとなります。「一発勝負が好き」という室屋選手だけに、最後の一発勝負となるファイナル4に毎回残る為、それまでのラウンド・オブ14、ラウンド・オブ8でいかに余力を残して「勝ちに徹したフライト」ができるか。毎回全力を傾注すると精神的に疲れてしまうので、対戦するパイロットに応じて速さをコントロールすることができれば、年間王者争いで優位に立てるでしょう。
過去5年での年間王者争いで3位以内となっていた5名のうち、2017年シーズンを飛ぶのはドルダラー選手とホール選手の2名のみ。あとは横一線といってもいい状況です。各チームの機体も改修を重ねて速さを増しています。個人的にはドルダラー選手、ホール選手、室屋選手の他、チャンブリス選手やソンカ選手、イワノフ選手、マクロード選手、ベラルデ選手が年間3位以内の争いに加わってくるものと思われます。
いろいろ楽しみな2017年のレッドブル・エアレース、開幕戦は2月10日(予選)・10日(決勝)、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで行われます。
(咲村珠樹)